橋の上
ディンを探して、俺とショーは町の方まで来た。
が、
「今日は、やたらと人が多いな…」
町の方は、多くの人で賑わっていた。元々多かったが、今日は一層多い。
「今日は、観光客等が多い日ですよ。」
と、ショー。
何でも、今日から大きな試合が行われるらしく、観光客も沢山駆けつけている上に、他国に出ていた選手も、試合のために戻って来ているとか。なので、何時もより人が多いのだ。よりにもよって、こんな時に…
この中から探すのは、骨が折れるな…
これは、闇雲に探してても、埒が明かないな。何か、当たりを付けないとな。
「何処か、ディンが行きそうな所に、心当たりは無いかショー⁉」
側のショーに訪ねた。
「そうですね…あっ、そういえば…」
何処か、心当たりがあるようだ。
「この近くに川があるんですけど、ディンくん、そこによく行くって、前に言っていたような…」
「川か…よし、そこに行ってみよう!」
ダメ元で、俺等はその川の方に行った。
川には、ほんの数分程で到着した。その川は、そこそこの広さがあり、川原もあった。
「ココか。思ってたより広いな!」
「ええ。この国の水源なので。向こう側に渡るには、あそこにある橋を…あっ!」
説明の途中で、大声を上げるショー。
「どうした、急に大声上げて⁉」
「いました…」
「えっ⁉…」
「ディンくんですよ!ほら、アソコに!」
ショーは川の上流の方を指さした。
指の指す方には、橋が架かっていた。鉄骨ではなく、石造りの物だ。俗に言う、眼鏡橋っというやつだ。
言う通り、そこにはディンがいた。
「本当だ。しかし、何だってあんなところに…」
そう言った直後、嫌な予感が走った。
「まさか、アイツ…」
そう言った直後、俺はディンの元に走った。
走っている最中、
「(早まんじゃねーぞ!)」
と、何度も思った。
そして、橋の入口に着いた。
「はぁはぁ…ディンは…」
「先程から動かず同じ所にいますよ!」
と、ショーが言った。
短い距離とはいえ全力で走ったので、息があがっている俺に対して、平然としているショー。
それだけで、運動神経の差がよく現れている。普段からトレーニングを積んでいる彼と俺とでは、基礎体力からして違うのだろう。
それはさておき、ディンはというと、
「……」
橋の上の中央で、ただ無言で空を眺めながら立っている。
「何をしようとしているんだ?」
等と、思っていたら、ディンは橋の欄干に近づき、欄干に手をやった。
「ヤバい!」
と叫ぶやいなや、俺はディンの元へ、
「早まるな!」
と、叫びながら駆け寄った。彼が、川に身投げすると思ったからだ。
が、肝心のディンは、欄干に手をやった後、身投げするどころか、その場にしゃがみこんだ。
「「へっ…」」
俺とディンは、同時に声を漏らした。
そして俺は勢いそのまま、欄干に突っ込んでしまった。当然、欄干も石で出来ている。なので、かなりの痛かった…
しかも、その勢いで逆に俺の方が、橋から落ちそうになってしまった。
「ヒーーーー‼」
「危ない‼」
落ちそうな俺の身体を、ディンがすかさず掴んだ。
直ぐ様、ショーも駆け付けて来てくれた。2人がかりで俺を引き上げてくれたので、俺は何とか、落ちずにすんだのだった…
「はぁ…はぁ…」
「アンタは、家の店のお客さん!それに、先輩も!」
「ディンくん…」
「身投げを止めようとして、自分が落ちそうになるとはな…」
「身投げ‼俺が⁉何のことだよ?」
「⁉何のことって、思い詰めた顔で、しかも、欄干に手をやってたから…」
「いや俺は、靴紐を結ぼうとしただけだよ…」
「靴紐…」
「そう。ほら!」
と、靴紐を指差すディン。
聞けば、靴紐がほどけているのに気付いたので、結ぼうと思って、より掛かるために、欄干に近寄ったとの事。
何と、ただそれだけであった…
「紛らわしい…人騒がせな…」
「驚いたのはコッチのほうだよ!なんだって急に…」
「ディンくん。君が思い詰めた顔で出ていったから、嫌な予感がして、追いかけてきたんだよ!」
「先輩…そうでしたか…」
ディンは俺とショーを、交互に見てから続けた。
「何だか、誤解があったみたいですけど、俺はただ単に、気分転換に来ただけですよ⁉」
「気分転換⁉」
「そう、気分転換。よく来るんすよ、ココには!」
その様子から見て、本当のようだ。
「どうやら、俺の早とちりだったみたいだな…」
本当に身投げすると思って、かなり焦った。が、違うと解ってか、急に力が抜け、どっと疲れが出た。
しかしコレって、漫画とかでよくある話しだな。まさか、実際に体験するとは、夢にも思わなかった…
そんな俺を見てディンは、
「取り敢えず、場所を変えよう!」
と言ってきた。断る理由もないので、合意した。
俺等は、近くの公園に場所を移した。