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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第四章 全ての真実を瞭然に
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打倒すべき敵






 あるいは、そいつはオブスよりも凶悪な怪物だった。


 恐ろしいのは、その肉体よりも頭脳だ。


 だからこそ、そいつは巫女装束を纏う少女にただ一つ、こうオーダーをすれば問題なかったのだ。


 アラン=グラフィックが短い言葉を紡ぐ。


「やれ」


 こめかみに蜘蛛のデバイスを張りつけ、再起動を終えた巫女の少女が白目を剥いたままこちらに突進してくる。


 子どもとはいえ、一〇〇を超える人間の身体能力を上積みした化け物だ。怪物じみた突貫に対して、結城陸斗はお堂の外に飛び出す。


 ただの理系高校生にやれる事は少ない。


 獲物を取り逃した巫女の少女がその場でくるりと回る。方向転換をするためだけの行動かと思ったが、思い切り握り締めていた命綱である五インチのデバイスから声が聞こえた。


『ボス。巫女装束が広がり横殴りに到来すると思われます。全力で伏せてください‼』


「っ‼」


 反射的に伏せる陸斗の真上を白と赤の装束が高速で通過していった。


 三〇メートルは離れていたはずだというのに、万梨阿の服がぶわりとはためき、一瞬にして致死圏内が広がったのだ。


 その行動を見て、薄汚れたスーツを纏う男が感心したような声を出す。


「ほう?」


「この程度か、アラン=グラフィック。これならあの地下の方が凶悪だったぞ‼」


「その秘書プログラムはインターネットに繋がっているようだ。ここは中央のお堂以外、妨害電波で満たされているはずなのだがな」


「それも人工的なものじゃない。この土地の持つ独自の磁場を利用してな!」


 いつまでもしゃべっている訳にはいかない。


 スマホに向けて必要な指示を飛ばす。


「セレナ、アランのスマートグラスをハッキング! ヤツの眼鏡と万梨阿のこめかみに張りついた蜘蛛は連動している可能性がある! あいつの頭脳なら人一人をラジコンみたいに動かすなんて朝飯前だろうからな!」


『オーダーを承認』


 アランがニヤリと笑う。


「嬉しくて涙が出るな。随分と私の頭を買ってくれているようだ」


「こういうのはな、危険視っていうんだ‼」


 アランにばかり集中していられない。


 万梨阿は今もこちらをロックオンしているのだ。彼女はその場の地面を拳で叩き割る。石畳だろうが何だろうが、掘削機のような轟音を鳴らしながらぶち抜く巫女に陸斗は目を剥く。


 もはや彼女の拳は鋼鉄よりも硬いのか。


 もごりっ、という音がする。


 それは万梨阿が固い地面の中で手を開閉して、何かを摑み取った音だった。


「何を……?」


「アタリ、じゃな」


 白目を剥いたままの万梨阿がニヤリと笑う。その口からはだらしなく涎がこぼれ落ちていた。


 依り代の役割を果たす彼女は一体どこまでその体に被害が広がっているのか。それも分からないままに、次の手が来た。


 ぶちっ、ぶぢっ、ぶぢぶぢぶぢぶぢぶぢ……ぃ‼ という奇怪な音が響き、石畳がべりべりとめくれていく。 


 その下から飛び出してくるのは太い木の根だった。周囲の林から伸びた根の一本。


 それが少女の細腕のみで振るわれ、強烈な鞭のようにしなる。下から振り上げられた根っこは回避できた。しかし一度地面に落ちた根っこは真横に振るわれた。


『ボス、伏せるのでは駄目です大きく跳んでくだ


 全てを聞き終える前に、腰に強烈な衝撃が走った。太い鞭のような根が睦月を薙いだのだ。


 そのまま泥のような地面の上を転がって、深い林の中へ突っ込んで行く。


「ぐ、おあ……っ」


『ボス。ボス‼』


「だい、じょうぶ、だ……。まだ、生きてる」


『失礼しました、次からは指示のみを発言いたします。必要であれば敬称や敬語も省略しますのであしからず』


「反省会は全員丸ごと救ってからだ……っ!」


 ふらふらと立ち上がると同時、ざしっ、という音が頭上から響く。


 白と赤の怪物が月をバックに木の枝に直立していたのだ。


「ハッキングの、方はどうだ……?」


『いいえボス。防がれてしまっています。観測した事のない反撃手法です。おそらく頭脳から直接信号を送っているものと思われます』


「クソッたれが……ッ!」


 ただの怪力。


 だがその膂力が最も厄介だ。パワーという一点特化。しかも先ほどの木の根っこを摑んだ手品は一体何だ。自然の木々の発達や水流すら読めるというのか。


「……そうか、アランの頭脳か。ラジコン状態のお前を操っているあいつは全ての地形を把握していてもおかしくないからな」


『ボス。来ます』


 再びの突貫。


 さらに頭上からの位置エネルギーをたっぷり加えた万梨阿の攻撃に対して、陸斗に打つ手はない。


「だけど残念。アラン=グラフィック、お前に誤算があったとすれば」


 一歩引く。


 それだけで彼は安全圏に潜り込む。


「俺がここに来た事だ、そうだろう天才野郎‼」


 直後だった。


 白の濁流が雪崩れ込む。割り込むといっても差し支えない。


 メアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスター。そう呼ばれたアンドロイド少女が全力で拳を振るって万梨阿を迎撃したのだ。


「陸斗、お怪我は?」


「ない所を探す方が難しい。……メアリーは治ったみたいだな。電磁性複合細胞の回復時間を考えるとそろそろだと思ったよ」


「磁場の問題が解決した訳ではありません。まもなく動けなくなります」


「この一撃があれば十分だっ!」


 手を伸ばす。


 たった一つで良い。二つも追う必要はない。万梨阿のこめかみに手を伸ばし、張りついた蜘蛛を引き剥がせば良い。


 だが、


「ふん、気概だけは認めてやらん事もないがのう‼」


 指先ギリギリの距離で陸斗は万梨阿のこめかみを摑み損ねた。


 届かない。虎の子のメアリーから援助を受けてもまだ足りない。


「……く、そ……っ‼」


 歯噛みする。


 助けられない。


 このままでは、万梨阿も一〇〇人以上の子どもも、全てがこの手からこぼれ落ちて行ってしまう……ッッッ!?


 そんな時だった。


 力強い味方の声が聞こえた。


「そろそろ吠え面見せても良い頃だろう、クソ巫女‼」


 レーザーのような輝きがあった。


 カタリナ=グラフィックが木の一本にもたれかかり、太い兵器を肩に担いでいたのだ。


 太腿の部分、そのサイボーグ兵器を切り離し、白衣に忍ばせていたドライバーを突き刺していた。おそらく操作に介入されるメタルテクの部分を外したのか。


 ばしゅう‼ という酸素が燃焼するような音と共に万梨阿のどてっ腹に青白いビームが炸裂していく。


「道は花で飾ってやる。きちんと走り切れよクソガキ」


 万梨阿の体のラインがブレる。


 届く。

 ついにあの人工的な蜘蛛まで、指先が届く‼


 そして、悪意の塊のようなデバイスを引き剥がす感覚が指先に確かにあった。


「華を持たせてもらって悪いね、カタリナ」


「ふん。きちんと獲ったのならば文句はない」


 第一の敵は倒した。


 だが次の壁は、協力プレー程度でどうにかできる相手ではない。






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