体験
カキーン!
打撃音が、練習場に響いた。
「おお、結構飛んだぞ!」
「スゴいレオくん!」
ココは、ブロウボール打者練習場。前にも言ったとおり、バッティングセンターのような施設だ。
俺等はココで、レオにバッティングの体験をさせている。
昨日の夜は、オヤジさんの定食屋を手伝ったお礼とばかりに、一晩厄介になった。
そして今、当初の目的である、レオにスポーツを体験させる為、ココに来ている。
ブロウボール打者練習場は、プロも練習に利用しているが基本的に、料金さえ払えば誰でも利用可能だ。
因みにレオがいるのは、子供用のコースだ。
こっちは、昨日みたいな投石機の様なものでなく、パチンコみたいに、ゴム動力で飛ばすシステムになっている。とはいえ、ゴムでもそこそこのスピードは出るの。
練習を続けるレオ。
最初こそは、空振りしてたが、直ぐにコツをつかみ、ボールをバットに当てられるようになった。
「レオくん、筋いいみたいですね!」
「ああ。元々、運動神経はいいからな!」
と俺達が話していると、レオが打ったボールが、ホームランスペースに入った。
「おっ、ホームランだ!」
「わぁ。レオくん、景品もらえるみたいだよ!」
「ん⁉」
子供用コースのネットには、ホームランスペースというものがあり、そこに打ったボールが入ると、景品がもらえるという、システムになっている。
「景品?何だ食いもんか?」
「お前、それしかないのかよ…」
「はは…ほら、こっちだよ!」
景品を貰いに行くリリーナとレオ。
待っている間、俺は何気なく外に目をやった。
すると、
「⁉アソコを歩いてんのは…」
オヤジさんの息子のディンが、トボトボと歩いていた。何やら、元気なさげだ。
俺等が起きる頃には既に、朝練で朝早くから出かけていったと、オヤジさんが言っていた。
俺が声をかけようとするとディンは、
「⁉」
俺に気付くやいなや、急に方向転換し、一瞬止まったと思ったら、そのまま逃げるように立ち去ってしまった。
「?どうしたんだ…」
疑問をいだいていると、リリーナとレオが戻って来た。
レオの手には、景品の菓子が握られており、既にかじられていた。
「本当に、食物だったのか…」
「ええ。」
バクバク!
リリーナの横で、美味そうに景品の菓子を食うレオ。
まぁ、子供用のコースの景品だからな。菓子とか子供の喜びそうなヤツが無難だろうな。
「そうだ。さっきそこを、ディンが歩いてたぞ!」
「ディンさんがですか?」
「ああ。ただ、何だか元気なさそうだったぞ。」
「元気がですか?そういえば、昨日も帰ってきた時も、気分がすぐれないって言ってましたね⁉」
「だな…それに…」
先程、ディンが立ち去る姿を思い浮かべる。その様子に、俺はどこか違和感を感じていた。
そうこうしている間に、利用の制限時間を迎えた。
練習場を後にした俺等は、練習場の近くでやっている、観光客目当ての露店で早めの昼食を済ませた。
それから、次はケイキュウを体験させようと、ケイキュウのスクールに足を運んだ。
スクール。この国のケイキュウのチームが、未来のエース選手輩出のために、合同で運営している施設だ。他にも、観光客にケイキュウというスポーツを、よりよく知ってもらいたいという目的で、コーチ付きでレッスンもしてくれる(有料)。
因みに、これらは全て、定食屋のオヤジさんが教えてくれた事だ。
受付を済ませ後、施設の人にレオを預けた。
勿論ココも、子供用コースだ。
その際、係の人に
「保護者の方は、離れたところから、練習風景を観覧出来ますが、いかがなさいますか?」
と聞かれたので、観覧を希望した。
頑張っている姿を見たいという気持ちもあるが、
「レオが何かしでかさないか不安だから」
というのが、俺等の本音だ。
で、肝心のレオはという、練習している姿が中々サマになっている。まるで、どこぞの少年サッカーマンガの主人公みたいだ。
「楽しそうですねレオくん!」
「ああ。この調子なら、本当にこの道に進めるかもな!」
「ですね!あっ、タイガーさん、あそこにいる人…」
「ショーじゃないか!」
昨夜、わざわざ俺等の元に謝罪に来た、ショーがいた。
ただ、少し様子がおかしかった。何かを探している様に見えた。
気になって彼の元に駆け寄った。
俺等に気付き、簡単に挨拶を交わした後、先程の様子について訪ねた。
「…それが、その…」
最初は、言いにくそうにしていたが、リリーナが、
「遠慮なさらないで下さい!」
と言ってのが効いたのか、ショーが口を開いた。
「実は、ディン君を探しているんです!」
「ディンさんを…」
「ええ。実は…」
ショーは少し貯めてから続けた。
「僕も先程聞いたんですが、ディン君、ウチのチームを急に退団してしまったそうなんです!」
「た、退団‼」
本当に急な事なので、つい、大声で叫んでしまった。