酒場2
俺等は、開かれたウイングドアを通って、スティーブの開いた酒場に入った、俺とメット・ゴンザレスの3人。
「まだ開店前で、他に誰もいねーことだし、気楽にしてくれや。まぁ取り敢えず、ここにでも座ってくれや!」
バーカウンター前の席を指すスティーブ。
スティーブに案内され、スティーブが立っている、バーカウンター前の、カウンター席に俺等はそれぞれ、腰を下ろした。
スティーブのいる方から見て、俺・メット・ゴンザレスの順番に座った。
カウンター席に座りながら、内部を見渡す。
「うん、中々のいい感じの店じゃないか⁉」
「だろう⁉内装には、結構こだわったからな!」
「流石、ケビンのおやじさんだな!」
「ああ、いい仕事してるぜ!」
それぞれ、感想等を口にする。
「ほらよ、使ってくれ!」
スティーブが俺らの前に、おしぼりを置いた。
当然ながら、ビニールでコーティングなんてものは、されていない。あら目の布製で、おそらく、洗って何度も使い回すやつなのだろう。
「おう、サンキュー!」
早速、おしぼりを使うメット。
手を拭いた後、顔と更に両腕まで拭き始めた。
少し品が無いなと俺は感じていた。
更に、そんなメットの向こうでは、
「ふ~!」
と、ゴンザレスが服の下まで、おしぼりで拭いていた。
「おい、そんなとこまで拭くなよ…」
俺が注意すると、
「あぁ、ついな…暫く風呂入ってないもんでな…」
と返してきた。
例の俺様号には風呂がなかった。そもそもこの世界の文明レベル的に、船にまともな風呂場がある方が、かえって不自然かもしれないが…
因みに元の世界でも、特定の国々では、風呂に入るという、風習自体無いところもあったらしい。
なので、コリートを初め、船員達は風呂に入らない。その上、着替並びに洗濯もろくにしない。まぁ時代的に、船上じゃ水は貴重だから、仕方がないと言えば仕方がないのだが…
因みに、俺やレオはまだしも、女性のリリーナとローラはキツイので、タライに沸かした湯を入れて、2人で身体を洗っていた。
それは兎も角、思い返せばゴンザレスの調理着、所々汚れが目立ってたけど、ちゃんと洗ってんのか?
いや多分、洗ってないな…
衛生面大丈夫なのか…前の世界だったら、保健所が黙ってないぞ…
何て思っていると、
「折角だ、何か飲むか?」
とスティーブが聞いてきた。
「おう!そんじゃあ…」
「昼間から飲む気か⁉」
「何いってんだよ、酒場に来たのに、酒飲まないヤツがどこの世界にいるってんだよ⁉」
「そうそう!」
上機嫌なメットとゴンザレス。飲みに来たのではなく、開店祝いに来たんじゃないのかよ…
で、2人はそれぞれ、好みの酒を頼み、出されたのを一気に飲み干した。
「か〜うめ~!」
「やっぱ、酒場で飲む酒は一味違うな!」
更に上機嫌になる2人。
下戸な俺には、酒飲みの気持ちは分からない。
そう思いながら、ガラスのタンブラーに注がれた茶を飲む俺。この世界における、ウーロンハイ的なカクテル用のものらしい。
「いい店だなゴンザレス!」
「ああ、酒も上手いし、雰囲気もいいしな!」
「ありがとよメット!ゴンザレス!で、タイガーだったな⁉どうだ、この店は?」
「ああ、いいトコだよ!ただ…」
「ただ⁉…」
「狭くないかこの店⁉」
そう、スティーブの酒場は随分と狭い店だった。
俺達はカウンター席に座っている。が、そもそもこの店、カウンター席しかないのだ。そのカウンター席すらも、8人分の席しか無い。
「やっぱ、ソコ気になるか…」
「当たり前だろ…見ろよ、席に座ったまま、後ろの壁に手が届くぞ!ホラ!」
「確かに俺も気にはなってたぞスティーブ!」
「俺もだぜ!ぶっちゃけ、ウイングドアいらなく無いか?この狭さだと、邪魔にならないか?」
「いやそれは、どうしても付けたかったんだよ…」
どういうこだわりかはさておき、本当にこの店は狭い。カウンター席だけで、テーブル席は無し。
うなぎの寝床の様な店だ。
聞けば、家賃と場所が良かったので決めたとか。
「酒場を開くのが、ガキの頃からの夢だったんでな。いろんな仕事して、金を貯めたんだ。つっても、他にも色々と入用でな、予算も限られてるんで、安さからココにしたんだ。」
「で、結果は?」
「今一つだ…」
「だめじゃんか…」
「いや、味には自信あるんだけどな…」
そう言うんで、店のメニューの料理を出させた。
「うん、結構イケるな!」
言葉に嘘はなかった。料理は美味かった。
プロの料理人のゴンザレスも舌を巻いた位だ。
「正確に言えば、場所がら人は多く行き交うから、客数はある。が、見ての通り狭いから入れられる客の数も少なく、長居する客も多くて、全体的に回転率が悪くてな…」
「成る程…」
外観は、まぁ普通と言ったところ。
場所は悪くない。
味も申し分なし。
問題は、店が狭いがゆえの回転率の悪さか…
俺はここでも、前世の記憶を思い浮かべ、アレコレと思考を巡らした。
そして、1つの作を出した。
「スティーブ!それだったら、こうしたらどうだ?」
「何だ、こうって?」
俺は店のあるモノを指差し、考えを伝えた。
それを聞きスティーブ達は、
「「「はぁ⁉」」」
といった、何とも言えない奇声をあげた。
感のいい方なら、もう先の展開が予想できると思いますが、一先ず続きます!