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内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~  作者: 彩葉
六章、「出会い」「迷子」「口裂け女」

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5、口裂け女

 新学期まであと僅かといった頃。


 ハルはいつもの友人達とファミレスで夏休みの課題を広げていた。

広げると言っても、専ら課題を写しているのは一人だけなのだが──

この日はそのズボラな一人の為に、皆で課題を持ち寄っていた。


 必死な形相で丸写し作業をする友人を尻目にハル達はお喋りに花を咲かせる。


「そういやさ、知ってる? SNSの赤い女の噂」


 以前大和田を怒らせた友人の一人、宮町(みやまち)リナが、また懲りずに変な話題を持ち出す。

宮原ハルと宮町リナ。

リナは二人の名前の字面が似ている事から、勝手に「宮宮コンビ」なるものを吹聴するようなお調子者である。

報道部のリナはオカルト話や占いなどの噂話が好きで、ミーハーな面があった。


「何それ?」


 皆が知らないと答えると、彼女は自慢気にサイドテールを揺らしながら話し始めた。


「最近噂になってるんだけどね。SNSで自撮り写真ばかりアップしてる、マスクをつけた赤い服の女がいるの。『私ってマジブス、綺麗なイイ女になりたいよぅ』とか言って」


 顔を気にしてるなら写真を撮らなければ良いのでは、とハルは突っ込みたくなる。

口に出さないハルの変わりに、大和田は「うざっ」と一刀両断した。


「誘い受けとかマジ勘弁だし」


「あぁ~、『そんな事ないよ、君は可愛いよ』って言われたがってるアレね」


 北本が納得したようにオレンジジュースを啜った。


(誘い受け……そんなのがあるのか……)


 ハルは適当に相槌を打ちながらチビチビとココアを飲む。

リナは「まだまだここからが本番!」と鼻息荒く身を乗り出した。


「その赤い服の女と繋がって『いいね』したり、『綺麗だよ』ってコメントをするとね……なんと、その女がやって来るの」


 リナはわざとおどろおどろしい口調で話す。

完全に楽しんでいる彼女に合わせ、北本も悪ノリして怯えた声を出す。


「く、来るって……どういう事……!?」


 流石は演劇部である。

北本の迫真の演技に気を良くしたリナは更に声のトーンを落とす。


「コメントしたり絡んだ人の前に、女がどこからともなく、突然現れるんだよ。そして、ゆっくりとマスクを外して、こう言うの。『これでも、本当に綺麗……?』って……」


「ストーップ! それ、超有名な都市伝説のパクリじゃん!」


 北本の突っ込みに、一同は脱力する。

期待通りの反応だったのか、リナは「現代版口裂け女だよー」とヘラヘラ笑った。

「真面目に聞いたアタシがバカだった」と呆れる大和田にハルもこっそりと同意した。




 数日後。

ハルはレンタルショップへDVDを借りに行くついでに散歩をしていた。

車も通る程のそこそこ大きな橋を渡っていると、川沿いの道の向こうに一組の男女の姿が目についた。


 ひときわ目を引いたのは女性の鮮やかな赤いワンピースだ。

ハルに対して背を向けているので顔は分からない。

ただ、茶髪で背中が大きく開いた大胆なデザインの服という点から、若い女性らしいという事は分かった。

男性の方は二十代位だろうか。

彼は何やら微妙な表情を浮かべている。


 カップルらしきその二人の距離感に、ハルはただならぬ雰囲気を感じ取った。

流石に橋の上からでは二人の会話を聞き取る事は出来ない。


(何だろう? 喧嘩かな?)


 ふいに女性の手が緩やかに動き、ハルはその所作に目を奪われる。

彼女はどうやらマスクを外したらしい。


(ん? マスク?)


 男性はみるみる青ざめ、転倒しながら逃げ出した。

彼の悲鳴が橋の上にいたハルにまで届く。


(まさか、ね……)


 きっとただの痴話喧嘩だろうと自分に言い聞かせ、クルリと来た道を引き返す。

あの後、女性が彼の後を追ったのかどうかはもう分からない。

DVDはまた今度にしようと、ハルは遠い目で川を見下ろすのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いろんな都市伝説、興味ありますね。あまりに有名なので新しく設定を変えて作り直すのは骨折り損のくたびれ儲けになりそうですが……。近づかないのが賢いって言うことですかね。
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