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内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~  作者: 彩葉
三章、深夜の訪問者

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122/221

1、問題

 五月は中間試験さえ終えてしまえば特に目立ったイベントはない。

しいて挙げるなら三者面談や保護者相談会位のものである。


 ある放課後。

ハルは担任に頼まれていた書類を職員室まで届けた帰りの廊下をトボトボと歩いていた。

先日の三者面談を思い出しては落ち込む──その繰り返しだった。



──ふぅむ。宮原さんは希望の進学先がまだ決まってないみたいだけど、何か学びたい事とかやりたい事はないのかい?


 母親の前で妙に優しい口調の担任に対して何も返せなかったのが悔やまれた。

勉強は苦手という程ではないが、好きでもない。

子供の頃のように「花屋になりたい」だの「パン屋になりたい」だのといった夢も持ち合わせていなかった。


(アカリちゃんは舞台の小道具や衣装を作る人になりたいって言ってたな。カスミちゃんは英語を勉強したいらしいし。桜木君はスポーツ関係が希望だっけ……)


 夢を持ち、それに向かおうとしている友人達が眩しくて堪らず、ただただ焦りばかりが募っていく。


──じゃあ、何か学校生活で困った事はないか?


──困った事、ですか……


 咄嗟に思いつくのは紙屑を机や鞄に入れられる地味な嫌がらせ位のものである。

犯人は依然として不明だが大袈裟に騒ぐ程の事でもない。

少し悩んだ末、彼女は「学級委員である事に自信がない」とだけ答えるに留めた。


──はは、うちのクラスは皆仲が良いし、協調性があるから問題ないだろ?


(なにそれ。いつも言う事を聞かないで騒いでばかりの富士君達も問題ないって事?)


 自身を委員長にした担任へのささやかな当て付けは、残念ながら伝わらなかったらしい。

不快感を露にする事も出来ず、単に嫌な思いをしただけの相談結果となってしまった。


(来月は体育祭がある。体育祭実行委員がいるとはいえ、多少は私も仕事があるだろうし……また富士君達に絡まれるの、嫌だなぁ)


 進路に委員長の仕事、紙屑の犯人と悩みばかりが浮き彫りになっていく。

結局何が変わる訳でもなく三者面談は終了した。


──いい加減志望校くらい決めなさいよぉ。お母さん、理由の無い浪人なんて嫌だからね~。


──……分かってる……


 帰り際の母とのやり取りが頭に浮かんでは消える。


(私には、何もない…………ううん、駄目駄目! こんなウジウジしてたら良くないモノが寄って来ちゃう!)


 ハルは暗い心に渇を入れるべく、両頬をペチリと叩く。


(さっさと帰ろ……)


 急ぎ足で教室へ戻ると、扉の前で三者面談の待機をしている持田と鉢合わせた。


「あ、お疲れ様、持田君」


「や、やぁ……」


 今日の面談第一号は持田らしい。

彼は母親らしき中年の女性と共に小さく会釈している。

彼の母親も眼鏡を掛けており、いかにも大人しそうな見た目だ。

持田親子の表情と仕草があまりにもそっくりなのが微笑ましく、ハルは笑みを浮かべながら会釈を返して教室へ入った。


(良かった、鉢合わせたのが富士君じゃなくて)


 遭遇して困る相手では無かった事にホッとしつつ、自分の席に向かう。

教室内は既に誰も居ない。

鞄を掴んだ彼女はここ最近の癖で机の中を確認してしまった。


(はぁ……まーた入ってるよ……)


 この日入れられていたのはガムの包み紙だった。

銀色の包み紙が一枚、綺麗に開かれた状態で置かれている。


(噛んだ後のガムじゃなかっただけマシ、なのかな?)


 いっそ噛み終えたガムだったなら、ハッキリ嫌がらせだと確信も持てただろうに──

そんなずれた考えを振り払い、ハルは包み紙をクシャリと丸めてゴミ箱に捨てた。

そして何を考えるでもなく教室を出ると、持田とすれ違い様にパチリと目が合った。

オドオドとした挙動で顔を逸らされてしまったが、ハルの目は彼の首元に釘付けとなってしまう。


 彼の首には正面から絞められたような薄赤い手形が残っていたのだ。

あまりジロジロ見るのも悪いだろうと思い直し、視線を誤魔化すように手を振る。


「えぇっと、さようなら、持田君」


「あ、う、うん。じゃあ、ね……」


(何だろう、あの手形……もしかして持田君やおばさんには見えてないのかな?)


 手形といえば、先日のスポーツジムで腰に付けられた手形の件が記憶に新しい。

手形などどれも大差ないと思う一方で、どこか似ている物のような気がしてならず、彼女は複雑な心境でその場を離れる。


(持田君の首の痕、一体いつから付いてたんだろう?)


 ここ最近、持田とは委員の仕事を通じてそこそこ話をする間柄になっていた。

とはいえこの日ハルが彼をちゃんと見たのは先程が初めてである。

もしあの手形が一日中付いていたのだとしたら、誰も何も言わなかった辺り「他の人には視えていない」という推測は当たっているのだろう。


(大丈夫かな、持田君。何も悪い事がなければ良いけど……)


 ハルは自分の事は棚にあげ、どこか薄幸そうな彼の身を案じた。

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