凡人
ガツガツ!
「ウマい!ちゃ~んと、味がしっかりしてる‼」
「レオくん、もっとゆっくりと…」
レオへの注意が、途中で途切れたリリーナ。
どれだけ言っても無駄かと、半ば、諦めるかけているのだろうか。
そう思いながら、俺は手にしたコーヒーを口にした。
「しかし、普通の飲食店もあって良かったよ!」
「ですね。アスリートの方達は兎も角、私達の口には、少し物足りませんでしたしね…」
ココは、先程とは違う店。いわゆる、定食屋みたいなもんだ。
先程の店の、アスリート向けの食事が気に入らなかったレオ(俺等もだが)。で、見かねた先程の店のウエイトレスが、俺等みたいな観光客向けの店を教えてくれたのだ。
先程の店の、料理だけでは腹の虫のおさまらないレオ。夕飯まで待てないとゴネるので、やむを得ず来店した。
で、今に至るというわけだ。
この定食屋。メニューも普通で、値段も良心的な価格設定なので、安心感を覚えた。
レオは肉料理を選択。俺とリリーナは、一応さっき食ったので、飲み物だけ頼んだ(飲み物のメニューは、結構なレパートリーがある)。
「それにしても、流石スポーツが盛んな国ですね。体格のいい人だらけですよ!」
と、砂糖多めに入れた紅茶を飲みながら、外を眺めて言うリリーナ。
確かに、道行く人々の殆どが、男女問わず、鍛えられた身体をしている。服を着てても、分かるくらいだ。
「そりゃそうだよ。この国じゃ、運動神経がいい=エリートと、言われてるくらいだからな!種目問わず、いい成績をタタキ出せば、スゲー優遇されるんだよ!」
と、定食屋の主人が俺等の会話に入ってきた。
「へぇ、そうなんですか⁉」
「そう。で、エリート連中は、各分野で活躍し、引退後は後世の育成に尽力するのが、パターンだ。」
「後世の育成か…コーチとかトレーナーってところか?」
「そう。現役で活躍し、名を上げてれば上げてるほど、給与も高くなるんだ!」
「スゴイですね!」
「引退後も、安泰なんだな!」
「あぁ。で、俺みたいな凡人は、こうして普通の仕事に就く。ってのが、お決まりだよ…」
「⁉オヤジさんも、何かしてたのか?」
「あぁ。マラソンとかをな…」
聞けばこのオヤジさん。この国の生まれで、若い頃はマラソンをやっていたが、どんなに努力しても平均以下の成績しか出せず、終いにはコーチに、他の種目への転向を進められたという。
で、その後もヤリ投げや、棒高跳び等に挑戦してみたが、結果は同じ様なものだった。
結局、才能ナシの烙印を押された。スポーツの道は諦めて、1から料理を学び、現在はこうして、定食屋を経営しているという。
こんな言い方は好かないが、どんな世界にも、エリートと落ちこぼれは存在するということかな…
「大変だったんですね…」
少し気の毒そうにオヤジさんを見ながら言うリリーナ。
一方のオヤジさんは、
「なーに、昔の話だよ。それに、現状には不満はないぜ⁉そんなに大きくはないが、こうやって店を構えられた。更に、結婚して子供も出来たからな!一人息子で、すっかり大きくなったぞ!」
とのこと。
「確かに、レオの様子からして味は良いみたいだ。」
「ん⁉」
ウマそうに食うレオを見なが言った。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねーか!よし、遠慮はいらねー!飲み物だけじゃなく、あんた等も何か食ってきなサービスすっからよ!」
と気前良く言うオヤジさん。
せっかくなので、お言葉に甘え、俺とリリーナはそれぞれ頼んだ。
「うん!スゲー美味いぜ、このハンバーグ!」
「このオムレツも、ふんわりしてて最高です!」
「ありがとよ!」
「タイガー、リリーナ!オレっちにも食わせてくれ!」
と、了承を得る前に、レオがスプーンを伸ばしてきた。
「あっレオ!」
「もう、お行儀悪いよレオくん!」
「ははは、仲の良い親子だな!」
と言うオヤジさん。
「えっ!いえ、私等は親子では…」
「ん⁉違うのか…俺はてっきり親子だとばかり…」
「えっ、あぁそれは…」
どう説明しようか悩んていると、
「あっいや、スマねー。つい気になっちまって…忘れてくれ!」
「ああ…それは兎も角、本当に美味いぜ!」
「そうですよ!高級料理店に負けてないですよ!」
「そうかい⁉いや何、最初はスポーツを忘れる為に学び始めた料理だったんだが、思いの外、のめり込んじまってな。だんだんと、料理するのが楽しくなってきてな!」
と明く言うオヤジさん。
どうやらスポーツでは凡人扱いだったけど、料理人としては一流のようだ。
と、話していると、
「ただいま…」
元気のない声の、高校生くらいの男子が入ってきた。
「おう、帰ったか!さっき言ってた、俺の息子だ!」
と俺等に紹介した。息子の方は挨拶もそこそこに、
「父さん、着替えたら仕込み手伝うよ…」
「おっ、おうよ…」
そう言って引っ込んでいった。
「今日もか…」
「⁉…」
と、オヤジさんがつぶやいたのが、聞こえてきた。