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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第三章 人工知能戦争
40/335

戦争の背景の真実




     1




 かつて世界を救うと宣言した。


 だけど、もうどうでも良い。救いたいのはたった一人のアンドロイドだ。







     2




 大通りに出てタクシーを拾う。


 向かう先はたった一つに決まっていた。


『到着しました、ボス。リペアテレサです』


「フェリネアからのコンタクトは一切なしか? セレナの送ったメールに対する返信もないのか」


『ええボス』


「もしフェリネアからの妨害があれば全て叩き潰せ」


『オーダーを承認』


 セレナはリペアテレサのスペックに敵わなかったはずだが、それでも優秀な秘書プログラムはそう返してくれた。


 どんな搦め手を使ってでも主人を守る。


 そんなあまりにも心強い返答に思わず笑ってしまいそうになる陸斗。


 だが警戒に反して、一度も妨害らしきものはなかった。不自然なほど平和にリペアテレサの敷地内に入って、そのままセキュリティを素通りする。


 両開きのドアまでの通路を早足で歩き、そのまま突き当たりにあった扉を開け放つ。


 いつかのように、そいつは椅子にゆるりと腰掛けて待っていた。


「ここに来た、という事は見送りが完了しただけではないようだな。……ハァ、こうなって欲しくはなかったのだが」


「……フェリネア=グラフィック」


「君の顔を見れば分かる。きっと今から私は糾弾されるのだろう」


「そんな時間はない」


「ならばどんな議題か聞かせてもらおう。だが気をつけろよクソガキ、君が触れようとしているのは一世紀に渡って万を超える数の大人達が本気で守ってきた真実だ」


「どうでも良いんだ、メアリーに比べれば‼」


「どうでも良くないんだ、あんな人工知能如きに世界を天秤にはかけられん‼」


「その『如き』にこっちは人生懸けて挑んでんだよ‼‼‼」


「ベットした年月ならば負けんぞ雛鳥、孵化したばかりの分際でイキがるな‼‼‼」


 いつの間にかフェリネアは立ち上がり、陸斗に言葉を叩きつけるように至近で叫んでいた。


 ある種、殴り合いよりも見ていられない言葉の応酬。


 きっと互いの欲望だけじゃない。

 欲望だけでは、よく知りもしない相手にここまで大声を張り上げて挑みかかれる訳がない。譲れないものがあるからこその、それ。


 結城陸斗はメアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスター。


 では一方で、フェリネア=グラフィックの譲れないものとは?


「……フェリネア、何なんだ?」


「主語は」


「あの地下にいた、お前そっくりのゾンビ女だ! 地下の生物を全て掌握しているあの女は一体何だ!?」


「……答える必要はない」


 舌打ちと拷問の無駄を省くため、陸斗はスマートフォンを軽く振った。


「セレナ。手近なオートドライブ機能のある車を掌握してリペアテレサに突っ込ませろ、もちろん人が乗っていない車両だ。大きければ大きい方が良い」


「っ?」


「良いのか、建物全体がスーパーコンピューターと化しているリペアテレサは言うまでもなく精密機械。一部だけでも、そのわずかなセクションが壊れるだけでもスペックは落ちる。それにガソリンの詰まったエンジンだぞ、爆発の危険性をわざわざ教えてやる必要があるならセレナにアナウンスさせてやっても良いけど」


「……リペアテレサはセレナより高性能だ。突っ込む前にコントロールを奪い返して危険を回避してやるさ」


「セレナは俺の声一つでどうとでもなるけどお前はどうだ? リペアテレサに命令するために、いちいちパソコンの前で数値や条件を入力しないといけないはずだ。たった一、二分でそれができるなら止めはしないよ。……マシンはスペックが全てじゃない、あんまりウチの娘を下に見るなよ」


「やれるものならやってみろクソガキ、その年齢で立派な犯罪者になりたいのならな。少年法に守ってもらえるほど今の世の中は甘くないと優しく忠告しておいてやる」


「生憎、今は暴走しても良い気分だ。言ったろ、人生を懸けるって。有言実行が困るのはどっちだろうな」


「……」


「……」


 本当に火花が散ってもおかしくないほど、鋭い睨み合いがあった。


 チッ、という心底鬱陶しそうな舌打ちがあった。


 やはりリペアテレサの価値は相当なものだ。傷がついて不都合が出るのは陸斗ではない。


「……言いたくない部分は偽るかもしれんぞ」


「セレナ。声の振れ幅を測れ、嘘が発覚したら報告。一回嘘をつくごとにリペアテレサに車を突っ込ませろ」


『オーダーを承認。すでに車を直近に四台ほど待機させております』


「本当にイラつくヤツだな……ッ‼ どこまでも秘書頼みか……ッ‼」


「今さらだろ、何か問題でも?」


 悪びれる様子もなく言い切った結城陸斗に、ついに諦めたような息を吐くフェリネア=グラフィック。


 そして、彼女はポツリと呟く。


「……できるだけ省くが、それでも長いぞ。この歴史は」


「むしろ短い方が拍子抜けだ」







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