5、不審者①
ハルの夏休みは夏期講習ばかりではない。
本日は町内のゴミ拾いの日である。
いつもならハルの母が参加するのだが、生憎この日は母の同窓会と同じ日程だった。
(近所の人に会うの、面倒だなぁ……)
ハルは母の代わりに麦わら帽子を深く被る。
全くやる気の出ないまま集合場所へと赴いた。
集合場所である駐車場には既に人が集まっていた。
持参した軍手をはめ、支給されたビニール袋を受け取る。
「あらぁ宮原さんのお孫さん。おはよう」
「お、おはようございます……」
「おぉ、宮原さんのお孫さんか、頑張ろうなぁ」
「はい、頑張ります……」
幅広い年齢層の住人達からひっきりなしに声をかけられる。
ハルは出来るだけ目立たないように後ろを歩いた。
そして誰とも目を合わせないようにゴミ拾いに没頭する。
(おじいちゃんってば、どれだけ私の話を近所の人に言いふらしてたんだろ……恥ずかしい)
祖父、源一郎の中で、ハルはずっと十歳のままだった。
会わない間の七年間、何度も十歳のハルについて語っていたらしい。
十歳になってやっと自転車に乗れるようになった事──
紅茶が飲めなくてココアを二回もおかわりした事──
国語で百点を取った事──
話をした事もない人々が、そういったハルの昔話を知っている事がとにかく恥ずかしくて堪らない。
(おっと)
煙草の吸い殻を拾おうと屈んだ瞬間、排水溝の奥で何かが蠢いた。
ハルは反射的に目を反らし、なに食わぬ顔でゴミを拾う。
ネズミの可能性もあるが、まずは目を逸らすのが癖となっていた。
たまに変な物を見つけたりはしたものの、作業は順調に進む。
黙々とゴミや枝を探していると、段々と賑やかな女性達の声が聞こえてきた。
どうやら作業中にお喋りに夢中になっているらしい。
ハルが道を変えようか迷っていると聞き覚えのある名前が耳に届いた。
「本当、竜太ちゃんは偉いわねぇ。三丁目のお手伝い、まだやってくれるなんて」
「ウチの子も竜ちゃん位しっかりしてくれると良いんだけどねぇ~」
まさかと思いつつ、ハルはチラリと声のする方に目を向ける。
(何、あれ……すっごい人気……)
少し先の曲がり角で、竜太が主婦やお婆さん達に取り囲まれていた。
違和感しかない光景に目が離せない。
彼女の知る竜太は決して社交的とはいえず、生意気で可愛いげのない性格だった。
現に彼は無愛想なままペットボトルの入った段ボール箱を抱えている。
「あらぁ、宮原さんのお孫さん」
(しまった、見つかった)
主婦の一人に目敏く見つけられ、ハルは早く移動しなかった事を後悔した。
いらっしゃいな、と笑顔で声をかけられては無視する訳にもいかない。
「お、お疲れ様、です」
ハルの言葉に被せるように、主婦達は一斉に喋りだした。
「竜ちゃん、この子、宮原さんのお孫さんなのよ~」
「竜太ちゃんよりお姉さんなのよねぇ、確か」
口を挟む隙もない。
ハルが目を白黒させていると竜太は溜め息を吐いた。




