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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第三章 未知の存在を標的に
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反撃推理ショー






「これはまた」


 先に口を開いたのは、メアリーのワンピースの首根っこを摑んだ万梨阿だった。あの様子だと彼女の操作はまだ巫女の少女に妨害されていると見て間違いなさそうである。


「何も摑めなかった。……そんな顔じゃのう」


 無視した。


 くだらないと切り捨てた。


 彼の握り締めていたスマートフォンのフラッシュが輝く。


 自動車のストロボライトとまでは言わないが、蛍光灯の一切ない暗い闇の中で炸裂する輝きは通常のそれとは光度が違う。


 万梨阿はアンドロイド少女ではない。


 普通に目を晦ませ、さらに余裕がそうさせるのか、巫女の少女は手をかざしてブラインドを作る。


 敵の前ではあり得ない挙措。


「ふん、こんなもので……」




 と告げた万梨阿の横から、お堂に開いた壁の穴から金髪碧眼の少女が膝蹴りを喰らわせる。




「っ……‼」


「何だか知らんが『こう』されると困るのだろう、貴様は?」


「っ、ほう? 多少はましな脳を持つやつもおったか」


 ヒットするギリギリで万梨阿が腕を盾にする。


 膝蹴り。

 そう、膝の部分。


 カタリナ=グラフィックの右の膝には、サイボーグ兵器が搭載されているはずだった。そのままさらなる光が小さなお堂を席巻する。


 それは衝撃波に近かった。凄まじい閃光が炸裂し、細い巫女の体をお堂の壁に叩きつけていく。


 初めてと言っても差し支えないだろう。


 万梨阿が明確に敵意を込めて、カタリナを標的として捉えたのだ。


「そう、考えてみればおかしいのだ」


「推理しょーの時間かえ? そのまま話し続ける余裕があればよいがの」


 巫女装束がはためき、万梨阿の拳が木製の床を突き破る。


 女性の細腕から出力される破壊力とは思えない、その膂力。割れた木目から木の板を摑み取り、それをカタリナに槍のように放り投げる。


 金髪碧眼の少女は反射的にサイボーグ兵器で迎撃したりはしない。白衣をはためかせてその場でステップを踏み、カタリナは一〇〇キロを超える速度を誇る木材を回避する。


「私のサイボーグ兵器を暴走させる事もできれば、メアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスターの行動を完全に妨害できる。もちろんクソガキのスマートウォッチも停止できる。だというのに私のサイボーグ兵器を停止させられなかったり、セレナの動きを一つも妨害しなかったりと何だか貴様の行為には矛盾が生じているなあ?」


「だから何じゃ」


「平たく言おう」


 結城陸斗がその間にメアリーの方にじりじりと歩み寄っていくのを横目で見ながら、


「貴様が妨害できるのはメタルテクのみ。その他アナログとデジタルのデバイスは介入できるものとできないものがある」


「何を」


 カタリナの右腕がガバリと開き、レーザーにも似た直線の閃光が陸斗の方に炸裂する。


「根拠に」


 セレナからの警報により、事前に身を屈めた理系高校生には当たらなかったが、再びカタリナのサイボーグ部分が暴走させられた。


「言っておるのかえ」


 高校生が攻撃を逃れても、万梨阿に悔しそうな表情はない。


 ニィ……と口の端を吊り上げる彼女の耳に陸斗がこう断言する。


「それも手品の一つなのさ」


 結城陸斗は身を屈めたままそう言った。


「お前が介入できるものには限界がある。だからカタリナのサイボーグを使ったんだ」


『ミスカタリナのサイボーグ兵器はハッキングなどから守るため、アナログ式が併用されていたはずです。レアメタルの埋め込まれた赤い目を介して起動・発動を操作しています』


「つまり完全デジタルのセレナには介入できない。リペアテレサも以下略」


『しかし時計型のスタンガンの主要部分は小さな電池です。そこに介入すればスタンガンは起動しない』


「だがこの仮説はおかしいんだ」


 そう、操作を妨害できるものとできないものがある。


 メアリーは完全に掌握され、カタリナは操作に割り込まれる。


 スマートフォンのセレナは無事、しかしスマートウォッチは乗っ取られる。


 仮に万梨阿がデジタル管理のものに手が出せないのだとすれば、スマートウォッチを掌握して陸斗を気絶させる事などできないはずだ。


 つまり、つまりだ。

 これの示す所は。


「セレナ。お前に華を持たせてやる。言ってやれ、あいつのくだらない手品のタネを」


『ええボス。結論としては、ミス万梨阿はメタルテクと呼ばれる技術体系にしか介入できないのでしょう』


 その機械の一言だけで、だった。


 先ほどまで余裕の笑みを刻んでいた万梨阿の両目が見開かれる。だがもう遅い。一度リペアテレサとセレナの本体に繋ぎ、高度なシミュレーションを終えた優秀な秘書プログラムは次々に真実を看破していく。


『ミスメアリーとミスカタリナはそれぞれアンドロイド部分、つまり地下で成熟された技術であると推測されるメタルテクノロジーを搭載している少女です。ミス万梨阿はその部分に介入できる。スマートフォンなどのやや劣るレトロテクは逆にカバーし切れないのでしょう』


「スマートウォッチには偶然にもメタルテクノロジーと呼ばれるそれに通じる何かがあった。だから掌握できた。これから推測するに」


 今度はセレナから華を奪って、理系高校生はこう告げた。


「高いエネルギーを持つデバイス。お前はそれにしか干渉できない、そうだろう万梨阿⁉」


「はっ、笑えるほどに神懸かるな‼」


 バサッ‼ という翼が羽ばたくような音がしたのはその時だった。万梨阿がその場で一回転して巫女装束をぶわりと広げたのだ。しかも傘のように、または花のように開花したそれはプロペラのように重たい。陸斗が慌てて両手を交差してガードを取るが、直撃と同時に足がふわりと浮いてお堂の壁に叩きつけられて床をゴロゴロと無様に転がる羽目になった。


 明らかに今の装束の動きも奇妙だった。


 どうしたらクルリと回転しただけでお堂を埋め尽くすように巫女服のスカート部分が巨大化するのだ。


 しかし不幸中の幸いが一つ。


 彼の転がった先には、白いアンドロイド少女のメアリーがいたのだ。自身を磔のようにされた彼女は指先一本すら動かせない状況のはずだが、彼にできる事はまだある。


「ぐっ、メアリー……」


「陸斗っ、大丈夫で―――‼」


「お前が掌握されているのはメタルテクの部分のみ。つまりセレナが操作に介入できる部分があれば、そこはまだ動かせる部分なんだ……」


 陸斗はスマートフォンを握り直して、


「この場で高エネルギーを持つのは、順にメアリー、カタリナのサイボーグ兵器、スタンガン機能を持つスマートウォッチ……まあこれは一度きりの使い捨てだから今は良い」


「陸斗? 何を……」


「エネルギーを持つメアリーがそれなりにエネルギーを出力してしまえば、万梨阿の操作性が下がってお前が自由になれるんじゃないか。そういう話をしているんだよ、メアリー」


『ええボス。それなりに勝算はある計算だと思われます』


「だから許せよ、後で一発殴られるくらいは覚悟しているけどさ」


 そして少年は一思いにやってやった。

 何を?



 メアリーのワンピースのお尻側に手を突っ込み、彼女の制御デバイスである尻尾を摑み上げたのだ。



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