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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第三章 人工知能戦争
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排除する強敵





 いくらリペアテレサの設備を一言で操作できるよう掌握しているといっても、オブス三体の猛攻をどうにかできる訳がない。


 テレサはコンピューターであって、要塞ではない。

 だから。



 オブスに接触する〇・七秒前。

 髪の毛を使って振り子のように滑空したメアリーが、軌道線上にいた少年を回収する。



 まさに紙一重。


 押し潰されるほんの一瞬前に、陸斗はメアリーに抱えられて再びリペアテレサの外壁へと貼りつく。


「もうちょっと余裕を持っても良かったと思うんだ。死ぬかと思った」


「いいえ陸斗。私が見殺しにする訳ありません」


「そりゃどうも」


 軽く返答した陸斗は三階分の高さが怖過ぎてメアリーに必死で抱き着きながらも、冷静に状況を見つめていた。オブスが三体同時に衝突して横滑りを起こすように、一瞬行動不能に陥る。


 鋭い牙を持ったウロコまみれのダンゴムシのようなそいつらを眺めて、『範囲』に入った事を確認する。


「セレナ」


『ええボス』


「やれ」


『オーダーを承認』


 それが魔法の一言だった。


 カッ‼‼‼ と引きつけたオブスの間近にあった自家発電機が大爆破を起こした。


 オブスからの悲鳴はなかった。

 それは発声器官ないからなのか、悲鳴を上げる余裕すらもなくしたからかは分からないが、明らかに身をねじるような奇妙な動きが見て取れた。


『第一設備の起爆完了』


「リペアテレサの動力源はしばらく通常のものしか使えない。緊急時に備えて急いで自家発電機を持ち寄ってくれる業者を手配してくれ。新しく設備を作っても良いぞ」


『オーダーを承認。この時間帯から動いてくれる業者があるかどうかは微妙なラインですが』


 そう、自家発電機は二基ある。


 ついさっき爆破したのは第一設備。


 そしてオブスは低知能生物である。ダメージを負った三体のダンゴムシが目指すのは、明らかに壁に貼りついた陸斗とメアリーではない。


 もう影も形もなく吹っ飛んだ、一基目の自家発電機があった場所そのものなのだ。


 もぞもぞと、その体を這わせて動くオブスに陸斗はニヤリと笑う。


「二基目を爆破。セレナ、打ち合わせ通り上手くやれよ」


『ええボス』


 再びの爆発があった。


 しかし爆発の専門家が見れば、明らかに眉をひそめただろう。黒煙の立ち上り方が一基目の爆発と違う。


「どうだ? 素人目じゃ分かんないな」


『わたくしを誰だと? オーダー通り、絨毯爆撃のように真下に向けての爆破に成功しました』


「良い子だ」


 二基目の爆破は、オブスを打倒するためのものではない。

 地面を破壊するためのものだ。


 そう、条件は簡単だ。


「穴の深さは関係ない」


 そう、平らに均された地表面でなければ問題ない。

 わずかな地下へと続く道が、怪物を深奥へと引き込んでいく。


「保障はない」


『しかし』


「それなりに」


『公算は高い』


 直後だったと記憶している。

 第二基の自家発電機によって作られた、浅めの穴にオブスが触れた直後だったのだ。



 青白い色の光と共に。

 オブスがブラックホールのように吸い込まれて行った。



「よおし‼」


 ガッツポーズをかましつつ、速攻で次のタスクを頭に浮かべる陸斗とセレナ。


 前回……体育館で起こった条件を加味すれば、オブスを引き込んだ青白い色の光が消えない内に次の手を打つ必要がある。


 どこにも保障がない以上、それなり以上の可能性がある部分を突いて行くしかないのだ。


『ボス。レアメタルを』


「分かってる! セレナ、指示出すのは俺の仕事な!」


『これは失礼』


 体育館の時とは違い、レアメタルが深く地面を抉ってくれる訳ではない。

 だったらあのピンクの輝きが継続している内に、可能性の高い選択肢を選ぶしかないのだ。


「メアリー‼ 跳べえ‼」


 そう叫んだ時には、少女の形をしたアンドロイドは高く、強く跳ねていた気がする。


 あの体育館の状況を思い出す。


「レアメタルを持つ」


『地表ではない、即ち穴の中』


「そして青白い光」


『ボス。最大限、今できる条件をクリアしました』


「頼む……っ」


 その青白い光は、地獄に続く穴であっても天国に繋がる道ではない。


 それでも、結城陸斗はこう思う。


「頼む……っ‼」


 強く強く。

 こう思うのだ。


「俺に責任を取るチャンスをくれ……ッッッ‼‼‼」


 そしてメアリーが青白い光の放たれている浅い浅い穴へと着地する。


 直後。

 地面に触れた感触が。

 なかった。





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