酒場
メットとシェフの2人に付き添う形で、2人の友人の開いたという、酒場を訪れた。
そこは、浜辺からすぐの場所にあった。
「着いたぜ、ここだ!」
「ここか…」
その酒場は、出来て間もないので当然ながら、新しかった。出入り口は、木製のウイングドアになっている。前世で見た西部劇や、漫画に出てくる酒場はこんな感じったので、それに酒場らしさを感じた。
真新しい店先を眺め、
「うん、なかなかいい感じだな!殆、目の届かないようなところのディテールまで、拘ってるな!」
と、素直な感想を述べた。
本当に、細かいところまで作っている。目を凝らさないと見えないような場所にまで、デザインを施している。
ケビンは、ほんの僅かなことにも妥協を許さない、生粋の職人肌のようだ。
「だろ⁉いい出来栄えだろ!」
「何しろ、ケビンのおやじさんの仕事だからな!」
「ケビンのおやじさんって、船長の友人のか⁉」
「ああそうだ!コリート船長の古い友人で、大工のな!」
「そういや、アンタ等滞在中は、ケビンのおやじさんのとこに、厄介になるんだったっけな⁉」
「ああ、さっきまで彼の家にいたからな!」
「おやじさん元気してたか?」
「まあな…」
そこで、ケビンの家であったことを話した。
「マジかよそれ⁉コリート船長の奥さんがここに!」
「ああマジだよマジ!船長もローラも、これでもかってくらいに、怒られてげっそりしてたぜ!」
「あ~あ、だから言ったのによ…」
呆れ顔をするメット。
そういえばメットは、船を降りる時にも、色々と注意してたよな…
何てことを話していると、酒場から人が出てきた。
「オー、懐かしい声がすると思ったら、メットにゴンザレスじゃねーか、久しぶりだな、元気してたか⁉」
短髪で全身日焼けした男だった。
どうやら、この人が2人の友人でこの酒場の店主らしい。
因みに、ゴンザレスとはシェフの事で、今までコック又はシェフと呼んでたが、本名はゴンザレスだ。
本当に、今更だけど…
「よっ、スティーブ!そっちこそ元気してたのか?」
「俺は見ての通りよ!それよりも、お前等、何時帰ってきたんだ?」
「今日だ!長期休暇に入ったんだよ。」
「で、いい機会だから船長初めとする、この島出身の船員皆で、休みをこの島で過ごそうと思って、帰ってきたって訳だよ!」
「そういうことか…」
「で、この島の知人から、オメーが酒場を開いたって聞いてな、開店祝いにでもと思って来たわけよ!」
「そうだったのか、わざわざ来てくれて、サンキューな2人共!」
「なーに良いってことよ!」
「まぁ開店祝いと言っても、急だったからな、特に何も持って来てねーんだが…」
「わりーな、金欠気味な上に、コレと言ったものが思い付かなくてな…」
手ぶらで、申し訳なさげな顔をする2人。
「俺等皆、酒は飲むけど、酒場に酒を持って行ったって仕方ないしよ…」
「こういう時、ベタでいくと花とかになるんだろうけど、花なんて俺等の柄じゃないしな…」
「ははは、いーんだよ、来てくれただけでも有り難い。久々に2人の顔も見れたし。何よりも、その気持ちだけで十分だぜ!」
そう言って親しげに話す3人。それを見て、
「(仲いいんだな…そう言えば、リリーナも親友のケティ達とはかなり親しげに話してたな。気心の知れた相手っていいもんだな…そう言えば、元の世界の友人達、俺がいなくなった後は、どうしてんのかな…)」
と俺は思った。
地球の日本で、ソコソコいた俺の友人達。大親友って程じゃないけど、それなりに仲は良かった。家族の事は思うことあったが、色々あって彼等の事を思い起こしてなかったな…
友人達に悪い事をしたような気がした。
が、どんなにあがいても、この世界で彼等の現状を知るすべはないが…
しみじみする俺。
そして、メット・ゴンザレスと話していたスティーブが、今更ながらも俺に気付いた。
「ところで、そこにいるヤツは誰だ?見慣れない顔だが、船の新入りか⁉」
「イヤイヤ、ちげーよ!この兄ちゃんは船の客人だ!」
「客人⁉」
「そっ、客人!」
それからメットとゴンザレスが、スティーブに俺を紹介し、これまでの経緯を手短に説明した。
「ふーん成る程な、あっ、そういや、挨拶がまだだったよな⁉俺はスティーブだ!よろしくな!」
「あぁ、タイガーだ、よろしく!」
簡単な挨拶を交わした。
「まぁこんな所で話すのも何だし、中に入ってくれよ!まだ準備中で、少し散らかってるけどな⁉」
「おうよ!」
「そんじゃあ、邪魔すんぜ!」
「ハイよ、3名様ご案内ってか⁉」
そんな感じで、スイングドアを開き、俺等は酒場の中へと入っていった。