幻想郷、去ります4
「古郷さん、いきましょう」
「あぁ」
俺は彩香と共に空間の中を歩く。
「幻想郷って本当にすごい所でしたね」
「あぁ、そうだな」
「私、1週間くらい居なくなってたからやっぱりニュースとかになってるのかな・・・。古郷さんなんて帰ってからが大変かもしれませんよ!」
「う・・・そうかもな・・・」
元着ていた服は来て少しした時ボロボロになっており、今着ている着物についても追求されるのかと思うとため息が出た。
そのまま進んでいると前方に明るい所が見え始めた。
「あれって、出口ですかね?」
「あぁ、たぶんそうだと思う」
俺が言うと、彩香の表情が明るくなった。
「いきましょう!古郷さん!」
「そう急かすなって・・・」
俺はため息を吐きながら今着ていた着物のポケットに手を入れた。
すると、何かが手に触れた。
スマホとは違うそれを掴んで取り出すと、それは2つの御守りだった。
1つは緑色が目立つ御守り、もう1つは赤が目立つ御守りだった。
スマホの充電器をにとりに返したのにこの御守りを返すのを忘れていた。
「・・・いいか、これは幻想郷を忘れないように大事に持っておこう」
この2つの御守りには助けられたことがある。
外の世界に帰っても大事にしておこうと思い、そう呟いた。
「古郷さん!早く!先に行きますよ!」
「わかったよ・・・っ!?」
先に明かりの所へと走った彩香を追いかけるように駆け出そうと思った俺は突如何者かに襟首を掴まれると後ろに引っ張られた。
彩香は空間を出ると周りを確認する。
そこは神隠しの調査のために訪れた古い神社だった。
「か・・・帰って来たんだ・・・帰って来たんですよ!古郷さん!」
彩香は後ろを振り返るが、もう見えない空間から岳が現れることはなかった。
「はぁ・・・」
岳たちが帰った博麗神社、そこにいた魔理沙がため息を吐いた。
「彩香だけじゃなくて岳も帰るなんてな・・・」
空を見ながら魔理沙が呟いた。
『・・・』
皆何も言わずにただ立ち尽くしていた。
「何立ち尽くしてんのよ。見送りも終わったんだから早く帰りなさい」
霊夢が皆に言った。
「早く帰れって・・・よくそんなことが言えますね!」
早苗が霊夢を睨みつける。
「霊夢さんは悲しくないんですか!岳さんが帰ったんですよ!」
「・・・別に、悲しくないわ。帰りたいって言ってたから帰しただけじゃない。私は当たり前のことをした、それだけよ。もう居ない人間のことを言ったってどうしようもないでしょ?」
「なっ・・・霊夢さん・・・!貴女って人は!」
早苗が霊夢に掴みかかろうとしたのを諏訪子に止められる。
「霊夢、今のは本心で言っているの?もしそうだったら私も黙ってないけど」
咲夜はナイフを手にすると、切っ先を霊夢に向けた。
「私もです」
妖夢が刀を抜く。
「はぁ、面倒くさいわね」
霊夢は咲夜と妖夢を見ながら札に手を触れる。
「おいおい・・・ちょっとお前ら、落ち着いて・・・霊夢も落ち着けって」
今の光景を見て只事じゃないとないと思ったのだろう、萃香が止めようとした。
しかし、霊夢に憤りを持ったのは3人だけではなかった。
「おい、博麗の巫女よ。一番岳の近くにいてそれはないんじゃないか?」
「本当、今回は妹紅と同じ意見だわ」
妹紅と輝夜も霊夢を睨みつけた。
「・・・はぁ、なんで私が悪者になるのよ」
霊夢は訳がわからないと言うふうにため息を吐いた。
「霊夢、貴女の言うこともわかるわ。博麗の巫女だものね」
レミリアが霊夢に言う。
「お嬢様!?」
レミリアに咲夜が驚いたように言うが、レミリアは言葉を続ける。
「でも、今回は別。貴女の本心をちゃんと言いなさいな。それを言わない限りは私も咲夜と同じ意見よ」
レミリアは手から紫の槍を出すと霊夢に向かって構えをとった。
「私の味方は誰もいない訳?はぁ・・・仕方ないけど全力でいくしかないかしらね」
「霊夢、加勢するぜ」
魔理沙が霊夢に言う。
「あら、ありがとう魔理沙」
「何言ってんだ霊夢。私が加勢するのはお前の敵としてだよ」
「・・・なるほど、魔理沙まで居なくなった人間に対して執着しているのね。目を覚ましてあげるわ」
博麗神社内に重い空気が流れる。
今にも両者がぶつかりそうになった時、その空気を裂くように別の空間が現れた。
いや、空間ではない、スキマだ。
「あら~、何重苦しい雰囲気出してんのよ~」
そこから顔を出したのは紫だった。
「紫様!?起きられたのですか!?」
「えぇ、まだ暫くは寝るつもりだけどちょっと・・・ね!」
紫がスキマから出て来る。
それに皆が驚いて声を上げた。
『岳ッ!?』
紫がスキマから出た時、その手には襟首を掴まれた岳がいた。
「痛てて!ちょっと、離してくれ!」
「もう聞いてよ~。少年ったら私に何も言わずに帰ろうとしてるのよ?だから思わず捕まえちゃった、テヘッ」
紫は岳の襟首を離す。
「ったく・・・死ぬところだった・・・って、ここ博麗神社じゃないか!」
俺は周りを見渡す。
周りには見送りに来ていた皆がいた。
「紫!アンタねぇ!」
霊夢が紫に詰め寄る。
「何よぅ・・・私がここに少年を連れてこなかったら争いごとが起こってたのかもしれないのよ?そう思うとここに連れてきて良かったと思うじゃない?」
「ん?争いごと?何か起きようとしてたのか?」
俺が皆を見ると皆が目を逸らした。
「・・・まぁ、言わないんだったらそれでも良いけど・・・。はぁ、さっきあんな別れ方した後だったってのに、これじゃあまだ居たいって思っちまうじゃないか・・・」
俺はため息混じりに言う。
「・・・」
その言葉を霊夢は黙って聞いていた。
「ほら、また空間開けてあげるからさっさと帰りなさい」
霊夢は空間を開けながら俺に言う。
「・・・」
俺は空間を作る霊夢を黙って見ていた。
「なぁ、岳。もう残ろうぜ?」
「そうですよ!」
「今日ではなく明日・・・いや、やっぱり残るべきです!」
『そうだ』と言う皆に俺も「そうしたい」と言おうとした。
「ほら、出来たわよ。さっさと通って帰りなさい」
霊夢が空間を開いて俺に言う。
「・・・わかった、それじゃあな。皆」
俺は皆に別れを告げると、霊夢が作った空間の中へと帰った。
「た・・・助かった・・・」
俺はサラマンダーの背中でグッタリとしていた。
空間の中に入ったのは良いのだが、途中で床が抜けるような感覚に襲われると、上空から命綱無しでスカイダイビングをしてしまい、激突してしまう前に駆けつけたサラマンダーに助けられて俺は博麗神社に連れられていた。
「・・・失敗ね」
霊夢がそう呟くと空間を閉じた。
「じゃあ岳が帰るってのは?」
「また延期ね」
霊夢の言葉に皆が嬉しそうに歓声をあげると俺のところに来た。
「岳さ~ん!」
「また一緒に遊べるね!」
「痛っ!痛いって!」
「よ〜し!博麗神社で宴会だぁ!」
『おぉ~!』
魔理沙がそう言い、皆がそれに答えた。
「ちょっと何で宴会が決定してるのよ!?」
宴会が終わり、俺は博麗神社の縁側に座った。
「が~くさん!」
後ろから呼ばれて振り返ると、早苗が居た。
「さて、帰りましょうか」
「おい!早苗!何抜け駆けしてんだよ!」
早苗の後ろから魔理沙の声が聞こえたかと思うと、魔理沙がやって来た。
その後に妖夢、咲夜、妹紅、輝夜と続く。
「えぇ~、だって岳さんが居るは守矢神社ですよ?だから岳さんは守矢神社に帰ってそこに住むのが確定してるじゃないですか」
どうやら俺の移住先で揉めているようだ。
「いや、今度こそ私の家だぜ!なんせ岳はもう茸の瘴気にも耐えれる物があるんだからな!」
魔理沙の言う通り、にとりに作って貰った携帯型酸素ボンベは持っている。
それどころか、俺が残ることが分かると、にとりから俺の装備一式を返して貰っていた。
「いいえ、岳さんは白玉楼で正式に住民として招待します!幽々子様からも許可をいただきました!」
「そこに住まわせたらいつか岳さんが亡霊になりそうで不安なので、今後岳さんは紅魔館が引き取ります」
「それこそ不安要素が多いだろ!私の所で住むのが一番だろ」
「どこかの貧乏よりもウチの方が私じゃなくても永琳が養ってくれるわ」
「言うなぁ、クソニート!」
「あら、本当の事じゃない」
妹紅と輝夜が言い争いをしている中、その間を通るように霊夢がこっちに来た。
「アンタ等何言ってんのよ?岳は私の所で居候として住んでるのよ。岳はここで住むに決まってるじゃない。ねぇ、そうよね、岳?」
霊夢がニッコリと俺に微笑んだ。
「お、おう。そうだ・・・な」
その顔があまりにも恐ろしく、肯定以外の答えを言うことが出来なかった。
「何ですか、結局霊夢さんも心配してたんじゃないですか!」
「散々岳のこと悪く言ってたのにな~」
「ほんと、素直になれない巫女ですね」
「うるさいわね!もう、あんたら早よ帰れ!」
こうして、俺はまた博麗神社に居候として住み、幻想郷に残ることになった。
「何よ、用って」
霊夢は誰も居なくなった境内に出て口を開いた。
誰も居ない場所からスキマが現れると、そこから紫が出てきた。
その紫の顔はいつになく真剣な表情だった。
「霊夢、貴女何で少年を帰さなかったの?」
「あら、そうするつもりだったのに連れ戻した本人が何を言っているの?」
「あっ、あれは仕方ないでしょ!?少年が私に何も言わずに帰ろうとしたんだから。私が言っているのはその後からよ」
「・・・」
「あの空間に細工をしたのは私にはバレバレ。大方、少年が幻想郷に残りたいと思っていたら幻想郷に戻されるように細工したんじゃないの?」
「さぁ、最近空間を開くなんてものしてなかったから上手くいかなかっただけよ。用はそれだけ?なら私は寝るわ」
霊夢は博麗神社に戻っていった。
紫は何も言わずに霊夢の後ろ姿を見送るとスキマの中に入っていった。




