母
メット等と別れ、コリート先導の元、港から歩く俺達。
港を離れしばらくすると、民家が並んで立っているところに来た。
「友達の家って、後どの位だ?」
「もうすぐだ!あの角を曲がったとこだ!」
ローラを抱えていない方の腕を伸ばし、酒瓶を掴んでいる指の人差し指だけを伸ばし、角を指差すコリート。
風向きの関係か、俺の方にコリートの酒臭い息が流れて来て、思わず顔をしかめる。
一方、コリートに抱きかかえられたローラはというと、コリートの酒臭い息を間近で受けているハズだが、特に嫌そうな顔はしていない。それだけ、父親に懐いているのだろう。
仲睦まじい2人を見て、ほっこりしながらも、
「(懐いてくれてるのも今だけだろうな…)」
と、思った。
彼女がもっと大きくなったら、あんなふうには行かないだろう。元の世界では、
「大きくなったらパパのお嫁さんになる!」
「パパ大好き!」
と、幼少期に言われていたが、やがて大きくなった子に、
「臭いから、家の中で息しないで!」
「お父さんの入った後の風呂なんて入れない!」
と、無理難題や嫌味を言われ、毛嫌いされる父親がいるとか…
なんとも世知辛い話だ…
等と嫌な事をアレコレと想像してしまった。
せっかくリゾート地に来たんだ。そういった事は、考えないようにしよう!
と、俺が1人心の中でアレコレつぶやいていると、リリーナがコリートに話しかけた。
「ところで船長さん、ローラちゃんのお母さんのことはいいんですか?」
「あっ、そうだったな!知り合いの人に言伝を頼んだとはいえ、心配してるぞきっと⁉」
そう忘れていたが、ローラは航海中の父コリートの姿を見たいと勝手に船に乗って付いて来てしまったらしい。この事を母親の方に話しておいてくれるよう、通り掛かった知り合いの船に言伝をたのんだとか。
とはいえ、ネットは愚か電話もない、手紙のやり取りが支流のこの世界で、ちゃんと話が伝わっているかどうか…
ましてや、子供が1人いなくなったんだ。蜂の巣をつついたように、大騒ぎなっていたかもしれないからな…
が、そんな俺等の心配をよそに、
「ん!そうだな…まぁ何とかなんだろ!」
「そうそう、大丈夫だよきっと!」
と、まるで他人事のような2人。
「そんな他人事みたいに…お母さんさぞ心配してると思いますよ!」
リリーナも同じ様に言った。
「そうだ!怒られらだけじゃ、すまないかもしんねーぞ!」
俺も少し脅すように言った。
が、それに対して、
「ママのカミナリが怖くて密航なんて出来ないよ!」
と、言うローラ。
密航したという自覚はあるようだ。
更に、
「そうだそうだ!よく言ったローラ!俺の仕事っぷりを見たかったが為の行為だ!アイツが何か言って来ても俺がガツーンと言ってやらー!」
と、強気のコリート。
「ソウダ!ソウダ!」
と言うのは、俺等を飛びながら付いて来ているオウムのパロ。
なんとも呑気な父娘に、半ば呆れ気味の俺とリリーナ。
「ここを曲がったとこだ!」
と、角を曲がる直前に酒を煽る様に飲むコリート。
「ん、空か…」
丁度飲み干したらしく、コリートは瓶を逆さにして振ったが、雫が数滴程、地面に落ちるた。
「少し飲み過ぎじゃないのか⁉」
「そうですよ、奥さんには、何も言われないんですか?」
と俺等が注意するも、
「ハッ!嫁が恐くて、船長が勤まっかよ!」
と、再び強気に言いながら角を曲がる。
その直後、
「何が恐いのかしら⁉」
そこには1人女性が立っていた。
その女性を見た途端、
「‼リッ、リサ‼」
「ママ!」
驚く2人。
同時に空の酒瓶がコリートのゴツい手から離れ、地面に落ちて、音を立てて割れた。
「ママって事は…」
「ローラちゃんの、船長さんの奥さん⁉」
リサという名前のこの女性。どうやら、コリートの奥さんであり、ローラの母親のようだ。
「おっ、お前何でココに⁉」
「……」
驚くコリートと、声が出て来ないローラ。
「マイクさんから話を聞いてね…」
マイクとは、コリートが言伝を頼んだ人のことらしい。
その後の話を纏めると、
コリートとローラの2人がこの島に来るだろうと予想して、マイクに頼んで船に乗せてもらい、先回りしてこの島に来ていたらしい。
「イヤなんでこの島だと…マイクには言ってなかっなのに…」
「感よ!カ・ン‼」
感でこの島に来ると予想したらしい。すごい感だな…
「それよりもローラ!」
「!!」
ビクッとするローラ。もう涙目になっていた。
「急にいなくなって、私がどれだけ心配したと思ってるの!」
「……パ、パパ…」
涙目でコリートに訴えるローラ。
対応に困るコリート。ついさっき、ガツーンと言ってやると言ってしまった手前引くに引けなくなっている。
そこに、
「アイツガナニナカイッテキテモオレガガツーントイッテヤラー!アイツガナニナカイッテキテモオレガガツーントイッテヤラー!」
「‼」
上空のパロが、中々の長セリフを2回も言った。
「アナタ、今のは何かしら⁉」
「あっいや、その…」
しどろもどろするコリート。
長年の相棒に、火に油を注ぐ様な事を言われたコリート。
「まあここじゃなんだから、続きは中で話しましょうね⁉」
「「ハイ…」」
力無く返事する2人。
そして親子は家の中へ入って行った。
その後の修羅場とも言える光景は、恐ろしくて、とても口では説明できないものだった。
それを俺とリリーナ・レオは、2人の無事を祈りながら見守るしか出来なかった…