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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第四章 全ての真実を瞭然に
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下策だろうと利用する






「……ほ、う?」


 それは足元からだった。


 しかし、この場に何かを仕掛けた覚えはない。ここにきてこの天才が自ら仕掛けたものを忘れている訳ではないだろう。初めて、アラン=グラフィックが歯切れ悪く言葉を紡ぐ。


「な、にが」


「……?」


 父と娘が同時に首を傾げる中、林の方から声が聞こえた。


 アランよりも大きくよろめく、その血まみれの少年の正体を二人の科学者は知っていた。


「ようやくアンタのそういう顔が見れたよ」


「……何を」


「何をしたか? はは、仮説を立てて検証を繰り返し結論を導く。科学の基本中の基本すら忘れて俺に質問かよ天才サマ」


 そもそも一つの疑問があったはずだ、とアランは思う。


 彼がずっと握り締めているスマートフォン。あれはこの奉蘭神社では使用できないはずだというのに、中央のお堂に一度寄ってからは通信状態が維持されている。


 なぜ?


 そのルートは?


「まさか」


「そう、あの地下空間は地上と連絡を取るのに何の不便もなかった。何せ体育館から落ちて初めて地下空間に入った時は、セレナと普通に会話ができていたんだから」


 つまり、


「このスマートフォンは地下空間に置かれたセレナと繋がっている。しかも地上のリペアテレサとリンクした状態でな。……衛星電波よりも強いってのは流石に恐れ入るよ、アラン」


「ふん、だからといって……」


「忘れたか」


 形勢が揺れ動くのを感じる。


 ルールを整理しておこう。


 一つ、ある程度の地面の傷がなければ、地下生物はこの地上には上がって来られない。それを防ぐために人類は『強化工事』と呼ばれる施工で地面を覆い隠そうとまでしていたのだ。


 一つ、あの地下空間には巨大なコンピューターが必要だった。かつてはメアリー、その安全装置としてカタリナを要した。しかし一つの争いが終わり、今はセレナとリペアテレサが地下空間を支配している。


 つまり、それは。

 それが意味するところは。



「俺が今の地下の支配者だ。今まで利用してきたものの復讐を存分に味わえよ、アラン」



 直後だった。


 それは悪夢だったと認識している。


 条件も揃っていた。数多の爆撃によって地面には大量に巨大な穴が開いているのだ。先ほどアランをよろめかせたのは、ただの茶番。ここからは地獄が広がる事を陸斗は経験から知っていた。


 地面の穴。それはまさに、火口からマグマが噴き出すかのように。




 ボロボロに砕けた地面の一部から、超巨大単細胞生物・オブスが再び地上に襲来する。




 二〇メートルを超える地下生物を見上げ、流石のアラン=グラフィックも乾いた笑みを浮かべていた。


 反撃の隙など与えない。


 セレナとリペアテレサによって、アランが最も標的に捉われやすい位置を狙って出現させている。ヤツには一秒も使わせない。


「……なるほど、下策だな」


「お前を倒せるのなら何でも良いさ」


 ぎょろり、と。


 そんな擬音が似合う挙動で、オブスが頭の部分をもたげる。ウロコまみれのどっぷりとした体が薄汚れたスーツと白衣の男を獲物として捕らえていく。


 間に合わないと悟ったのだろう。


 軽く両手を挙げて、天才の科学者はこう告げた。



「まったく、こうならないために私は身を粉にして働いてき



 全てを言い終える前に、オブスが全てを押し潰していった。


 後には、ぐしゃりという音だけが奉蘭神社に響いていく。







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