プロローグ3
先輩の言った通り、途中右側に獣道があった。
「ここか?」
俺は獣道を進んで行く。
5分ほど進んでいると獣道が広がり目の前には神社に続く長い階段があった。
昼間とかだったら結構階段ダッシュとかで足鍛えられそうだな・・・
そんなこと思いながら階段を上ると鳥居が見えた。
無人の神社で人の整備が行き届いてないのか、鳥居の色が綺麗な赤から黒く濁ったような赤色をしていた。
神社の戸は閉ざされており、上には木の札のようなものが見える。
大体そこに祀っている神の名前か、神社の名前が書いてあると思うのだが、スマホのライトを向けてみると、その札には何が書いてあったのかわからないくらい汚れていた。
「気味悪いな・・・さっさと見つけて戻ろ」
竹刀は賽銭箱の横のわかりやすい所に立てかけてあった。
「え~と、俺のは・・・あった!」
スマホの明かりを頼りに自分の竹刀を探し出すとそれを手に持って神社を後にしようと階段を降りようとした。
すると、いきなり突風が吹いてきた。
「うわっ!?」
俺はとっさに目をかばい突風が過ぎるまで待った。
突風は5秒ほどで収まった。
「何だったんだ?いきなり吹いてきてよ」
俺は階段を降りると獣道を進んだ。
「・・・おかしい」
どれくらい獣道を進んだだろう。
全く坂がある所に着かない。
行きはとにかく真っ直ぐ進んだはずだし、帰りも真っ直ぐ進んだはずだ。
スマホを見ると神社で竹刀を拾ってきた時間からもう10分過ぎようとしていた。
いくらなんでもおかしい。
俺は知らないうちに別の道に入ってしまったのだと思い、とにかく神社に戻ろうときた道を引き返そうとし、後ろを振り返ると歩きだした。
「・・・おかしい。そろそろ神社の階段が見えてもおかしくないはずだぞ?」
間違った道を進んでないか確認するためにスマホの明かりを左右に向けながら歩いていた。
間違いなく左右に道はなかった。
それなのに全く神社の階段が見えてこない。
俺はだんだん不安になってきた。
"神隠し"
あの時男性に言われた言葉が脳裏によみがえる。
「ま、まさか・・・」
俺は不安に駆られたがいやいやと頭を振る。
「いやいや、あり得ないだろ。俺はどっかで間違えた道を進んだだけさ!」
独り言を呟いて自分を納得させようとする。
しかし、脳裏に浮かんだ"神隠し"と言う言葉が頭から離れない。
それに最近みた山奥のトンネルを抜けた瞬間、車が止まりその日の夜に様々な化け物に襲われる映画のことを思い出してしまう俺。
「なんでこんな時に変なこと頭の中に浮かぶんだよ・・・」
とにかく神社に戻るために進まなければ! 進めば絶対着くはずだ!
そう思っていた俺はいきなりスマホから着信が来て飛び上がってしまった。
スマホを見ると村岡 真の文字が。
俺はすぐに着信に出た。
『おい!大丈夫か!もう時間だいぶかかっても帰ってこないから心配してんだぜ!』
「ま、真!助けてくれ!何故か獣道から出られないんだ!」
『何!?どの辺りかわかるか!』
「わからない。ただ、神社に着いて竹刀を持った。おそらくその帰りの獣道で迷ってるみたいで・・・!」
『わかった!そこ動くなよ!すぐ向かう!』
「あぁ!助かる!おそらく獣道のどこかで変な道通ったと思うんだ!だから獣道を進んでいる時声あげながら進んでくれ!」
『わかった!心配すんな!必ず見つけてやるからな!』
「あ、あぁ!ありがとう!」
俺は電話中に涙を流してしまった。
正直怖かったんだ。
『てか、まさか迷うなんてな』
「う、うるせー。他の奴らには言うなよな」
『はいはい。わかってますよ』
なんだかこんな会話でも聞いていると安心する。
そう思ってそういえばどれくらいここにいるんだと時計をみようと思ってゾッとしてしまった。
スマホの画面、アンテナがある所。
そこには"圏外"と書かれていた。
・・・は?
確か、圏外や電源が切れた時に電話が掛かってきたことを報せる機能はあったような気がする。
だが、圏外の時に電話ができる機能はなかったはず。
少なくともこのスマホにはなかったはずだ・・・
『おい!おい!聞こえてるか!?』
だったらこの真の声はなんなんだ・・・
そしてそういえばさっきからおかしなところがあることに気づく。
普通、真なら
『おい!岳!大丈夫か!?』
『わかった!岳、そこ動くなよ!すぐ向かう!』
と、どこかに必ず"岳"と言うはずだ。
だが、この着信の真は一言たりとも岳と俺の名前を呼んだか・・・?
『おい!おい!・・・お~い・・・お~い・・・』
それにさっきは切羽詰まっていたはずの声が遠くにいる時に呼んでいる感じの長くゆっくりとした声に変わっている。
恐くなった俺は通話を切った。
しかし、通話を切ってもまた村岡 真の文字の着信がくる。
俺はとうとうスマホの電源を切った。
しかし、 プルル・・・!
電源を切ったはずのスマホから村岡 真の着信が。
そして、何も押していないはずなのにいきなり通話状態になる。
そしてスマホから電話を掛けた声が聞こえてきた。
『ナンダ、気付イタノカ・・・』
「うわぁぁぁあ!!?」
俺はこの世の思えない声を聞いてスマホを投げつけた。
投げられたスマホは明かりが点いている方が上で落ちた。
その明かりが木々の間から出てくる何者かを照らした。
それは7~8歳の男の子だった。
その子は俺を見るとニタァと笑って 「ミ~ツケタァ~」 と裂けた口を開けて言った。
「ヒッ・・・!」
間違いなくこの世のものではない者を初めて見たことに恐怖を覚えた俺は手に持っていた竹刀を構えた。
子供は裂けた口を大きく開けると俺に向かって飛びかかってきた。
俺は震えて動かないと思っていたが剣道の経験からなのか身体が勝手に動いた。
俺は右側に避けるとさっきまで自分がいたところに飛びかかってきた化け物の頭に向けて竹刀を思いっきり振り下ろした。
暗くて詳しくはわからなかったがおそらく竹刀は頭に当たった。
かなり手応えを感じた。
人の頭にこのくらい振り下ろしたら大怪我どころか済まないほどに振り下ろした。
しかし、化け物はゆっくりと起き上がってきた。
「っ!?」
「ア~。餌ガサァ~抵抗スルナヨ」
化け物は俺に向かって拳を放つ。
俺はとっさに竹刀で拳を受け止めようとしたが竹刀があっという間に折れて、拳は俺の腹部にめり込んだ。
「グッ・・・ガッ!?」
拳の威力がそれほど強いのか、そのまま背後の木へと吹っ飛ばされた。
「ガハッ・・・!!」
俺は口から多量の血を流す。
それに拳を受けた腹部からも血が流れているのがわかる。
「・・・」
車に轢かれた時がこんな感じなのか、全く動けない。
それどころか目が霞んできた。
化け物がゆっくりとこちらに向かってくる。
あ~あ、ここで死ぬんだと思ったとき、化け物が何かに気づいたように上を見ると 「チッ!」 舌打ちをして木々の中へと消えていった。
「・・・」
とりあえず助かったのか・・・? そう思うのと同時に俺は意識を失った。
「逃した・・・!」
「おい、霊夢!人が!」
意識を失う時、そんな声を聞いた気がした。