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内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~  作者: 彩葉
六章、メリーさん

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6、報告

 翌日の放課後。

ハルは昨日の今日で再び図書室へと呼び出された。


「……って事があってよぉ! ヤバくね!?」


 図書室であるにも関わらず大きな身振り手振りで説明する三沢に圧倒され、ハルは赤べこのように頷き続ける。

迷った末に送ったメッセージに返事が無く、余計に怒らせてしまったかと地味に気落ちしていた彼女だったが、とんだ杞憂だったようだ。


(まさかそんな行動力あるとは思わないもん……危ないなぁ……)


 現場に居なくて良かったと、内心ではヒヤヒヤものである。

今回の行動力筆頭である持田も眉をハの字にして苦笑している。


「いやぁ、まさか三沢君が時報を書くとは思わなかったよ」


「咄嗟の判断にしちゃ天才だろー?」


 一晩明けて恐怖心も薄れたのだろう。

ヘラヘラと笑う三沢の笑顔は今までと同じ軽いものだった。

以前のハルは人を小馬鹿にするような彼の笑顔が苦手でしか無かったが、昨日の冷たい目を思えば安堵しかない。


「えと……その後、メリーさんは来てないの?」


「今んトコはな。帰ってからも(なん)も無かったし、今日も一日(いちんち)何も無かったからな。やー、マジで気ぃ楽んなったわー」


「良かったね。でも、もしメリーさんが時報の方に狙いを変えたとして、何処に行くつもりなんだろうね?」


 ハルが真面目に考え込んでいると、三沢はさも可笑しそうに「知るかよ」とケタケタ笑った。

楽しそうで何よりである。


「……あ。そーいや持田は勿論だけど、宮原もサンキューな」


「? 何が?」


 体を張った持田のように、特に何か礼を言われるような事をした覚えは無い。

疑問符を浮かべる彼女から目を逸らし、三沢はバツが悪そうに視線をさ迷わせた。

 

「俺、昨日持田に八つ当たったろ? それなのに持田は助けようとしてくれてさ。でも俺……正直、ギリギリまで『自分が助かんなら持田に押し付けてもいっか』って思っちまってたんだ」


「あ、でもそれは俺が言い出した事だから別に気にしなくて良いのに」


「良かねーよ。……でも、良いタイミングで宮原からのメッセージ読んで、『やっぱ駄目だ!』って思えた。おかげで……寸での所でクズヤローにならずに済んだ」


 深々と頭を下げて「だから、ありがとう」と礼を言われてしまい、ハルは慌てて頭を上げさせた。


(わ、私のメッセージも無駄じゃなかったって事……だよね? だとしたらちょっと嬉しい、かも)


 メリーさんが居なくなった理由が別の番号を書いたからなのか、三沢の番号を消したからなのかは分からないが、どちらにせよ無事に問題は解決したようだ。

「解決して良かったね」と労えば、ふと思い出したように持田が話題を変えた。


「そういえば、三沢君の電話番号を書いた人って、もしかして……」


「あ、持田も気付いたか? 癖ツエーもんなぁ、アイツの字」


「……やっぱり……」


(え? え? どういう事? 持田君も知ってる人って事は、うちの学校の生徒なの?)


 ハルだけ会話に付いていけず、説明を求める抗議の視線を二人に向ける。

含みのあるやり取りをした割りに、三沢はあっさりと犯人の名前を口にした。


「俺の電話番号書いたのは富士のヤローと……元カノだ」


「え!? そうなの? でも何で……」


「富士は小学校同じだったからな。どーせ噂を思い出して元カノ誘って憂さ晴らしに悪ふざけ~、ってトコだろーよ」


 わざとらしくブスッとした顔で「面白くねぇ」と呟いているが、さほど怒っているようには見えない。

その反応があまりにも意外で、ハルと持田はほぼ同時に驚いた声を上げた。


「え、どうしちゃったの、三沢君……?」


「そうだよ、昨日はあんなに怒ってたじゃないか」


 らしくないとしきりに困惑する二人に、彼は「お前ら俺を何だと思ってんだ」と半笑いで突っ込んだ。


「そりゃ()今も腹は立ってっけどさ。それで同じ事やり返した所でアイツらと同レベルになるだけだろ? とりあえず解決したんなら、もー良ーかなって思ってさ」


「三沢君、すごい。偉すぎるよ!」


(本当に……何ていうか、変わったなぁ。三沢君もだけど、持田君も……)


 音を立てずに拍手をする持田をそれとなく真似すると、三沢は照れを誤魔化すように「だろぉ~?」と軽口を叩いた。


「とにかく今は富士共と縁を切りてぇ。そんで、人を馬鹿にしたり平気で浮気したり、逆恨みするような奴等じゃなくて、今度は真っ当な奴と……持田とか宮原と友達になりてぇんだ」


「え、お、俺?」


(私も!?)


 面と向かって「友達になりたい」とは中々言われ慣れないものである。

「今までの事があっから難しいかもだけど、考えといてくれな」と目を細める彼に、二人は慌てて返事をしたのだった。




 ここまでの大団円になると誰が想像出来ただろうか。


 帰宅後、ハルはスマホに表示された新しい友人二人の名前をぼんやりと眺めた。

二人に対する気まずさが完全に払拭された訳ではないが、嫌ではないのだから不思議である。


(もしまたメリーさんが来たら相談してね……っと。送信)


 メリーさんの件が解決したとなれば、今後は彼らとやり取りをする回数も激減するだろう。

スマホを置いた彼女は明後日から始まる夏休みに意識を向けたのだった。










『私、メリーさん。番号間違ってたのね?』


『さようなら』


 彼らに届かなかった声なき声が、一体何処に向かったのか──


 一度も姿を見せる事無く、ハルと三沢に「幼女の皮を被った年老いた怪物」という全く同じ印象を抱かせた()()が何だったのか──


 真相を確かめる(すべ)はない。

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