退団
「退団した!」
「ディンさんがですか?」
「はい…」
何でも少し前に、チーム監督の方に、退団届を提出し、理由も話さないまま、出て行ってしまったのだという。
「何でまた急に…」
「僕にもわかりません…でも、仮に辞めるのはいいとしても、理由が知りたくて、それで探しているんです!」
「そういう事か…」
「確かに昨日のディンさん、お店の方で会った時、元気なさそうでしたよね⁉」
「ええ。それは僕も、気にはしてたんですが……」
再び昨日の彼の様子を思い返すした。
定食屋で見た彼の顔は、暗くて生気もなった。
それから十数分後。
「…いないな…」
1人そう呟くと、俺は再び町中を歩き出した。
目的はディンを探すことだ。
ショーから、ディンがチームを退団したと聞き、じっとしていられなくなった俺等は、手分けしてディンを探しているところだ。
レオは、あのままスクールの方に預けた。今は、他の同世代の子供達と一緒に練習中だ。
それはさておき、
「どこに行ったんだ?そうと知ってれば、あの時、引き止めたものを…って、今更言ってもしょうがない。」
ディン探しを再開し、更に十分程が経過した頃。
「⁉いた‼」
ディンを発見した。
彼は、スポーツ用品店を寂し気な顔で覗いていた。
近づいて俺が声を掛けると、
「‼アンタは…」
「まったく、探したぜ!…」
俺が探していた経緯を話すと、
「そうか…先輩から…」
「心配してたぜ⁉」
そう伝えるとディンは暫し沈黙した。
ディンは少ししてから、再び口を開いた。
「聞いた通り、俺はチームを辞めた。」
「何だって急に?」
「別に何だっていいだろが⁉」
「いいってことないだろう?」
「部外者のアンタには関係ないだろう!」
確かに俺は部外者だ。
だけど、だからといってこのままって訳にはいかない。
「それはそうだけどよ、知ってしまった以上はな、このまま黙っていられないんだよ!」
「…」
「オヤジさんは辞める事を、知ってんのか?」
「‼……」
顔をしかめるディン。
「どうやら、知らないみたいだな⁉」
「…兎に角、放っておいてくれ!」
「あっ!」
駆け出すディン。
俺も直ぐ様後を追うが、俺とディンの距離はどんどん離れていく。やはり、スポーツやってるだけに、足は速い。
「くっ、(せっかく見つけたのに、また見失って…)」
そこまで思っていた時だった。
突如、ディンが足を止めた。
「はぁ、はぁ…何だ、どうしたんだ?」
息切れし、疑問を抱きながらも、俺はディンに近づく。
側まで行くと気付いたが、ディンの顔は苦痛を浮かべていた。
「ぐっ…クソ…また…」
「どうしたんだよ?」
見ると、右足を押さえている。
足を押え、そして辛そうな顔。
そういえば、さっき練習場で見かけた時も、何処かおかしかった。
「まさか…」
「……」
俺は、おおよその事態を察した。
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「おーいリリーナ!」
「タイガーさん。あっ、ディンさんも!」
俺はディンを連れて、一先ずリリーナの元に。
彼女は、観光客向けの露店が立ち並んでいる通りを担当していた。
前もって、誰がどのエリアを探すかは決めており、見つからなくても、時間になったら集合すると話してあった。なので、リリーナは比較的すぐに再開できた。
「ディンさん、何で急に辞めてしまわれたんですか?」
「リリーナ、それはショーと一緒に話すよ。一先ず、集合場所に行こう!そろそろ、集合予定時刻だしな。」
「あっはい!」
3人で集合場所に行くと、ショーは既に来ていた。
しかも、彼のファンと思しき子供達にサインをしてあげていた。
ファンサービスってやつだな。
俺等に気付くと子供達に軽く挨拶した後、俺等の元に駆け寄った。
「見つかったんですね!」
「ええ。」
「ディン君、何だって急に退団なんて…」
「先輩…それは…」
言いにくそうなディン。
「俺が話そうか?」
「待った!俺が…」
そう言って、足を踏み出すディン。
その途端、
ズキン!
「うっ…」
また顔をしかめる。
「ディン君…まさか…」
「あぁ、そのまさかだよ!」
少しためてから俺は続けた。
「ディンは足を故障してしまったんだよ。それで、チームを辞めることしたらしい!」
と告げた。
少々半端ではありますが、今年はここまでです。
少し早いけど、良いお年を!