エースと補欠
「すごかったんですよ、レオくん!ボールを見事にキャッチして!」
「みたいだな。俺も見てみたかったぜ!」
所変わり、再び定食屋の店内。
ケイキュウの試合が終わった後、夕飯のため再びココに来た。他の店でもよかったが、ココは安くて美味い上、オヤジさんにレオの事を話したいという理由もあって、ココにした。
そして、試合終盤でのレオの事で話は盛り上がっている。
リリーナもオヤジさんも上機嫌だ。
肝心の主役のレオはというと、話題の主役になっている事には、特に気にする様子もなく、食うために口を動かしている。
「小さいのに大したもんだな。下手すりゃ、お嬢ちゃん怪我してたかもしれないからな!」
「ええ。おかげさまで!」
「よーし、待ってな!」
そう言うとオヤジさんは厨房に入っていった。
そして、少しして両手に皿を持って、戻って来た。
「ほらよ。俺のおごりだ。遠慮なく食ってくれ!」
「うほー!」
目の前に置かれた料理。レオは脊髄反射的に、速攻で食始めた。
「すみません、おじ様!」
「いいってことよ!」
何とも、気前のいいオヤジさんだ。
と思っていると、店の戸が開いた。
「いらっしゃ…おやアンタか⁉」
オヤジさんは途中で言葉を変えた。
入ってきたのは、背が高く、如何にもスポーツマンって感じの優男風の青年だった。
「お久しぶりで!」
「どうした、何か食いに来たのか?」
「いえ、今日はそこのお嬢さんに…」
「えっ!私ですか?…」
「ハイ!」
そう言うと彼は、リリーナの方に来た。
「オヤジさん、知ってる人か?」
「息子の所属しているチームの先輩だ!何度も会ったことある。」
「あぁ、彼の…」
そう言ってオレは、昼間会ったどこか元気のない青年を思い出した。
それは兎も角、男はリリーナの前まで来た。
「お嬢さん、先程は危ない目に合わせてしまい、申し訳ありません!」
と、いきなり謝罪の言葉を述べた。
「な、なんですかいきなり⁉」
「先程の試合です。危うくあなたに怪我をさせてしまうところでした…」
「試合…あっ、あなたは確か、ケイキュウの試合に出てた…」
そう。男はケイキュウの試合に出てた選手の1人で、何を隠そう、リリーナに飛んできたボール。それを蹴った選手だった。
その事で、直接本人に謝りに来たらしい。
「そんな、別に謝られなくても結構ですよ。こうして無事だったんですし…」
「しかし…」
何とも律儀な人物のようだ。わざわざ本人の所まで来るなんて…
しかしだ、どうしてココにいると分かったのか?
聞けば、チームの情報網の力とだけ言っていた。一観客の行き先を把握するとか、一体どういう情報網なんだよ…
それは置いといて、その後、リリーナが、
「その気持ちだけで十分です!」
と言い、それで双方納得した。
それからその青年、名を「ショー」という。
所属しているチーム「キングシューターズ」のエースストライカーだ。シューターの王って、随分と強気な名前だ…が、その何恥じぬくらい強豪チームらしい。
その後、ショーも混じって会話に花を咲かせた。
もっぱらの話題は勿論、レオの事だ。
ショーも、レオの運動神経には一目置いていて、チームに欲しいくらいだと言っていた。
が、肝心のレオは、
「丸いものは、スイカやメロンみたいに、食えるものの方がイイ!」
などとよく分からない事を言っていた。どうやら、全く乗り気でない様子だ。
それを聞いてショーは少し残念そうだったが、俺等がこの国に来た経緯を話すと、
「興味が向いたら、何時でも来てね!」
と言っていた。
その直後、再び店の戸が開いた。
そして、オヤジさんの息子が入って来た。
「⁉ショー先輩…」
「ディン君!」
少し間を開けてからショーが口を開いた。
ディンは、彼の名前だ。
「片付けは終わったのかい?」
「ハイ!掃除、洗濯、全てやっときました!」
「そう、ご苦労さま!あぁ、おじさん。それじゃあ、僕はこのへんで…」
「おう。気を付けて帰んなよ!」
「ハイ、ごちそうさまでした!あっ、皆さんもそれではまた…」
そう言ってショーは帰っていた。
彼は、ショーが退店した後しばらく戸を眺めていた。
「ショー先輩、来てたんだ…」
「あぁ…」
「…ごめん、父さん。ちょっと今日は気分がすぐれないから、もう寝るよ…」
「構わねーよ。今日はお客さん少ないみたいだし、1人で大丈夫だ!」
「そう…」
力なく言うと、奥の方に引っ込んでいったディン。何か訳ありなのかと思っていた。
が、それから、オヤジさんの言葉に反して、お客が結構な数来た。
とてもじゃないが、オヤジさん1人では回せそうにない。見かねて俺等も手伝うことにした。
リリーナは接客、俺は洗い物やオヤジさんの補佐に回った。
レオはというと、満腹になったからか、何時の間にやら寝てたので、ソっとしといた。まぁ、起きててもつまみ食いとかしかねないから、かえって有り難かった。
「そこの、塩取ってくれ!」
「あいよ!」
塩の容器を手渡した。
料理の補佐をしながら、それとなくディンの事をオヤジさんに聞いてみた。
「まぁ何と言うか、色々と理由があってな…向こうはチームのエースで、方や息子の方は万年補欠だ。」
「エースと補欠ね…」
更に忙しくなったので、聞けたのはそこまでだ。
色々あって疲れたので、その日はそのまま有耶無耶になった。