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内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~  作者: 彩葉
三章、こっくりさん

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2、こっくりさん

 桜木の周りの空気が嫌に冷たい。


「た、助けてって……何から?」


「何って、宮原にも()()()が視えてるんだろ」


 彼は自分の頭上を親指で指した。

肉塊のようなクラゲモドキがキョロリと彼の指を見る。

彼の質問を誤魔化せる程、彼女は嘘が得意ではない。

素直に頷くと、桜木は「やっぱりな」と笑顔を浮かべた。


「なぁ頼むよ。三日前にくっ付かれて以来、全然離れてくれねぇんだよ。頭痛ぇし」


 視える事は認めたがどうにか出来るとは言っていない。

彼は何故か、ハルなら助けられると思い込んでいるらしい。


「あの、私、視えるだけで、全く何も出来ない……です」


「はあ? いやいやいや、嘘だろ?」


 すみませんと謝るハルに、桜木は明らかに動揺した。


「だって宮原、教室でマンションから飛び降りる男、視てただろ? 暫くしたらそいつ居なくなってさ。その頃から宮原、なんか堂々としてたし」


 そんなに前から観察されていたのかと、ハルは恥ずかしさのあまり俯いた。


「それに、この前だって頭に女乗せてただろ。でもすぐ宮原は髪切って、女は居なくなってて……」


「そ、それは……」


 ここで迂闊に竜太の存在を出す訳にもいかず、口ごもる。

どうやら彼は今まで視えていた怪異に対し、ハルが自力で解決したと勘違いしているようだった。


「ほ、本当の本当に、視えるだけ、です」


「マジかよ……」


 机に手をつき愕然とする姿にハルは心底同情する。

頼れる者のいない恐怖は彼女も身に染みて分かっていた。

一人で抱え込む事が限界だったのか、桜木はポツポツと事の経緯を話し始める。


「俺、テニス部なんだ。三日前、部活仲間がふざけて『こっくりさんをやろう』って言い出してよ……」


「……まさか、やったの?」


「いや、俺は断った。でも無理に止めても場が白けそうだったし、少し離れて見学だけしてたんだ」


 確かに場の空気を考えると止めるのも抜け出すのも難しいかもしれない。


「そしたらコイツが紙の上に現れて、十円玉を動かし出した。……なかなか帰ってくれなくてさ。皆イライラし出して……そのままお開きになった」


「…………」


 オカルト知識の少ないハルですら、こっくりさんの中断は悪手であると理解出来る。

桜木は深い溜め息を吐いた。


「部活の仲間は五人だったんだけど、指を離した瞬間、皆の頭の上にコイツが分裂してくっ付きやがった」


「分裂?」


「右目、左目、鼻、右耳、左耳。……それぞれが仲間に、寄生するみたいにな」


 小さなクラゲモドキが自分の友人の頭に触手を伸ばす光景を想像する。

知能があるかすら怪しいクラゲだが、もし体内に侵入でもされたらどうなってしまうのか──

ハルは今更になって吐き気を覚えた。


 突然、桜木が顔をしかめる。

そういえば頭が痛いと言っていた事をハルは思い出した。


「俺、昔から視えても視えないフリしてたんだけど、なんかその時は咄嗟に、皆が危ない! って思っちゃって。気が付いたら『憑くなら俺にしろ』って……」


「……言っちゃったの?」


「……言っちゃったんだ……」


 仲間思いは良い事だが、何とも無謀な事をしたものである。

彼女は呆れるやら尊敬するやらで頭を抱えた。


「それで、どうなったの?」


 悪い展開しか考えられないが、とりあえず話の続きを促す。

深刻そうな彼の頭上ではヌラヌラとしたクラゲモドキが脈を打っている。

ハルと目が合ってもクラゲは無反応のままだ。


「分裂してた奴等が一斉に飛んできて、合体して、俺にひっ付いた。……日に日に触手が増えてキツくなってきて、すげぇ頭が痛ぇんだ」


 そう言って彼はグリグリとこめかみを押さえる。

苦痛を伴う怪異は尋常ではないだろう。

ハルは何も出来ないと思う反面、何か出来る事はないかと思考を巡らせた。


「……俺、このままコイツに絞め殺されちまうのかな」


 蒼白になる桜木に下手な慰めも言えず、ハルは押し黙った。


(竜太君なら、何か分かるかもしれないけど……)


 そう短期間の内に何度も助けを借りて良いものかという迷いが彼女の決断を鈍らせる。

ましてや桜木は竜太にとって見ず知らずの他人である。

今回の事で竜太の手を煩わせる事には抵抗があった。


「……悪かったな。無理言って、変な話しちまって。……話聞いてくれてサンキュな」


 桜木は鞄を肩にかけ、教室を出ようとハルの横を通り過ぎる。

悲壮感漂うその姿に彼女は思わず声をかけた。


「あ、あの、私、何も出来ないかもだけど……どうしたら良いか、一緒に考えるよ。もしかしたら何か良い手が見つかるかも、だし……」


 緊張で声が震えてしまったが、言いたい事は言えた。

ハルはある種の達成感のようなものを感じながら桜木を見上げる。

彼は目を丸くして満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう! 宮原ってマジ良い奴だな!」


 涙ぐみながら何度も礼を言う彼に「大袈裟だ」とは言えなかった。

初めて理解者を得る喜びは計り知れない。

彼女は竜太に初めて会った時の事を思い出していた。


(怖いけど、やっぱり見捨てられない。今日、帰ったら竜太君に聞いてみよう……)


  ハルは桜木と連絡先の交換をしながら、竜太に何と説明しようかと頭を悩ませた。

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