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内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~  作者: 彩葉
五章、渡り廊下の怪

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1、噂話

 鮮やかなマンゴーソースがソフトクリームに映える、ゴロゴロとした果肉感たっぷりのパフェ。

目の前にある美味しそうなスイーツだが、まだ食べる事は出来ない。


(あ、ブレた。もう、早く食べたいのに……)


 ハルは友人達に勧められて最近始めたSNSに上げる写真撮影に苦戦していた。


 最近オープンした南世与駅近くの喫茶店。

この日ハルは北本明里や大和田佳澄達のグループ数名とこの店に訪れていた。

手間取りながらも何とか撮影作業を終える。


(やっと食べられる……私ってSNS(こういうの)向かないなぁ……)


 友人達は既に食べ始めている。

ハルも慌ててパフェを口に運んでいると、同席していた友人の一人が話しかけてきた。


「そーいや宮原ちゃんはさ、ウチの学校の噂、知ってる?」


「噂?」


 きょとんとするハルにまた別の友人が声をひそめる。


「夏になるとね、出るんだって。有名な話だよ」


「で、出るって……?」


 思わずごくんと口の中の物を飲み込み、身構える。

美味しいパフェを堪能するのに相応しい話の内容とは思い難い。


「昔、夏休み中に体育館に続く渡り廊下で死んじゃった生徒がいるんだって」


「毎年夏の夕方、六時四十四分になると、その生徒の霊が『返して、返して……』って言いながら襲いかかって来る……って噂」


 怖がるハルが面白かったのか、彼女達はわざとおどろおどろしく話す。


「何を返して、なの?」


 もし噂が本当なら視えてしまうハルは特に危険かもしれない。

ハルはクリームを突っつきながら、それとなく詳細を探る。


 しかし彼女達はそれ以上の事は知らなかったらしく、質問を適当にはぐらかした。


「分かんない。虐められっ子だったみたいだから、何か大事な物でも取られたんじゃない?」


 北本は「まぁよくある怪談だよね」とあまり興味がなさそうにウエハースを齧った。


「えっと、何で六時四十四分なの?」


「なんかぁー、噂だとその生徒が死んだ時間らしいよ」


「夏休み中に体育館を使う運動部員は、皆その時間帯を避けて帰ってるんだって」


「こわーい」と笑う彼女達は、皆が信じているという状況そのものを楽しんでいるようだ。


(多分ただの怪談だろうな……六時四十四分なんて明らかに創作っぽいし。まぁ私はそんな時間帯に学校に行かないから、関係ないかな)


 あまり気にする事もないと判断し、ハルはパフェを頬張った。

冷たい甘酸っぱさが口に広がり、小さな幸せを噛み締める。

彼女達は他にもこんな噂が、あんな噂がと知ってる話を口にするが、先程の渡り廊下の話並に具体的なものは無いようだ。


 突然、バンッという音が店内に響く。


 驚いたハルの肩が大きく跳ねた。

どうやら大和田がテーブルを叩いたらしい。

店内が一時静まり返ったが、すぐに元のざわめきが戻る。


「いつまでもつまんない噂話してないでさ、もっと他の話出来ないの?」


 普段以上にキツい言い方をする大和田の剣幕に怯み、全員が黙りこむ。


「ご、ごめん、カスミ」


 気まずげに謝る彼女達に、北本は笑いながら「まぁまぁ」と取りなす。

しかし白けてしまった空気は変わらず、パフェを食べ終わる頃には自然と解散の雰囲気が漂っていた。


「そうだ! ねぇ私、ちょっと服見に行きたいんだけど!」


 このままお開きというのが嫌だったのか、北本が明るい声を上げる。

全員が迷いを見せる中、大和田は「アタシはパス」と手をひらつかせた。

北本は残念がったが他の者達は少し安心した様子で「行く行く」と答えていた。


(大和田さんが居ないとなると、大和田さんの悪口大会になりそうだな……きっと)


 大和田もそれを予想しているのかキツい眼差しを北本以外の友人達に向けている。

ハルも大和田の事は苦手だったが、一緒に劇を観に行った時の彼女は嫌いでは無かった。


「ご、ごめん。私も今日は帰るよ……」


「マジかー残念。じゃあカスミ、宮原ちゃん、また今度ね!」


 店を出ると北本達は駅とは反対方向に向かって行く。

互いに手を振り合っている間も、大和田だけはツンとした態度を崩さなかった。


(どうしてこんなに怒ってるんだろう……)


 ハルと大和田は黙ったまま駅に向かって歩き出した。


「宮原さん、本当はアカリ達と一緒に行きたかったんじゃないの?」


 大和田が不機嫌な様子でぽつりと呟く。

服屋に興味はあったが「大和田の悪口を聞きたくはなかった」とは流石に言えない。

何と返せば良いか分からず、ハルは「いや、そんな」とモゴモゴとした反応を見せる。

ハルの態度が分かりやすかったのか、大和田はわざとらしいため息を吐いた。

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