故障
「故障したって、本当なのかいディン君⁉」
「…」
コクッ
ディンは痛む足をさすりながら、無言で頷いた。
「い、何時からだい?」
「…一月程前から…」
ディン曰く、口ではうまく説明出来ないが、一月程前から足に違和感が出始めたらしい。
最初は、単に疲れが溜まっているせいだろう、筋肉痛の様なものと、軽視していた。
しかし、時間が経つにつれて、次第に痛みが出始めたらしい。
正確に言うと、普段はなんともないが、突然、痛みが出るようになった。足を踏み出した時や、走っている最中等、足を使っている時にだ。
先程追い掛けている時も、急に痛みが出たという。
スクールで見かけて時もだ。逃げるように方向転換した際、一瞬動きが止まったのはそれが原因だ。あの時も、急に痛みだし、それで動きが止まったのだ。
「医師には相談したのかい?」
「しましたよ。そしたら…」
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先日。
国内のとある診療所。
この国は、大陸一のスポーツ大国が故に、医療機関もそれなりに充実している。
診察室にて、ディンと向い合せに椅子に座っている、一人の初老の医師。
「う~む…」
「先生、どうなんですか俺の足⁉」
ディンの足を診察する医師と、不安そうな顔のディン。
しばらく足を見ていたが、やがて顔をあげた。
「これは酷いね!足の筋肉に異常が生じている。それが原因で、痛みが出るんだ!いったい何をしたんでね⁉」
「シュート力を付けるため、足にオモリを付けて過ごしたりと、足中心に筋トレを…」
「それだ。それのし過ぎで、異常が起きたんだ!」
「…」
ショックを受けるディン。
僅かな望みをかけて、医師に聞いた。
「…な、治りますか?」
「残念だけど、不可能だ。今の医療技術では、手の施しようがない!」
と、キッパリ言う医師だった。
「そんな…」
「まぁ、日常生活ならあまり支障はないだろう。が、ケイキュウみたいな、足を酷使するスポーツは無理だよ!」
「…」
「取り敢えず、痛みを和らげる塗り薬を出しとくから、それをだね…」
淡々と説明する医師。
しかし、ボーゼンとするディンの耳には、途中から、何も入らなかった。
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そして、時間は今に戻る。
「そんな事が…」
他人事ながらも、ショックを受けた顔のショー。
チームの後輩に起きた事に、少なからず衝撃を受けたようだ。そこに人の良い彼らしさが出ていた。
「しかし、キッパリと言う医師だな…」
「ウソは付かわず、本当の事をハッキリと言うタイプらしいよ。悪いところがあればあると、治らないものは治らないと。その分、腕はいいみたいだけど…」
「ディンくんは、誰よりも特訓に励んでいたのに…」
「ええ。俺は皆と比べると足が遅いっす。どんなに頑張っても伸びない。ならせめて、確実にゴールを決めれる様にと、キック力を付けようと、練習以外も足を鍛えまくった。で、その結果が足の故障!」
薄っすら涙目になりながら言うディン。
「というわけで、この足では試合は出来ない。それどころか、皆の足を引っ張るだけだ。なので、退団する事にしたんですよ。ここ数日考えて。」
そういうことか。
元気が無かったのは、それが原因か…
「という理由です。ショー先輩、お世話になりました!」
「あっ、ディンくん!…」
立ち去っていくディン。
俺等はかける言葉がなく、引き止められなかった。
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それから俺等は近くのカフェに入った。
「ディンさん、気の毒でしたね…」
「あぁ…」
「補欠ながらも、懸命にやっていたのに…」
店内の明るい雰囲気に反して、俺等の気は暗かった。
なんとかディンを元気づけられないかとアレコレ話したが、いい案は出なかった。
「取り敢えず、他のチームメイトにも、相談してみます!このまま、さよならって訳には行きませんから!」
「ああ、頼むよ!」
「では!」
そう言うとショーは、伝票を手に取った。
「あっ!」
「ココは払っています。手伝ってくれたお礼です!」
「そんな、悪いですよ!」
「気になさらないで下さい。それよりも…」
「?」
「あの子はどうしたんですか?」
「あの子って…!レオくん⁉」
「そういやぁ、スッカリ忘れてた!」
「もう、スクール終わってる頃ですよ!」
それから、急いでスクールに向かった。
すると、
ガッガッ
「うめ~!」
露店で飲み食いしてるレオがいた。
側にはスクールの職員がいた。聞くと、
・食べ物をねだられたので、連れてきた
・金は建て替えておいた
との事。
結局、ショーに奢ってもらった分よりも、コッチのほうが高く付いたのは言うまでもなかった…