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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第一章 初めましてに至る道のり
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登校@幼馴染に奢らせる




 街の風貌は、ここ二〇年くらいで一変した。


 いいや、街というよりも世界全体のレベルで、と表現するべきか。詳しい歴史は結城陸斗も忘れたが、約一〇〇年前に発見された『新事実』により世界は大きく改変した。

 そして、それを分かりやすく示す光景が景色の中に紛れ込んでいた。


 学校の教材を詰め込んだバックを背負い直しながら、陸斗は横目で『それ』を見てため息をつく。


「……ここも強化工事か。あそこのアイスクリーム屋さん、好きだったんだけどな」

「あちゃー。じゃあ食べられるのは三ヶ月後かな。まあ今は一〇月だから客足が少なくなる時期に工事を完了させたいって思うのは普通なんじゃないかしら」


 わずかに肌寒い空気の中で、耳障りな騒音が周囲に響き渡る。

 ダンプカーやショベルカー、そして鉄板や鉄骨など強度を高めるための材料を積んだ大型トラックなどが一時閉店となったアイスクリーム屋に大集合していた。普段なら何事かと注目する場面かもしれないが、今や街を二つも歩けば必ず見られる光景である。


 強化工事。


 イメージとしては、地面の強度を上げるために金属で地表をさらに覆う加工作業、という感じだろうか。

 何のために強化しているのか。答えは簡単だ。


 通学路でおにぎりを齧る結城陸斗に、茶髪ショートの少女はこう問いかけてくる。


「ねえ、あれで本当に『侵略』を防げるの?」

「はっ、『侵略』ねえ……」


 思わず鼻で軽く笑ってしまう陸斗。

 約一〇〇年前に発見されたのは、地下に未知の生物がいる、という新事実だ。とはいえ、まだ見た者はなく発見情報も得られていない。未確認生命体を偽装した加工映像なども出回っていない程度のまやかしだ。


「まーたそんなリアクションして。ほんとに地下から化け物が湧き出してきたって知らないわよ」

「『マザーテレサ』とかいうスパコンの演算結果だろ? 鵜呑みにする方が馬鹿なんじゃないか。どっかの占い師とかナントカ文明が残した予言に真面目に向き合うみたいなものだし、俺は苦手なんだけど」

「ガチの秘書プログラム兼言語インターフェイスのセレナを使いこなしている学生が何言ってんのかしらって感じなんだけど……?」

「いやさ、だからこういうプログラムとかって所詮は人が作ったものだろう? セレナを一から作ったからこそ分かるんだよ。演算結果は鵜呑みにするべきじゃない」

「……なんか、この話になるとあなたって妙に頑なよね」

「別に。ただ、見た事もないのに事前に準備を固めておくのって本当にちょっと馬鹿らしく思える」


 端的に表してみたが、長年の付き合いである花恋が頑なだと言うのであれば、やっぱりそうなのかもしれない。

 嫌な空気になる前に、陸斗は学校とはやや逸れる方向を指差して、


「花恋ー。コンビニ寄って行こうぜー」

「学校‼」

「もう遅刻確定なんだからさ、どうせなら後悔しない道を行こうよ」

「あなたのそういうトコ昔からほんとに理解できない! って、おい、きゃっ⁉」


 もううるさいお説教は聞き飽きたので、手を引っ張って掃除機みたいにズルズル引きずり強制的に店の中に連行する結城陸斗。


 ちなみに手を握っても互いに顔を赤らめるとかいうリアクションは一切ない。この辺りは小さい頃からの付き合いの為せる技だろう。流石は平気で膝枕とかし合う仲の良さである。


 そして店に入ると、普通に商品に食欲が刺激される。高校生は育ち盛りなのだった。


「アイスクリームの話をしてたからかアイスが食べたいような」

「花恋、もう一〇月」

「わ、分かってるわよ、太るし食べない!」

「……俺は無難にジュースかな」


 そしてレジに持って行く前に、恒例の儀式を行う運びとなった。


「「最初はグー、ジャンケンホイ」」


 そして驚異の勝率八〇%の少年はガッツポーズを取った。


「いえーい。ごちでーす」

「くっ、納得いかないわ……ッッッ‼ 私まだ今日損しかしてない……ッ‼」


 陸斗の商品まで持って、財布片手にレジに向かって行く幼馴染を見送ってから、結城陸斗はこっそりスマホを取り出して作戦会議を進めていた。


「よーしよーし。セレナ、お前の言う通りだ。やっぱり花恋のヤツ、前に何の手で負けたか覚えてやがるな。あの真面目さんめ」

『おめでとうございますボス。女の子との奢りジャンケンに勝つためにわたくしをフル活用するなど何考えているのですかという感じですが、ボスが嬉しそうなので全て良しとします』

「ふっふっふ、時に堕落が真面目を超える事もあるとこれで証明してやる……ッ‼」

『おそらく証明手段を間違えています、大いに』


 もしセレナがリクルートスーツを着た女性秘書であれば、片手を額に当てて大きなため息をついていた事だろう。


 清算を終えてこちらにやってくるレジ袋付きの花恋を見て、陸斗は軽く敬礼する。


「いやあ、気分が良いねえ」

「あなたって最低」


 紙パックのカフェオレにストローを突き刺して喉を潤す陸斗だったが、その様子を見て花柄カチューシャの茶髪少女がうえっと舌を出す。


「よくおにぎり食べてカフェオレなんか飲むわね……」

「同時に食べるのは確かに合わないけど、食べた後ならあんまり関係なくないか」


 ここ四日はレアメタルをずっと調査していたため脳が疲れていたのか、甘いものがやたらと美味しく感じる。アイスクリーム屋を注目したのは体が甘いものを欲していたからか。

 そしてようやく頭脳に栄養が回ってきたからか、結城陸斗はふと疑問を覚えた。


「うん? そういえば一時間目って何だっけ?」

「数学」

「うヴぁー。今日何すんの?」

「先生は一発目に小テストしてから新しいトコに進むって昨日言ってたわ」

「……、サボっ」

「って良い訳ないでしょう!? というか、数学より全然難しそうなC言語とか難解なプログラミングとかはできるくせにどうして数学とか英語とかの理系科目になると顔を真っ青にする訳よ!?」

「分かってないな花恋。好きこそものの上手なれって言葉があってだね。そしてお馬鹿な君に教えてあげるが英語は文系科目でも必須だったはずだぜ?」

「分かってるわ大馬鹿野郎! 忘れているのかもしれないけど私はあなたより成績は上だからね!? そんなに偉そうにされる筋合いはないんだけど‼」


 連行される側が交代した。

 今度はコンビニに引きずり込んだ時同様、同じ教室まで花恋に掃除機みたいに引きずられる羽目となった。






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