3、人形③
大和田は手馴れた様子で動画を再生した。
デジカメの液晶画面に先程のステージが映し出される。
動画は司会の挨拶が終わり、丁度舞台が始まる所から撮影されていた。
「あれ? あの人形は?」
あれだけ目立っていた日本人形が動画には映っていなかった。
「はあ? 人形? 何それ」
何の話だと言わんばかりの大和田の反応から、ハルはやっと日本人形がただの小道具では無かったのだと気付く。
「な、何でもない……」
「……ふーん」
訝しんではいたが、彼女もそれ以上の追究はしなかった。
その時、ハル達の隣のテーブル席に職員らしき中年女性と十歳位の少女が座った。
どうやら女性はぐずる少女をなだめているらしい。
「だから、お人形さんなんて、無かったでしょ? 皆もそう言ってるじゃない」
「本当にあったよ! 赤い着物のお人形!」
「でもねぇ……」
「あったもん! すっごく怖い顔してたもん!」
「大丈夫よ、怖い事なんて何もないから、安心して」
(人形の話だ。あの子にも視えてたのか……)
怖い怖いと怯える少女に女性は手を焼いているようだ。
ハルは遠目だったので人形の顔までは確認していない。
恐らくあの子は人形の顔を至近距離で視てしまったのだろう。
(あんなに怯えるなんて、可哀想に……どんな顔してたんだろ)
「……宮原さん。今の話、聞いた?」
大和田が声をひそめる。
「もしかしてその人形、宮原さんも見たとか?」
「い、いや、私はただの勘違いだったみたい……」
「そう……」
大和田はチラリと女の子を窺って、再びデジカメに目を戻す。
何となくぎこちない空気になってしまい、二人は黙ったまま映像を見続けた。
「やっほーぅ! 二人共、今日は来てくれてありがとね!」
(早っ……)
ハル達の予想より大分早く、北本は駆け寄ってきた。
奥の方ではまだ片付けをしている部員の姿が見える。
勝手に抜け出て大丈夫なのかと思いつつ、二人は彼女の登場に笑顔を浮かべた。
「お疲れさん、猿」
「あはは、ひっどーい!」
「面白かったよ、北本さん」
北本が加わる事で空気が和やかなものに変わる。
しかし大和田は「あ、そうだ」と、たった今思い付いたかのように話を切り出した。
「さっき女の子がさ、赤い着物の人形がいたーとか言ってたんだけど。なんか宮原さんも見たかもしれないって……もしかして、あんたが前に言ってた人形じゃない?」
「赤い着物の人形? お姫ちゃんの事?」
「あー、それそれ。なーんか気になっちゃってさぁ」
(お姫ちゃんって何だろ?)
二人だけで進む会話にハルは一人取り残される。
どうやら大和田には日本人形の心当たりがあるらしい事だけは分かった。
「あ、じゃあ見てみる? 我が演劇部に代々伝わる守り神ちゃんを!」
そう言って北本はパチリとウインクを決めてみせた。




