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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第三章 人工知能戦争
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埋没する石の真実





「……それ、は」


「リペアテレサの補助を脳内に直接受けるためのデバイスだよ。パソコンやスマートフォンを見ずとも補助を受ける事ができたのはこいつのおかげだ」


 そして、と陸斗の反応を楽しむかのような笑みが一転、悪魔すら殺しそうな邪悪な色がフェリネアの瞳に宿る。


「そしてこいつのせいで私はリペアテレサに囚われている。私の脳は一部が損傷していてな、リペアテレサの補助によって体の自由が利いている」


「セレナ。可能なのか」


『ええボス。ミスフェリネア自身のヘルスデータも付属されていましたので学習済みです。何と恐ろしい事に、人体の常識を根本から覆すほどのものでした。その黄色の石は脳そのものの役割を果たしています』


「ああ、首筋から脳と脊髄に分かれてそれぞれが伸びている。こいつがなければ私は下半身が動かないし脊髄反射も機能しない」


「……」


「それに私は地下で生まれた。地上に出てからはずっとリペアテレサの中だったからね。病原菌への免疫力が非常に低い。もう世の中には出れないのだ」


「……、その」


「気遣いや慰めの言葉は結構だ。私の中でこの事については折り合いがついている。……元々インドア派だからな、外に出ない言い訳ができて何よりだ」


『ではミスフェリネア。ミスカタリナの事ですが』


「うむセレナ。私の代わりに説明しても構わんぞ」


『オーダーを非承認。わたくしはボス以外にはなびきません。その辺の尻軽女と比べてもらっては困ります』


「その割にお前、花恋のお願いをすんなり受け入れたりするけどな!」


 ツッコミを入れつつ、陸斗はセレナに先を促した。


 手持ち無沙汰なのか、フェリネアがパソコンに繋がった充電コードを引っこ抜こうとしていたので頑なに妨害しながら、


「で、セレナ。カタリナについて教えてくれ」


『ええボス。彼女の右目には赤い石が埋め込まれていました。あれもミスフェリネアと同じくミスカタリナを地下に幽閉する一因なのです』


「分かりやすい解説を心がけようか、優秀な以下略」


『ええボス。リペアテレサの補助を受けるのが「黄の石」であるのならば、地下を補助するのがあの「赤い石」なのです、ボス。さらにあの「赤い石」を持つ者は地上と地下を繋ぐゲートを通れないようにする役割があり……失礼、わたくしのモットーを以下略とか申しましたか?』


「あっはっは、AIがモットーとか笑えるな」


『かちーん。ボスのSNSアカウントを使って直近一週間分の検索履歴を余すところなくツイートしてやろうと思います。タスク設定完了、実行開始……』


「ごめんなさいセレナ様‼ 優秀な秘書プログラム過ぎてもうほんと困っちゃう‼」


『おや運営側のバグでしょうか、上手くツイートできませんでした。これは残念です』


「ありがとうございます‼」


「……おい、話を先に進める気がないのなら出て行ってくれないかバカップル」


 何だか将棋ソフトを自らプログラミングして対決しておきがら、その手は駄目だ待ってくださいと叫ぶ珍妙なヤツを眺めている気分になるフェリネア。


 本当に帰って欲しいのだがどうしようとも本気で思うが、六〇年以上も生きている貫禄を今こそ見せつける時なのだった。……正直、もう年齢を数えるのが面倒でフェリネアとしては内臓年齢しか把握していないのだが。


「私の妹は右目に埋め込まれた赤い石で視界と脳を補助している。暗闇でも問題なく物を見れるし、脳から地下生物に命令を飛ばす事もできたはずだ」


「待ったおかしい。先生、質問良いですか」


「挙手した点は褒めてやろう。言ってみろ」


「そういう情報処理はメアリーが担っていたはずだ。カタリナがずっと地下にいてその役割をこなす理由がない。……人間が地下にいれば危険しかない。そう思ってたんだけど」


「基本的にバグのないプログラムは存在しない。妹はメアリーが故障した時の代替品さ」


「……代替品、ね」


「逐一言い方に反応しなくて良い。私は肉親に関してかなりドライなだけだ、君の価値観を持ち込んでくれるなよ」


『そしてボス。ミスカタリナはミスメアリーが安定するまで延々とメンテナンスをこなす役割を果たしていました』


「なら、なぜ彼女の半身はサイボーグなんだ?」


「……何の冗談だ、サイボーグだと?」


『ミスフェリネアのその反応から察しますに、おそらくメンテナンスの片手間に自身を改造していたのでしょう。地下にはミスターアランのデータが転がっているはずですから、知識だけには困らなかったと考えられます』


「……、馬鹿が」


 リペアテレサによる検索によってではなく、生まれた時から地下の存在を知っていたフェリネアがそんな風に言う。


 ドライとは言っても、姉としては思うところがあったのかもしれない。


 一通りの情報が出た。

 陸斗はカタリナのプロフィールをまとめるようなイメージで情報を整理する。


「……つまりカタリナは天才アラン=グラフィックの娘で、やっぱり地下の生物を操れる。だけどそれは本来メアリーの役割だからか、暇な時間を使って自分の体を改造していた」


『ええボス。そして赤い石は彼女を地下に幽閉しています。実際はミスメアリーがミスカタリナを押さえ込めるはずですがサイボーグ化された兵器のせいで圧倒されるのが現実であり、なお問題です』


「そしてレアメタルだが」


 指を鳴らしてフェリネアが割り込む。


「あれが果たす役割は二つ。一つは地下と地上のゲートを繋ぐ。もう一つは私達に埋め込まれた石の力を倍増、もしくは無効化してくれる。……つまり私が持っておく場合は通常の生活補助だけではなく、予知、は語弊があるが……まあ一〇〇%に近い占い結果を閲覧できるとでも言えば分かりやすいか」


 初めて会った時、陸斗を待ち構えるようにこの部屋に先にいる事ができたのも、首の後ろに埋め込まれた『黄色の石』を持っていた恩恵という訳だ。


 地上ならば、リペアテレサの恩恵を受け取るために。


 地下ならば、地下生物に強力な命令を飛ばせるように。……地下生物を自在に操れるといっても、動物の群れを介した攻撃があまりにも少なかったような気がする、と陸斗は思い返す。


 地下生物を全て操れるのならば、そもそもカタリナ自身が自ら動く必要すらなかったはずだ。現にオブスはあの遅い動きだけでも十分に世界を混乱に陥れるほどだったのだから。


 それぞれに調整された制御デバイス。それがレアメタルと称された物品の正体だったという訳か、と陸斗は解釈してから疲れたようにため息をついた。


「……そんなものを学校の部活でちょっと活躍しただけの俺に貸し出すなよ、フェリネア。もし本当に失くしたらどうするつもりだったんだ」


「あり得ないね。君には優秀な秘書がいるし、そしてどこまでできるか見てやりたかった」


 くっくと笑って彼女は言う。


「そしてあれには石を無効化する力もあると言っただろう。人生に嫌気が差したら、私は脳に受けている生活補助の計算を切るつもりだった。私の後任になれる者を見つけたら、ね。その点で君は合格だったが、ちょいと人間性が面倒臭い。合格だが不適格だ」


「やかましい。人生に嫌気が差そうが絶対に生かしてやるから覚悟しろ」


 と言ってから、陸斗はハッと気付く。


 そう、レアメタルの現在の持ち主を思い出したのだ。


「……待て、まずい。レアメタルはヤツの手に渡ったぞ!? 『赤い石』がカタリナを幽閉していたとしたら、ゲートを開けて地上にやってくるんじゃ……っ‼」







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