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内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~  作者: 彩葉
三章、こっくりさん

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1、呼び出し

 花盛りの女子高生に恋愛話は付き物である。

それはハルの周りでも例外ではない。


「二組の原さん、バスケ部の部長に告ったらしいよ」


「マジで? あの人競争率高くない? 勇気あるー」


 教室内で噂話に花を咲かせる彼女達に合わせ、ハルは控えめに相槌を打つ。


 ここ数日、校内ではちょっとした告白ブームが巻き起こっていた。

皆心のどこかで「一夏の思い出」を期待しているのだろう。

終業式である今日は特にブームの最高潮とも言える。


「そんなに彼氏が欲しいもんかねぇ~」


 北本の呆れたような口振りに、その場に居た者達が「あんたが言うと嫌味だっつーの!」と突っ込みを入れた。

北本は相変わらず人気者だったが、あまり恋愛に興味が無いからと全ての告白を断っているらしい。


「つーかうちのクラスで彼女いない良い男って、いる?」


「あー、桜木か……川口あたり?」


 好き勝手言う彼女達の言葉につられ、ハルはチラリと黒板の方に目をやった。

黒板の近くでは複数の男子達が談笑している。


 その中心にいる背の高い男子、桜木(さくらぎ)陸斗(りくと)

彼の明るく話上手な所は北本に通ずるものがある。

爽やかな短めの茶髪でそこそこ顔も良いため、クラス内での人気も高い。

直接口を利いたことはないが、まぁ良い人なんだろうというのがハルの印象である。


 一瞬、桜木と目が合った。

ハルは咄嗟に視線を外し、彼女達の方へ向き直る。


(ビックリした……)


 まさか目が合うとは思わず、ハルは小さく息を吐いた。

これは彼女が桜木に対して好意を抱いているからという訳ではない。


(大丈夫かなぁ……)


 彼の頭上に浮かぶ奇妙な物体。

ハルはそれが気になって仕方がなかった。


 一見グロテスクな臓器にもクラゲにも見える赤黒いそれは、数日前から彼の頭上に現れた。

人間の目鼻と耳がついているが、他者を気にした様子はない。

ただ浮かび、胎動しながら触手のような物を彼の頭に巻き付けていた。

心配なのは触手の巻き付き方が日に日に強固なものになっている点だ。


(でも、私には何も出来ないし……)


 その内居なくなれば良いと思いながら、彼女は友人達の会話に集中した。



 終業式が終わり、帰ろうとしたハルは下駄箱に入れられた小さな手紙に気が付いた。

何だろうと深く考えずに開いた彼女は字を追う内に眉をひそめていく。


──宮原ハルさん。大切な話があります。放課後、一人で旧校舎二階の空き教室に来て下さい。


(名前が書いてない……これってどう考えても悪戯、だよね……?)


 罰ゲーム告白という言葉が彼女の頭を過った。

勿論告白だと決まった訳ではないが、改めて話をするような人間に心当たりはない。

無視をする訳にもいかず、彼女は渋々と指定の場所へと向かった。




(……どういう事?)


 手紙の指示通りに空き教室に向かったハルはそこで待つ人物の姿に目を疑う。

半ば倉庫扱いになっている古びた教室の窓辺には桜木陸斗が立っていた。

彼はハルに気が付くと一瞬だけ安堵の色を見せ、すぐに緊張したように顔を引き締めた。


(わり)ぃな、いきなり呼び出して」


 気まず気に身を正す桜木に、彼女は訝しげな視線を送る。

彼は悪戯をするようなタイプとは思えない。

本当に何か用事があるのかもしれないが、そもそも二人の間には全く接点がなかった。


「実は俺、結構前から宮原の事見てたんだけどさ……」


「はぁ……」


 何とも間の抜けた返事であるが、内心では一体何を言われるのかとビクビクしながら身構える。


 突然、桜木が深々と頭を下げた。


「頼む! 助けてくれ!」


「……え? は? えぇ!?」


 懇願する桜木の瞳に驚いた顔のハルが映っている。

急に助けてと言われて「はい」と即答できる者はそうはいない。

ハルは桜木の勢いに押され数歩後ずさった。

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