最後の夜
島の浜辺。時間的に夕方で、もうすぐ暗くなる為、観光客も少なくなってきている。
ゴクゴク!
カラン!
「ぷはー!」
ここは、浜辺近くにある店。そこのテラス席で、トロピカルドリンクの入ったグラスを口に運ぶと、氷が音を立てた。
俺は、トロピカルドリンクで喉をうるおしながら、南国の浜辺を見渡した。
「(早いもんで、もう後1日を切ったのか…)」
と、しみじみしながら思った。
そう、コリートに誘われこの島に来て早7日程になる。もうコリート達の休暇は終わり、この島から離れる。なので俺等も、予定通りこの島を一緒に出るのだ。
まぁ、やりたいと思っていた事は一通り出来き、十分に南国とレジャーを満喫できたので、言う事はない。
そして残ったドリンクを飲み干した。グラスには、半分位の大きさに溶けた氷だけが残った。それを見て、
「(しかし、惜しげなく使われてるけど、確かこの時代的に氷は貴重なんじゃ…)」
疑問を感じたが、
「どうかしましたかタイガーさん?」
と、俺の向かいで、女性向けの麦わら帽子に薄い青色のワンピースといった、南国らしい服装のリリーナが、同じくトロピカルドリンクを飲んでいる。帽子も服も、リサから貰ったものだ。彼女が若い頃のやつで、早い話が、お下がりだな。
見慣れた町娘風の姿と違い、なんとも新鮮で、彼女にとてもよく似合っている。
「いや何でもない!」
深く考えない事とした。
「しかし、いいトコだなこの島!」
「ええ。でも、もうすぐ見納めですけど…」
「だな…」
と2人で夕日色に染まった空と海を眺めた。
「まぁ良い所だけど、ずっといるわけにはいかないからな。旅の途中だし!」
「そうですね。何時までもケビンさんの家に居座るわけにはいきませんしね。」
「それに、来ようと思えばまた来れるさ!」
「ですね!本当に…」
「⁉どうした?」
「私、本当にタイガーさんと旅に出て良かったなと思ってます!」
「何だよ、急に改まって⁉」
少し間を開けてから、リリーナは切り出した。
「だってタイガーさんと出会う前の私は、毎日普通に働いて、たまの休みに本を読んだり、ケティ達と遊ぶ。そんな生活でしたから。いえ別に、それ自体に不満は無いんです。でも、それだけで、変わり映えのない日々でしたから…」
「リリーナ…」
「でもタイガーさんと旅に出て、今まで知らなかった世界を知り、色んな人と出会って。あの町にこもったままだったら、出来なかった事を沢山して。こんなにも世界は広いんだなと、再認識出来ました!だから、本当にタイガーさんと旅に出て良かったな思ってます!」
と彼女にしては珍しく、長ゼリフを言った。
「そうか。そう思ってくれるなら、何よりだ!正直言うと、一緒に行きたいと言われた時、スゲー悩んだんだぜ?」
「そうなんですか⁉」
「ああ、俺自身、未見のとこばかりだからな。何か起きるかわかんないし、下手すりゃあ、君を危険に目に晒しかけないからな。でも、あの時の君の目を見たら、何か断らないほうがいいような気がしてな。それでOKしたんだ!」
「そうだったんですか…」
「でも今、君の気持ちを知れて良かったな。あん時の俺の判断は間違ってなかったんだってな‼」
「えぇ!」
そう言ってリリーナは、満面の笑みを見せた。
「本当にこの島でも、色々なことしましたね…」
「ああ、海で泳いだり、山の渓流で釣りやバーベキュー。本当、い色々したな!でも…」
「でも、何ですか?」
「何か1つ忘れてるような…」
アレコレと思考を巡らす。島を出た後になって思い出しても遅い。まさに、後の祭りになるかもしれない。
悩んでいるとそこへ、
「おー、いたいた!お2人さんよ!」
コリートがやって来た。
「どうしたんですか船長さん⁉」
「いや何、コレからこの近くで、皆で宴会すっからや、2人を呼びに来たんだよ!」
「宴会⁉随分と急な話だな…」
「そうだ。明日にはこの島を離れる。また、忙しい毎日に逆戻りだ。その前に、皆でパーと盛り上がろうって思ってな!もう用意は出来てるし、皆集まってぞ!」
「皆⁉」
「ああ。俺の家族と船の乗組員全員、ケビンや皆の友人達とかな!オメー等の連れのレオって小僧も既に行ってぞ!」
「レオが⁉」
「ああ、上手いもん沢山あると言ったら、ソッコーで行くって返事してたぜ!」
「だろうな…(その光景が目に浮かぶ)」
「てなわけで、後来てないのは2人位だ!」
「てなわけでって…」
「いいじゃないですかタイガーさん!最後の夜の、思い出づくりに最適ですよ!」
「確かにな。皆参加してて、俺等だけ不参加って訳にはいかないよな!」
「よ~し決まりだな!ホレホレ、コッチだ!」
手招きして、俺等を会場に案内するコリート。
俺とリリーナは、会場に向かった。会場は本当に近くにあった。この島の、宿泊施設の一角だ。
そして、その会場の入り口の近くに、
「何だよこの像は?」
体格のいい、上半身裸に毛皮を羽織り、頭に王冠を乗せた大男の像があった。手には、三叉の槍 (というより銛?)を持っている。
「何ってコレは、オッタマゲ大王の像だ!」
「オッタマゲ大王⁉」
「聞いたことあります。昔、この島をおさめていた王様でしたよね?」
「そうだ。昔の王の像だ!民衆を守る為、敵と闘ったエラくてツエー王様だったらしいぞ!」
「王…(コレが…)」
元の世界の、カメハメハ大王みたいなものか⁉
南国に毛皮って…像の姿形に少々違和感を感じながらも、
「ホラ、もう始まってっぞ!急げ‼」
「あぁ…」
俺等も続いて会場に入った。