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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第二章 衝撃の白き知能
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発覚するデートスポット





「……はい?」


 流石に。

 圧倒的な警戒心と全力のアドリブ対応を心がけていた結城陸斗でも、思考が数秒止まった。妨害電波によるSOS信号、それに伴うリスクすら忘れてスマホを握り締める少年は、しかし気を強く持って先ほどの言葉を反芻する。


 そして諦めた。

 メチャクチャである。


 前後の文脈は完全に崩壊し、しかも会話内容は意味不明。

 どう返すのが正解かも分からない。


 まるでバラエティー番組に放り込まれてえげつないフリ喰らった俳優みたいになっている結城陸斗であったが、幸いあちらの方からもう一度アプローチがあった。


 やたらと茫洋とした瞳、光沢のある白く長い髪。華奢な体の割に、どこぞの幼馴染にはない大きな胸。ロングヘアが体にへばりついていなければ至る所が見えてしまっているであろう危うい格好のその少女は、ほんのわずかに首を傾げてこんな風に言ったのだ。


「……どうやら間違えたようです。何がいけなかったのでしょう」

「あえて言うのであれば何もかもだ。今のところお前に正解が一つも見当たらない」

「男性は女性よりも性的興奮に対して素直です。積極的に繁殖行為を迫るのが最も手っ取り早い戦略的手段であり……」

「よく分からないけど面倒臭い言葉で俺を混乱させて有耶無耶にしようとしていないか?」

「ノー。そのようなユーモアに溢れた会話機能は持ち合わせていないつもりです」

「……?」


 何だかその少女の言い回しに引っかかりを覚える結城陸斗。


 セレナによれば先ほどまで生命活動の信号は感知できなかったらしいが、パッと見た感じでは健康そうだ。少女を閉じ込めていたガラスケースが信号を遮断していたのだろうか?


 そして顔が熱くなってきた陸斗は、パーカーを脱いでこう言った。


「……とりあえずこれ着なよ」

『これはどういう風の吹き回しでしょう。ボスが紳士的な行動を取るなど』

「セレナ。お前は後でプログラム修正という名のお説教な?」


 白髪の少女がパーカーに腕を通したのを確認してから、さて本題に戻ってみよう。

 彼女の健康状態はともあれ、意思の疎通はできるようだ。

 現状を把握するために、もはや癖か何かのようにスマホに問いかける。


「セレナ。ここが妨害電波の放たれた機関と見て良いか? 閉じ込められた女の子一人だけだったけど、やっぱり他に妨害工作をしたヤツがいると思った方が正解か?」

『ボス。足元をご覧くだ……


 そして唐突な事件が起きた。



 小さな爆発があった。

 赤い火花が手元から散ったと思ったら、スマートフォンが内側から破裂したのだ。



「……あ?」

 液晶画面は粉々、各種パーツも使い物にならないほどにバキバキに。破片のようなものからは白い煙が吐き出されていた。


「はあっっっ!?」


 セレナとの通信デバイスが失われる。

 同時にフラッシュライトも死ぬ。先ほどから元々少女を照らすように溢れていた、赤みがかった光のみが淡く周囲を照らしていた。


 右手首に着けたスマートウォッチは生きているが、これもスマホとホワイトトゥースで繋がっている状態でようやく機能を果たすので、今は役に立たない。


 目を白黒させる結城陸斗に、こんな声が聞こえてくる。


「ぶすう。今は私と話している最中です。通話は失礼に値しますが、その辺りはどうお思いですか」

「……まさか、お前がやったのか?」

「そうです」

「そうですじゃねえんだよ何してくれてんだ!? 現代の高校生の一番の宝物だぞ!?」

「それよりも、あなたの名前はボスというのですか? 変わった飼い主につけられた可哀想な犬のような名前のようで……」

「誰が可哀想な犬か! ボスはセレナからの呼び名だ!」

「では他に名前があるのですね?」

「そんな事よりもスマホを爆発させた件について色々聞かせてもらおうか‼ そもそもどうやっ……っ‼」

「で・は・他に名前があるのですね???」


 被せ気味に、そして喰い気味に言われた。

 何だか目の奥に宿る光が怖い。美少女のくせに真顔であれば普通に迫力があるのだから、本当に可愛いとか美人とかの概念が分からなくなる。


「ゆ、結城陸斗、です……」

「私はメアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスターと申します」

「長過ぎる。あとどこ出身だ? そもそも液体に詰め込まれていた訳だけど」

「説明する時間が少な過ぎます。そしてあなたがここにいて利益を得る事はありません。逃走経路は指示します。早く行ってください」

「お前のせいで灯りがないんだ」

「ではこちらを」


 そう言ってメアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスターと名乗った少女から渡されたのは、床の上に大量に散乱していた機材の中から拾い上げた、あまりにも原始的な懐中電灯だった。


「こちらの方が先ほどのデバイスよりも光は強いです」

「あれはフラッシュだけが取り柄のデバイスじゃないんだよ」


 ともあれ、ちょっと頭のネジが外れていそうな美少女かウロコまみれの動物と猛禽類かと言われれば絶対に前者の方が出会って幸せになれるので、ここは良しとする。


 スマートフォンがぶっ壊れたショックからはまだ全然立ち直れないが、とりあえず地上に上がれば問題ない。


「……よし、じゃあ行くか」

「ええ、さような―――」

「で? メアリーは一体ここで何をしてたんだよ?」

「……あの」


 どういう訳か言葉を詰まらせて、目線をあちこちに漂わせるメアリー。


 やがて、その迷っていた視線は結城陸斗に焦点を当ててピタリと止まる。

 そう、なぜか白いロングヘアの少女・メアリーの背後に立つ少年に。


「? 何か?」

「どうして私の後ろに立つんですか」

「道案内役に立候補したのはメアリーだ。俺はスマホが壊れて道が分からない」


 それに、と陸斗は付け加えて、


「俺のスマホを壊しただろ。弁償しろとは言わないから、その代わりにセレナみたいなインターフェイスを使わずに素手でスマホを壊した秘密は教えてもらうぞ」

「……つまり、あの」

「あん?」

「……ここから、私を連れ出すという認識で良いのでしょうか?」

「え、流れ的にそうだろう? そもそもSOS信号を出したのはメアリーなんだし」

「そう、ですね」

「何だよ、随分と歯切れが悪くないか?」

「ノー。あなたは間違っていません。では行きましょう」


 何だかメアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスターの感情の振れ幅に上手く着いていけない。


 それでも彼女は歩き出した。裸足でぺたぺた歩く姿は何だか妙に不安になってしまうが、地下空間の出口に向かえるのならば問題ない。


「メアリーはここが地下何メートルか知ってるのか? 俺は大体一〇メートルもないって睨んでいるんだけど」

「予想はハズレです。地下一五〇〇キロメートルです」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」





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