帰りの日
島を出る日の朝。
俺等は港の船長の船の前にいる。
「忘れ物はないか、2人共?」
「はい。大丈夫ですよ。」
「俺っちも!」
「そうか。まあ元々、レオは荷物らしい荷物を持ってねーけどな。」
山の中で、野生動物同然の生活をしてきたレオは、持ち物と言える様なものを持っていない。あるのは、俺等が買い与えた服と、飴などの菓子くらいだ。正に、着の身着のままだ。
俺も、そんなに荷物は多くない。
何しろ、俺自身もこの世界に来た時、来ている服以外何もない状態だった。俺もまた、着の身着のまま状態だった。だから今も、そんなに荷物はない。
一方、リリーナは、
「リリーナは、少し荷物が増えたな⁉」
これまで持っていたカバンよりも、一回り位大きいカバンに変わっている。
「ええ。リサさんから貰った服が入ってますんで。」
そう。昨日着ていたワンピース以外にも、リサから何着か服を貰ったリリーナ。これまでの旅の間、同じ服を使い回していた。なので、少しくたびれて来ていた。
そんな事を話したら、リサが昔、着ていたのをくれたのだ。サイズもピッタリった。
因みに、何で昔の服があるのかというと、この島には、リサの知人が住んでいて、その人の家の倉庫に偶々預けていたそうだ(何か随分と、都合のいい話な気がしたが、その辺はまあ、スルーした)。
で、荷物が増えたので、カバンを新しくしたのだ。丁度、汚れや傷が目立ち始めていたので、都合良かったようだ。
「重くないのか?」
「大丈夫ですよ、そんなに思い物は入ってませんから。それに、服のお礼に、本何冊かリサさんに渡しましたから。」
読み終えた本数冊。同じく本好きのリサに送ったので、正確には物々交換したと言ったほうが正しいかもな。
そうこうしている間に、出港の時間だ。
船と港の間にかけられた渡り板の所へと向かう。すると、呼び声が聞こえた。声の主はリサとローラだった。側にはケビンやスティーブもいる。
ローラは、リサと一緒に家に帰る事になった。なので、彼女とはココでお別れだ。
半月にも満たない期間だったが、一緒に色々な事をした。なので、リリーナやレオも名残惜しそうだ。かく言う俺も…
「元気でねローラちゃん!リサさんも、服ありがとうございました!」
「いいのよ、服は着てこそ価値があるんだから!こっちこそ、本ありがとね!」
「バイバイお姉ちゃん、お兄ちゃん!レオも、お姉ちゃん達を困らせるようなことしちゃダメよ⁉」
「俺っちはそんな事しねーよ!」
どの口が言ってんだよ…
それからケビン・スティーブとも挨拶を交わした。
「すっかり世話になっちまったな!」
「お世話になりました!」
「良いってことよ!色々と楽しかったぜ。また、何時でも遊びに来な!」
「スティーブも元気でな!」
「ああ。オメーのおかげで、店も順調だ!今度来たら、一杯奢っからよ!」
「いや俺酒は…」
「あっ、飲めねーんだったな…ははは!」
そんな感じで皆と挨拶を終え、船に乗った。
そして、
「ヤロー共!出港だ!」
コリートの威勢のいい掛け声と共に、船は港を発った。
港ではリサ達が、船が完全に見えなくなるまで、手を振ってくれていた。
「リゾートも終わり。また、旅する日々に逆戻りだな。」
「ですね!」
そう言うリリーナの顔は、少し寂しそうだった。
その一方レオは、
ボリボリ!
「ウメー!」
「あっレオ!」
「レオくん、それは故郷のみんなへのおみやげに買った…」
島で買った、土産のお菓子を速攻で食うレオ。
出港してそうそう、コイツは…
「確かこの船の倉庫、頑強な鍵をしてたよな?預かってもらおう…」
「ですね…」
理由を話し、土産を預かってもらった。
そこへコリートが来た。
「どうだった島は?」
「楽しかったぜ!なあ⁉」
「ええ。いい思い出が沢山出来ました!」
「そりゃあ良かった。それはそれとして、オメー、例の契約書、ちゃんと持ってっか?」
「ああ、勿論な‼」
「何の話です?」
「そっか、リリーナには話してなかったっけな⁉実は…」
契約書。それは、リバーシのランセンスのことだ。
ケビンがリバーシの完成品を作った。それをローラが、近所の子供や大人とやった。そしたら、皆、自分達にも作って欲しいと願い出てきた。
ケビンが、作ってもいいかと俺に相談して来た。
そして、アレコレ話してる間に、リバーシのライセンスを取ることになったのだ。
最初は、
「この時代にライセンス⁉」
と思った。聞けば、オッタマゲ大王が物事の権利関係で揉めて無用な争いが起きないためにと、ライセンスに関する掟を定めたのだという。
それが、今も続いているのだという。
「いつの間に…」
「ほら、リサとショッピングに行ってる時にな!」
「あぁ、あの時ですか…」
「まぁ、そんな訳で、取り敢えずライセンスを取ったって訳だ!と言っても、俺等は旅があるんで、後の事はケビンに一任したけどな!」
「でも、ライセンスだなんて、少し大げさな気もしますが…」
「俺もだ…」
と、軽く話す俺達だったが、この時は思っても見なかった。
リバーシが後に、あの島で大流行することを。
それから世界中へと広まるのを。
やがて、大規模な大会が開かれ、ローラが初代チャンピオンに輝くことを…
そして、リバーシのライセンスを持つ俺に、かなりの収益を与えることを…
そんな事になるとは露知らず。船に揺られながら、俺等は気ままな旅へと戻っていくのであった。