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内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~  作者: 彩葉
七章、鏡の噂

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1、異変

 二学期も始まり、夏休みボケも抜けてきた頃。

珍しく竜太からハルの元へメッセージが届けられた。

内容は至ってシンプルで、「鏡の噂って知ってる?」という一文だけだった。


 全く覚えのないハルが何の事かと返すと、彼は「知らないなら良い」とだけ答え、そのまま話は終わってしまった。

詮索するのも気が引けた彼女は深く考えずに忘れる事にした。


 しかしその数日後、ハルは偶然気になる会話を小耳に挟む事となる。

 帰宅途中、彼女の前方を広がって歩く六、七人の小学生がいた。

その内の一人が弾んだ声で「願いが叶う鏡って知ってっか?」と友人に問いかけたのだ。


(鏡?)


 何となく気になったハルは速度を緩めて彼等の後ろをゆっくりと歩く。

何人かの子供が「何それ?」と興味津々に聞き返す。


「キュウサンスーパーの横に、誰も住んでない家があるだろ? あそこに大きい鏡が捨てられてるらしいんだけどさ」


 キュウサンスーパーはハルもたまにお使いで行くスーパーの一つである。

年季の入った個人経営のスーパーで、細々と切り盛りしている小さな店だ。


 確かに隣の敷地にはボロボロの廃屋があった。

道路から少し奥まった所に建っている上、投棄防止用の金網のフェンスが設けられており、少々不気味なボロ屋である。

ハルもちゃんと見たことは無かったが粗大ゴミが大量に棄てられていたと記憶している。


「日が暮れる頃にその鏡に向かって願い事を言うと、その願いが叶うんだってさ」


 子供にありがちなおまじないの類いだろうか。

そう思って興味を無くしかけたハルだったが、別の子供が「えー、違うよー」と異議を唱えたので再び足を遅めた。


「俺が聞いたのは、その鏡に向かって名前を言うと、なりたい自分になれるって話だよ」


(あんまり大差ない気がする……)


 まさかこんな子供騙しの話が竜太の言っていた噂とは思えない。

ハルはあーでもない、こーでもないと盛り上がる子供達を追い抜き、さっさと帰宅する。

家に着く頃には鏡の噂など、すっかり頭から消え去っていた。




 その翌日の放課後。

ハルは珍しく一人で寄り道をした。

もうじき北本が誕生日だと知り、プレゼントを買う為に雑貨屋を訪れたのだ。


(結構良い物が買えたかな……うん)


 購入したのは可愛らしいタオルと石鹸のセット。

自分にしては中々に良い買い物が出来たものだと、ハルは満足気に店を出る。


 大通りを歩いていると向かいから複数の男子中学生が歩いて来るのが見えた。

派手に笑い声を上げる彼等に、ハルは少し身をこわばらせて道の端に寄る。


(あれ?)


 その中学生達の中に竜太がいた。

随分と話が盛り上がっているらしく、彼等は楽し気に小突き合ったりしている。

竜太はハルに全く気付かず、すれ違う。

友人とにこやかに話す彼の笑顔に、ハルの目は釘付けになった。

まさかあの無愛想な彼があんな風に笑う事が出来るなど、夢にも思わなかったのだ。

以前にあったゴミ拾いでの大人達と接する姿も意外だったが、それ以上の衝撃である。


(……まぁ、そりゃそうか。竜太君だって、友達と話す時くらい、笑うよね)


 自分と話す時は何を考えているか分からない顔をしているか、不機嫌な顔のどちらかだったのを思い出す。

僅かに胸が痛んだ気がして、ハルは買い物袋を握りしめた。


(何か、何だろ。つまんない)


 先程までうきうきした気分だった筈が、何故か今はそうでもない。

ハルは何とも言えないつっかかりの様な物を感じたまま帰宅した。


 そしてその不快感は夜まで続いた。


(……駄目だ。……何でこんなに気になるんだろ?)


 ベッドで仰向けに寝転がりながら、うーんと唸る。


(流石に用も無いのに連絡するのも迷惑かなぁ……あ、そうだ。前の鏡の噂について聞くだけ聞いてみよう)


 さほど興味の無かった話題を口実に、思い切ってメッセージを作成する。


──こんばんは。前に言ってた噂って何だったの? 今日、すれ違ったんだけど、気付かなかったみたいで……気になったから連絡しました。


 不自然な文面じゃないか、何度も読み直して確認する。

送信した後、ハルはいつの間にか力んでいた肩の力を抜いた。


(あれ? 私、何を緊張してるんだろ)


 一人首を傾げていると、すぐに返事が届いた。

メッセージを開き、ハルは目を疑う。


──こんばんは!


──えー、すれ違ったの? 俺全然気付かなかった(汗)次見かけたら、()()()()()から声かけてよ!!


──ってか噂って何? ゴメン、忘れちゃった!(笑)気にしないで良いからね!!



(竜太君じゃ、ない……!?)


 ずっとモヤモヤしていた違和感の正体はこれだったのだろうか。

ハルは青ざめたまま固まった。

一体彼の身に何があったのかと必死に頭を巡らせる。


(もしかして、心霊番組とかでよくある『取り憑かれてる』ってやつ?)


 しかし、あれほど場慣れしていそうな彼がそう簡単に取り憑かれるようなヘマをするだろうか。

ハルは真っ暗になったスマホの画面を見つめた。

何でどうしてと考えている内に、はたと鏡の噂を思い出す。


──願いが叶うんだってさ。


──なりたい自分になれるって……


 もしあの子供達の話と竜太の異変が関係あるとしたら、あの竜太は彼本人という可能性もあるのではないか。


(この人が竜太君本人なのか、別人なのか、どうやって確認したら良いの……?)


 夕方に見かけた、ハツラツとした竜太の笑顔を思い浮かべる。

あれが彼の望む姿だったのだろうか。


(なんか、それはヤダなぁ……)


 彼は初めて会った時から憮然とした態度で、生意気で可愛いげの欠片もなく、そして堂々としていた。

もう一度メッセージを読み、その軽薄な文章に嫌悪感を抱く。


 とにかく一度、ちゃんと会って話をせねばと思い直し、再びメッセージを送る。


──明日、学校が終わったら時間ある?


 彼の返事は早かった。


──良いよ! 校門のトコ集合で良い?


 絵文字やスタンプが多く使われた文面が不快で、ハルは顔をしかめた。

同時に、不安もよぎる。


(何で、校門? あ、もしかして……)


 恐ろしい考えに思い至り、ハルはだんだんと鼓動が早くなるのを感じた。


(やっぱり、竜太君のフリをしている別人? 私の事を知らないから、同じ学校の子だと思ったんじゃ……?)


 それならば、最初の「ハルちゃん」呼びにも合点がいく。

少し迷った末、ハルは「校門じゃ目立つから、市の図書館の前じゃ駄目かな?」と当たり障りなく返信した。

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