1、人形①
こっくりさん事件が解決して以来、ハルの日常は以前よりも少しだけ騒がしい物になってしまった。
世与高校では夏休みに夏期講習が開かれる。
生徒は前期と後期の合わせて二週間の内、最低でも七日は受講しなくてはならない。
塾に通っていないハルは全日程に出席するつもりでいた。
その事を桜木陸斗に話した所、彼は「じゃあ俺も全部出ようかな」などと言い出した。
何が「じゃあ」なのかはハルの知る所ではないが、問題は桜木が彼女に対して友好的すぎる点だった。
「おーっす、宮原! おはよう!」
「あ、うん、おはよ……」
目立つ事を苦手とする彼女にお構い無く、彼は大声で話しかけてくる。
ハルは同級生達から好奇の目に晒されまくり、講習三日目辺りからは噂話の的にされる事となった。
(桜木君、よっぽど視える仲間が出来て嬉しいんだろうな……)
悪気無くなついてくる桜木を無下に出来ず、内気な彼女はその度に肩を落とすのだった。
後から判明したのだが、彼は怪異が視える人が現れる「旧世与町」の特質を知らなかったらしい。
単に自分には生まれつき霊感があるのだと思い込んでいたそうだ。
よほど興味深い話だったのか「そういや地元以外で変なモノを視た覚え無ぇな」としきりに納得した様子を見せていた。
(それにしても、何で竜太君は旧世与町の事とか知ってるんだろう……妙に場馴れしてる感じだし)
竜太と最後に連絡を取ったのはこっくりさん事件が終わった夜である。
無事に解決したと報告した所、「良かったね」の一文が返ってきたきりだ。
(色々気になる事も聞きたい事もあるんだけど、何だか連絡しにくいんだよなぁ)
どこかモヤモヤしたまま彼女の夏休みは夏期講習の思い出ばかりが積み重ねられていった。
課題のプリントを提出し終えた帰り際、ハルはクラスメイトの大和田佳澄に呼び止められた。
彼女は北本明里と特に仲が良い友人の一人である。
好き嫌いがハッキリした性格で、見た目も口調もキツい為、ハルは彼女が少し苦手だった。
「明日、アカリが児童館で演劇部の公演をやるんだって。応援がてら観に行こうと思ってるんだけど、宮原さんもどう?」
「え、えっと……」
ハルと大和田は個人間ではさほど親しくない。
何故自分を誘うのかと思うより早く、彼女は「皆用があって来れないんだってさ」と茶色い髪をかき上げた。
一人で行くよりはハルを誘った方がマシ、という事なのだろう。
行くか行くまいか、脳内の天秤が揺れる。
(北本さんのやる演劇、観てみたいけど……大和田さんと二人きりっていうのが、ちょっと心配、かも)
「行くの、行かないの? どっち」
苛立たしげに答えを急かす大和田に、ハルは反射的に「い、行くよ……」と答えてしまった。
四章は短いお話二本で構成する予定です。




