ハイワ島 上陸
「島が見えたぞー!」
「懐かしの故郷だ!」
目的地の島が、俺等の肉眼でも見えるくらいの距離まで来た。目的の島が見えて、船員達のテンションが上がっている。
そして間もなく、船は島の港の船着き場に定着した。
「着いたぞー!」
「帆をたため!」
「イカリを降ろせー!」
船員達の威勢のいい声がアチコチに響き渡った。
数日間の航海の末に、俺等はコリート達の故郷の島に着いたのだ。
島の名前は「ハイワ島」というらしい。俺には聞き慣れた名前に感じた。いや実際、地球で言うところの、ハワイに雰囲気が似ている。温暖な気候で、当然ながら、近代的な建物の類等は一切ないが、ヤシの木に似た木々がソコラに生えている。
前世じゃハワイなんて、テレビでしかお目にかかったことない。金の無い庶民の俺には、ハワイは正に夢の国だった。
それが今、異世界とはいえ、とてもよく似た場所に来ている。それもタダで。何とも不思議な話だ。
と、染み染み感じていた。
「うーし、着いたぞオメー等!」
「着いたか…」
「無事に着いて良かったですね!」
「あったりめーだ!俺等と俺様号にかかりゃあ、世界の反対側にだって、余裕で行けっぜ!!」
ポン!
グビグビ!
と、コリートは無事に到着した事の祝い酒と言わんばかりに、酒瓶のコルクを豪快に飛ばして外し、酒をラッパで飲み始めた。
「船長、程々にしとかないと、またカミさんに怒られやすよ⁉」
「バッキャロー!女房が怖くて船乗りができっかよ!」
豪快に笑いながら、再びラッパで飲むコリート。
メットが飛ばしたコルクを拾いながら注意するも、当のコリートは聞く耳を持たない。まさに、蛙の面に水の状態だった。
それから船と船着き場に、渡り板をかけ、各自荷物を持ちながら下船していく。
「ふ~、数日ぶりの地面だ!」
「えぇ、快適な船旅でしたけど、地面に立っているだけで、安心感を感じますね⁉」
「ああ、妙に落ち着くな…」
数日ぶりに地面。リリーナの言う通り、ほんの数日だったというのに、妙に安心感を感じる。普段から当たり前にありすぎて、その物の、ありがたみを分からないでいたのだろう。
「船旅もよかったけど、やっぱ地上が落ち着くよなレオ⁉」
と俺はレオに話しかけた。
が、当のレオはというと、
「クンクン!うひょ~、アチコチからうまそ~な匂いがプンプンすっぞ⁉」
レオは相変わらず、食い気全開だった。
確かに、潮の香りだけでなく、いい匂いがアチラコチラから漂ってくる。
「あぁ、この辺には、観光客向けに食物関連の店が沢山あっからな、そこからだろう!」
と、コリートが説明してくれた。
「顔馴染の店もあっから、一緒に行きゃサービスしてくれっかもしんねーぜ!」
「マジ⁉サイコーじゃん!早く行こーぜタイガー!リリーナ!」
「行こう行こう!」
と、レオだけでなくローラまでハイテンションになっている。冗談抜きで本当に、お似合いかもな、この2人…
「慌てんな!店は逃げねーよ!先に荷物を置いてからだ!」
「そうですね。船長さん、船長さんのお友達の家は、何処ですか?」
「ここから歩いて数分のトコだ!」
「へぇ、近いんだな!」
「ああ、だから偶に里帰りした時なんかにな、利用させてもらってんだ!何しろ俺には実家ってもんがねーからな…」
と、珍しく少し寂しげに言うコリート。
聞けばコリートは、幼い頃に両親を亡くしたらしい。他に頼れる親戚もなかった彼は、幼くしてとある船に見習いとして乗船したらしい。そこで様々な雑用をこなしながら必死に頑張って、苦労の末に、現在、船長になったのだとか。
そうコリートは、こう見えても、なかなかの苦労人だったのだ。今の呑んだくれからは想像出来ないけど…
「まぁ俺の昔の事はどうだっていい!今はこうして、愛する家族と、部下達にも恵まれたんだからな!」
と、ローラを抱きかかえて明るく振る舞うコリート。
それを見ていると、何とも微笑ましい感じになった。
そこへ、メットやシェフを始めとする、他の船員達が話しかけてきた。
「コリート船長!そんじゃあ俺等はこの辺で!」
「また後日に!」
島に到着した後は、各自、出航の準備に入るまで自由行動らしく、自分の荷物を持った面々が集まっている。
「ああ、それじゃあな!集合時間、遅れんじゃねーぞ!」
「うっす!」
「船長こそ、飲み過ぎて遅刻しないで下さいよ⁉」
「ウッセー!」
「「ハハハハハ‼」」
豪快に笑い声をあげた後、船員達は解散して行った。
「そんじゃあ、俺等も行くか!」
「ああ!」
「ハイ。ほらレオくん、行くよ!」
「ん!」
俺等はコリートの友人宅を目指して、移動を始めた。