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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第三章 人工知能戦争
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深みある言葉




「……でもおかしくないか。地上ではオブスは三体いたはずだ。俺達の周りには一体しかいなかったけど」


「はい陸斗。先ほどのオブスは地上で遭遇したものとは異なります」


「え?」


『となるとボス。地下に転送された場所に偶然オブスが待ち構えていたという事になります。全体的にツイていませんね』


「分かってないなセレナ。占い番組を見ていなくても分かる、今日の運勢は間違いなく最低だ」


 トンネルは、やはりかまぼこ状だった。


 それもぼんやりと輪郭が浮かぶ程度だ。手元にあるスマートフォンのフラッシュの恩恵だったが、メアリーは特に明るさに頓着していないようでこんな事を言う。


「陸斗、足元の段差にお気をつけください」


「……段差なんて見えていなかったぞ、今」


「人間と違い、私は視覚だけを頼りにしている訳ではありませんので」


 夜に街を歩くのと暗いトンネルを潜るのでは、精神的に大きな違いがある。しかもそれが一五〇〇キロメートルの地下空間ならばさらに神経を使う。しかもしかもいつバケモンに襲われるか分かったもんじゃないトンデモ空間ならば超疲弊するのが人間というものだ。


 ゆえに陸斗は人間じゃないものに会話を求めた。


「メアリー、一つ気になる事があるんだけど」


「はい陸斗」


「……どうして敵対する必要があったんだ?」


「どういう意味でしょう」


「地上の人間は地下の存在を『マザーテレサ』で暴いてから、地下侵略に備えて『強化工事』を行っていた。そして『リペアテレサ』すら設計した天才はメアリーを製造して地下の情報を処理させていた。……これが一〇〇年前からの事実っていうのは衝撃だけど」


 陸斗も陸斗で言葉を選んでいるようだった。


 どういう風に世界の全貌を捉えるのが正解なのか分からない。そんな表情だった。


 こんな事、メアリーに聞いても仕方がない事なのかもしれないが、それでもその理系高校生は聞かずにいられなかった。


「……どうして地上の人間は地下と友好関係を結ぼうとしなかった? メアリーを送ったっていう事はメアリーを送る方法を知っていたって事だ。外交に明るい訳じゃないけど、国に渡る方法があるのなら友好関係を結ぶって選択肢は絶対にあったはずなんだ」


「かつて」


 メアリーは後ろから着いてくる陸斗の方を見ようともしなかった。


 暗闇の奥を見据えるその瞳は、一体どういう色を宿しているのか。


「かつてあなたのように、いいえ、あなたと同様の思考回路を持つ者がいました」


「?」


「その者は身を破滅に追い込み……」


「……? それで、どうした?」


 奇妙なところで区切ったメアリーに、陸斗は先を促した。


 ポツリとこぼれたメアリーの言葉のその何と頼りない事か。か細い声で彼女はこう人工音声を出力した。


「……彼は、その人生を棒に振りました」


「それは、メアリーを製造した天才の事を言ってるのか?」


「はい陸斗。しかし彼は天才などではありませんでした。天才の定義とは、生まれた時より兼ね備えた才能を発揮する者の事を言います。彼の才能は、上下関係で言えば陸斗よりも下でしょう」


「……あり得ない」


「はい陸斗。周囲にそう言わせるだけの険しい道のりを彼は乗り越えました」


「努力の天才ってヤツかね」


「ノー。彼の人生はそんな陳腐な言葉ではまとめきれません。彼は天使であり悪魔でした」


「……? それってどういう」


 話を掘り下げようとした陸斗に対して、前を歩くメアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスターの動きがピタリと止まる。


「?」


 メアリーの背中にぶつかるのだけは避けられた。


 眉をひそめつつも、陸斗はメアリーの横顔を覗き込むように移動する。一体何がそのアンドロイド少女を止めたのか。


「……か」


 その少女は瞳を限界まで見開き、闇の奥を見据えていた。

 メアリーの尻尾は彼女の足の間にしまわれていた。まるで恐怖を前にした犬のような反応。


「ま……か」


 彼女は言う。

 闇に向けて、一言だけ。




「まさか」









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