観戦
「うぉぉぉー!」
「そこだー!いけー!!」
「走れ〜!」
サポーターによる、激しい声援がアチコチから聞こえてくる。
「スゴイですね…」
「ああ…熱狂的だな…」
ココは公国内にある、ケイキュウのグラウンド。ココで、ケイキュウの試合が行われているのだ。
ケリキュウ。それは、前にも言ったが、元の世界のサッカーに近いスポーツで、この国でも一位二位を争う人気スポーツだ。
ルールはサッカーと大体同じで、ボールを足で蹴り、相手のゴールに入れれば得点になる。手を使ってはいけないのも同じたが、それはキーパーも同じなのだ。それ以外は殆ど同じだ。
今試合しているのは、何組かいるこの国のケリキュウチームの中でも、特に人気も実力も高い2チームで、それもあってか、サポーターの応援も半端なものではない。
それぞれ、応援するチームの旗を振る者、物凄い大声で声援を送る者など様々だし、相手チームが有利になると途端に、鬼の形相になったり、罵声をあげまくる。
もし万が一、ほんの一言でも悪口を漏らしそれを聞かれでもしたら、たちまち袋叩きにされるだろう。最悪、命はないかもな…
「皆さん、殺気立ってますね…」
「全くだ。冷やかしで来た俺等とは大違いだよ…」
俺等は定食屋のオヤジさんから、今日に、近くでケリキュウ試合が行われると聞き、観戦に来た。
観戦は無料だ。観やすい観戦席もあるが、そこは有料だ。例のサポーター連中は、大半がそこにいる。彼等で観戦席は満席状態だ。
それ以外のサポーターは、俺等と同じ無料の場所で応援している。ココは簡易的だが、木製の長椅子があって、座って観れる。
「しかし、半端ない殺気だが、レオ怯えてないか?」
「大丈夫ですよ…」
リリーナの視線の先には、笑顔でホットドッグにかぶりついてるレオがいた。
観客目当ての露店が、グラウンドのアチコチに出ている。こういう国でも、商売人は商魂逞しいようだ。
その中の1店がホットドッグを売っていた。
食いたいとねだるレオ。
「さっき食べただろ!」
と言うが、あまりにもねだるので、1つだけだと約束し買ってやった。
そして今、試合そっちのけで食っている。
やはり、レオには花より団子のようだ…
それはさておき、周りは熱狂的なサポーターだらけ。別に、どっちのチームのファンって訳では無いが、俺等はアウェイに近い状態だ。
途中、中年のおじさんがやって来た。が、座れるところがなく困ってる様子だ。見かねた俺とリリーナが、側の人にも頼み、詰めてもらい、スペースを作った。
そこにおじさんに座ってもらった。
お礼を言って、俺の横に行儀よく席に座るおじさん。大人しそうな人だなと思っていた。
が、直ぐにカバンから、応援グッズを取り出し、身に付けると、
「イケイケ〜!負けたらタダじゃすまさんぞ!」
と、コロッと人が変わったように、熱狂的サポーター化した。
席を作ったのを、少し後悔した俺達…
「皆、ますます熱狂的になってる…レオくん、怖くないの?」
レオを気遣い、尋ねるリリーナ。
対してレオは、
「別に怖かねーぜ!」
と涼しい顔をしている。
「こいつ等よりも、山の獣達の方が、よっぽど殺気だってたぜ⁉」
との事。
流石、大自然の中を、たった1人で生き抜いてた来ただけはあるな。
そうこうしている間に試合は終盤。サポーターの熱気は最高潮だ。
対してホットドッグを食べ切ったレオが、今度は飲み物を要求しだした。仕方無しにと、買いに行くリリーナ。
そこへ、選手が蹴ったボールが、軌道を大きく外し、観客席に勢い良く飛んできた。それも、席を離れたリリーナの方に、一直線にだ。
「危ないリリーナ‼」
「⁉」
俺が叫び、それで危険に気付いたリリーナ。が、ボールの速さは凄まじい。運動神経の余りよくないリリーナが、避けれそうにはなかった。
「キャッ‼」
咄嗟に身構えるリリーナ。
ぶつかる!
その場の全員が、そう思った。
だが、ぶつかる直前に、小さい影が素早く飛び出し、ボールをキャッチした。その影は、反動で観客席後方に飛ばされたが、高い所から飛び降りた猫の如く、軽々と着地した。
「ふ〜!大丈夫かリリーナ⁉」
「レ、レオくん!」
そう、影の正体はレオだ。レオが素早い身のこなしで、リリーナに当たる直前にボールをキャッチし、そのまま着地したのだ。
「あっ、ありがとうレオくん!」
「大した事してね〜よ!」
礼を言うリリーナと、それを軽く返すレオ。
その光景に、
うぉぉぉ‼
と、試合以上に歓声があがった。
何方のチームのサポーターかも関係なく、皆が歓声を上げている。
小さなヒーローに拍手が送られる。
一方のレオは、キャッチしたボールを眺めている。
そして徐ろに、
「スイカかメロン食いたくなった!」
と呟いた。