ニュースポーツ
貰った廃材の入った箱を抱え、俺はディンとショーの元に戻った。
「持たせたな!」
「いえ。そんな時間は経ってませんよ。」
「で、それは何だよ?見たところ、単なるガラクタにしか見えないけど…」
はたから見れば、そう見えるだろう。
しかし、少し違う。今からそれを見せよう。
「場所は…よし、アソコでいいだろう。地面が平で、周りに何も無いしな!」
手頃な場所を見付け、準備に取りかかった。
「それじゃあ、早速…」
俺は貰ってきた棒状の廃材を、そこに並べ始めた。
一通り並べ終える。
「コレでよしと!あっ、しまった。アレが無いな…」
そう。迂闊にも、もう1つの、肝心な物が無い事に今になって気付いた。
「先程の子供達にでも借してもらうか?」
と、思っていたら、近くの草むらに、
「おっ、丁度いいな!」
草むらの中に、欲している物があるのに気付いた。
それを拾う。
それは汚れてはいたが、穴等は空いておらず、固くケリキュウの物と比べると、重みがあった。
ショーによると、
「スローイングボールのボールですよ!」
とのこと。
スローイングボール
それは、元の世界で言うところの、バスケットボールに近いスポーツだ。
ケリキュウやブローボールにこそ劣るが、コレもまた、この国の人気スポーツの筆頭だという。
よく見ると、近くにスローイングボールのゴールが設置されているのに気付いた。
「汚れ具合から見て、そこそこの期間放置されてたっぽいな。捨ててあるのか、もしくは、誰かがココで遊んでいて、忘れて行ったってところか?…」
「…まぁいい、折角だから、使わせて貰うとするか!」
とはいえ、このまま使うわけにはいかないので、スローイングボールを、公園内にあった井戸で洗って、付いている泥汚れを落とした。
「そんなボールどうするんです?」
「まぁ見ててくれ!」
そおこうしている間に、準備が出来た。
棒状の廃材10本を、逆三角形に見えるように並べたら、そこから数メートル離れた地面に線を引いた。
そして、ディンとショーにやり方を説明した。
「コレをあの棒に投げて転がして、棒を倒せればいいんですよね?」
「そう!」
「では…」
先ずは、ショーが最初の一投を投げた。
ショーの転がしたボールは、最初は棒めがけ転がったが、途中で曲がってコースを外れた。続いての二投目も同じく外れた。
結果、記録は0本となった。
「あぁ…思ったよりも難しいですね…」
「だろう⁉よし、続いてはディンだ!」
「お、おう…」
次はディンの番だ。
ボールを手にして構える。
「それ!」
掛け声を話しながら投球するディン。
初めは、狙いがずれたように転がったボールだが、線とピンの中間付近で弧を描く様に曲がり、ピンの方に向かった。
そして、
カシャーン!
ボールはピンに命中した。3本残ったが、他の全て倒れている。
「オー!上手いぞディン!」
「そ、そうかな…」
「大したもんだよ。僕なんか1つも倒さなかったのに…」
それからディンは、二投目を投げて、残った3本も倒した。
「よし、スペアだな!」
「スペア?」
「ああ。一投目で全部倒せればストライクだ!で、二投目で残ったやつを、全部倒した場合はスペアと呼ぶんだ!」
そう。コレはボウリングだ。
先程見せた、ディンの弧を描く様に曲がり、狙った所まで転がせる技術。それを見て、ボウリングに向いてるのではと思ったのだ。
結果は、またもや俺のよみ通りとなった。
それから、3人でボウリングをプレイした結果、成績はディンが圧倒的だった。
狙いを外すことは粗なく、途中からはストライクを連発していた。
「なかなか面白いですね、コレ!」
「だろう!」
俺等はボウリングに熱中した。
まぁ、専用の設備なんて無いので、いちいちピンを自分達だ並べないといけないのが、少々面倒だが…
と、俺等がやっていると、近くの子供達が、
「おっちゃん達何やってんの?」
と言って、やって来て。
おっちゃんというフレーズが些か気にはなったが、ボウリングのやり方を教えてあげた。
最初は
「なんだ簡単じゃん!」
等と言っていたが、いざやってみるとこれがまた意外と難しい。
で、ディンが手本を見せた。
ディンのプレイを見た子供達は
「スゲ~!」
「どうやったの⁉」
「やり方教えてくれよ!」
と、引っ張りだこ状態となった。
「おいおい!引っ張るなって…」
ディンは困り顔をしているが、何処か嬉しそうだった。
今まで様々なスポーツをして、その全て挫折してきたディンにとって、こんなにも羨望の眼差しを向けられたことはなかったのだ。
それからディンは、子供達にコツを教えてあげている。その顔は、今までにない位、生き生きしている。
「ディンくん、元気になったようですね!」
「だな!」
子供達に囲まれ、とても生き生きしているディンを見守る俺とショー。
これが、彼の人生を大きく変える事となったのだが、この時の俺は、まだ知る由もなかった。