目標
「そうか…ディンのヤツ、足を…」
オヤジさんの定食屋に戻って来た俺達は、オヤジさんに今日あったこと、そして、ディンの事を、説明した。
俺とリリーナが話して、オヤジさんが聞く。そして、その側で出された菓子を美味そうに食うレオ、といった構図だ。
店の方は準備中にしてある。入口にも、準備中の札を下げてあるので、店内には俺等以外、他に誰もいない。
「かなり落ち込んでおられました…」
「だろうな。がんばって練習してたのに…」
「で、ディンは?」
「さっき帰ってくるなり、自分の部屋の中に、こもっちまったよ…」
と、オヤジさんがディンの部屋の方を向きながら言った。
あの後ディンは、俺等が戻って来るよりも早く、帰宅したらしい。
「はぁ…結局、ケリキュウも駄目だったか…」
ため息交じりに呟くオヤジさん。
「?「も」って、どういう事だよ?」
「あぁ…実は、ディンは今までも、色々なスポーツに挑戦してきたんだ!」
「そうなんですか⁉」
「だけどだ…その全て、挫折してるんだよ…」
「挫折!…」
「そう。挫折してるんだよ、俺と同じでな…」
「そういえば、オヤジさんも昔、色々とやってたんだっけな?」
「ああ。恥ずかしながら、挑戦したスポーツの全部で、毛躓いたけどな…」
少し悲しげな顔をするオヤジさん。
奇しくも、息子が自身と同じ様なパターンになってしまったからな…
言っちゃ悪いが、蛙の子は蛙ってヤツか…
トンビが鷹を産む、的なパターンにはならなかったようだ。
そうこう話している内に、日が暮れてきた。
定食屋の方も、夜の営業時間になった。結局、俺等はそのまま、この日も店の方に厄介になることになったのだった。
勿論、店の手伝をする上でだが。
この日も結構な数の、客が来た。ココは表通りから離れており、店自体も小さめだが、美味くて安い事もあって、夜になると結構繁盛するのだ。
後、
「相変わらず、いい食いっぷりだな!よし、オマケだ!コレも食ってくれ!」
「ヤリー!」
「サンキュー、オヤジ!」
「相変わらず気前のいいな!」
「本当。金がねー時は、オヤジさんが神様に見えっぜ!」
と、常連客と親しげにするオヤジさん。
彼の人柄も人気の秘訣だろう。
そんなオヤジさんの姿を見ながら、前回と同様に、リリーナは接客を担当し、俺は片付けや調理の補佐に徹した。
因みに、忙しくてもディンは、最後まで出てくることはなかったが、それを口にする者はいなかった。
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翌日。定食屋の奥の、生活スペース。
今日、オヤジさんの定食屋は定休日。
この日を利用し、ディンを元気づけられないかと皆で話している。その中にはオヤジさんは勿論、ショーもいる。わざわざ、チームの練習を休んで来てくれたらしい。
因みにレオは、今日は体操教室に預けた。身軽なレオには、ピッタリだろう。
昨日みたいにならないよう、オヤジさん協力の下、弁当とオヤツを沢山持たせた。
で、肝心のことはというと、ディンはケリキュウを諦め、生きる目標が無くなってしまった。
なので、
「それならば、新しい目標が出来れば!」
と、いう意見が出た。
悪くない案だ。
しかし…
「何か新しい目標と言っても、具体的には?…」
「…そうだな…」
「しかも、足を悪くしてるとなるとな…」
「スポーツ系は難しいですね…」
「……」
と、やはりいい案は浮かばなかった。
「聞けば、足を使っていると、突然痛みが起きるらしい。だから、足に負担がかからなければ…」
「しかし、スポーツは足を使うものだらけだぜ⁉いやむしろ、使わない競技自体ないんじゃないのか?」
「…」
「足を使わないスポーツ…難しいですね…」
足の負担が少ないスポーツ…
確かに難しい…イヤ、むしろあるのか…
3人よれば文殊の知恵と言う(正確には、4人だけど…)が、いい案は出ないでいる。
するとそんな中、ディンが重い足取りで部屋から出て来た。退団したとはいえ、元チームの先輩である、ショーへの挨拶もソコソコに、
「ちょっと出かけてくる…」
それだけ言うとディンは出掛けていった。
そんな彼を見送った後、
「何処行くんでしょう、ディンさん?」
「さあ…でも思い詰めたかおしてたが…」
「まさか…」
皆が皆、嫌な予感をした。
「俺、行ってくる!」
「僕も行きます!」
ショーも名乗り出た。
この辺りの、道に詳しい彼がいた方がいいかもしれないな。
「ああ、頼む!リリーナはココに残っててくれ。ひょっとしたら、入れ違いになって、戻って来るかもしれないしな!」
「分かりました!」
「よし。それじゃあ、行こうショー!」
「ハイ!」
俺とショーは、ディンを探しに出た。