立ち
バーベキューコンロがこの時代(現実的に当てはめて見て)にあるのか?と、今更ながら思いましたが、一応異世界なので、この世界ではある!ということで…
俺のアイデアで、スティーブの酒場は、立ちぱなしの店となった。
椅子は一脚のなく、お客は、酒を飲んでる者も料理を、口に運んでいる者も皆、立ったまま飲み食いしている。
「タイガーさん、これは一体…」
リリーナは困惑している。
無理はないだろう。普通の飲食店は、椅子に座って、食べるのが一般的だ。現にマリーの店も、フームと出合った店も、ジョウのレストランも、みな椅子に座っていた。いや、生活様式が欧米に近いこの世界。家でも食事は、椅子に座って食べるのが一般的だ。
日本だったら、家やお座敷で椅子はなく、胡座をかくスタイルで食事することはあるが、基本的には、座っている。
因みに、全く立って食べる事が無い訳では無い。
この世界にも露店はあり、そこで買った物を、その場もしくは近くで食べる及び、食べながら移動する。俗に言う食べ歩きだ。
リリーナの友人のケティも、食べ歩きを趣味としており、非番の日に露店で買ったものらしき、ホットドッグのような物を食べながら、町をぶらついているのを見たことがある。少し前にもレオが、露店の串焼きを勝手に食った事もあったな…
と、話がそれてしまったが、少なくともこの世界で、室内での食事は座ってするのが普通だ。なので、室内で立ったまま飲み食いするのは、違和感があるのだ。
俺はリリーナに問いかけた。
「リリーナは立ったまま飲み食いするのをどう思う?」
「どうって…お行儀が良い悪いは兎も角、落ち着いてゆっくりとは食べれないんじゃないんですか?」
「そう、余りゆっくりは出来ないだろう!」
「…食事はゆっくり出来た方がいいんじゃないですか?」
リリーナがますます困惑している。
「普通はそう思うだろう!でも、この店の場合は、逆な場合もある!」
「どういう事です?」
「まぁ、しばらく様子を見てみよう!」
そう言って俺等は、邪魔にならないよう、近くでスティーブの酒場を観察した。
そして、しばらく様子を見続けた。
その結果、
「どうだリリーナ!気付いた事はあるかな⁉」
「そうですね…そういえば、お客さんが余り長居しませんね⁉普通の飲み屋さんだったら、1時間位はいるのに、ここだと短時間で店を出てますよ!」
「そう、そこだ!」
「そこ⁉」
「ああ、リリーナは立っついるのと、椅子に座っているのでは、どっちが楽だ?」
「どっちって…それは座ってる方です。何もしてなくても、立ちっぱなしはつかれますから!」
「だろ⁉ソコがポイントなんだ!」
「ポイント⁉」
「ああ、客は座れないから余り長居はしない。退店すればその分空きが出来、次の客が入れる。この店の問題点の1つ回転率の悪さが解消出来るという訳だ。」
「なるほど…」
関心した顔をするリリーナ。
無論、長居された方が、その分注文も多くなる。が、1人で飲み食いできる量には限界がある。1人1人の注文量は減ってしまうが、その分は、回転率の高さでカバーする寸法だ。
俺は更に続けた。
「しかもだ、椅子が無いのでその分、店内のスペースが確保できる。椅子有りよりも客を中に入られる。更に、元々ココはスティーブ1人でやってるから、人件費はかからない。人件費がかからない分、価格等も抑えられるんだ!」
「はぁ、椅子を無くすだけでそれだけの効果が…」
リリーナは更に感心したように声をあげた。
「まあ最も、絶対に上手く行く確証はなかったけどな…」
「えっ!そうなんですか…」
「あぁ、こんな感じのスタイルが、受け入れられるかわかんなったからな。下手すれば、居心地の悪い店だと、返って客足が遠のくリスクがあるからな…」
「もしそうなってたら、どうする気だったんですか?」
「そん時は…「ワリィ、ダメだったみたいだ!」と言うしかないかな…」
「……」
今度は少し呆れ顔をするリリーナだった。
「でも見たところ、順調みたいだから、結果オーライだな!」
「オーライって…」
「いやリリーナ、それを言うなら、今まで俺がアチコチでアイデアを提供したけど、それ等だって、上手く行く保証は無かったんだ!言ってしまえば、運が良かってんだ、運が!」
「運…ですか…」
本当に、今まで俺のアイデアが上手く行ってたのは、運が良かっただけの話だ。更に言えば、大半が前世での流行り事等を、そのまま流用しているだけだ。コッチでも通じる通りはない。
しつこいようだが、本当に運が良かってだけの話なのだ。
「まあ兎も角、そろそろ帰ろうかリリーナ?」
「そうですね。」
俺等はケビンの家へと帰路についた。
その途中、歩きながら夜空を眺めていたリリーナが、
「あっ‼」
と、声を漏らし、直ぐ様手と手を合わせ祈る様な姿勢をとった。そして小声で呟いている。夜空を見ると、流れ星がほんの一瞬だけ目に入った。どうやら、消える最後のほんの一瞬だったようだ。例の、流れ星に願い事をするやつに挑戦したようだが、小声なのでよく聞こえなかった。
「よし!」
合わせた手を離したリリーナ。
「どうだ、願い事出来たか?」
「ええ、何とか消える前に3回!」
「で、何を願ったんだ⁉よく聞こえなかったんだが…」
「それは…」
「それは⁉」
「…ナイショです!」
「ナイショって…」
「さぁ、帰りましょう!」
そう言って微笑んだリリーナは、俺を置いてさっさと、先に行ってしまった。
「あっ!オイ、リリーナ!」
俺は追いかけっこするかの様に、リリーナの後を追った。
リリーナが何を願ったのか。後に知ることとなるのだが、それはまた、別の話。