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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第二章 衝撃の白き知能
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戦争の合間の平和3




 重役出勤っぷりにも程があるかもしれないが、それでも高校生には登校義務があるのだった‼


 結局、結城陸斗が学校に到着した時には約束の時間を一時間ほどオーバーしてしまっていた。それでも違約金が発生しなかったのは、交通道路で渋滞を起こし、業者の車のガソリンメーターのガス欠マークを光らせ、学校の来客名簿から業者の名前を削除して確認に時間を要するように工夫して……とセレナのマシンパワーをフル活用したえげつない工作活動があったからである。


 そして回収業者が来る五分前。きちんと部室に到着した陸斗の前には、腰に手を当てて仁王立ちな部長サマが立っていらっしゃった。


「遅い遅い遅いッッッ‼ 私はもうヒヤヒヤしまくっていたんだよ陸斗クン‼」

「すみません雪先輩。でもほら、俺って大抵こんなヤツでしょ?」

「馬鹿じゃないのか。この部室の大穴も含めて大馬鹿野郎なのか君は!?」

「あー、修復業者を手配しないとですね。セレナ」

『オーダーを承認。実験の事故として保険が下りるはずです。わたくしに交渉もお任せください』

「ありがとセレナ」

『あまりにも勿体ないお言葉です。それはもっと大仕事をこなした時にお願いします』


 そんなやり取りを聞いて、雪先輩は心の底から呆れたような顔をしていた。


「……君はつくづくしようのないヤツだなあ。その年齢で自分のやった事に責任を取れるシステムを敷いてしまっているから、こっちは怒るに怒れないんだ」

「そんなに立派なものじゃないですよ。ただ、俺は学校の課題だの調べものだのが面倒だから代わりにやってくれるヤツが欲しかっただけで」

「ほう、言わば専属のメイドが欲しい男の願望が歪曲したようなものか」

「全面否定はできないんですけど、できればその例えはやめてください」

「ともあれ、レアメタルは私が渡しておこう。ケースが破壊されてしまった事情も説明しなければならないしね」

「……良いんですか?」

「ああ、君は色々と貢献してくれているし。優秀なルーキーだ、大人の汚い世界を見てガッカリして欲しくない。君は何も心配しなくて良いよ、運搬の業者くらい私が丸め込んでやるさ」

「そう言えば、今は授業中だっていうのに部室で優雅にティータイムしてましたもんね」

「授業が退屈なのが悪いの」

「サボる生徒が悪いかと」

「現在進行形でサボってる人間がこんな事を言い合っても意味はないな」


 ちなみに教師陣も雪がここでサボっているのだろうと推測はついているはずだが、不用意に部室を開けて実験がパーになったり何かを壊したりすれば、邪魔をした教師、当人の責任になるので不用意に踏み込めないのだ。


 この先輩もこの先輩で、ちゃっかり自分を守るシステムを敷いている感じであった。


「じゃあお願いします。何か揉め事になったら呼んでくださいね」

「ああ、もしそうなったら君が颯爽と現れて助けてくれる事を期待してるよ」


 レアメタルを渡して、陸斗は出口の方へ歩いて行く雪先輩を見送る。


 そういえばあの先輩、隣でずっと待機モードみたいに静かだったメアリーにはノータッチだったが、特に気にはならなかったのだろうか。


「……いいや、雪先輩ならアンドロイドって見抜いていてもおかしくないかもな」

『ええボス。ミス雪は非常に頭の良い方です』


 メアリーは部屋の端の姿見でクルクルと回って自分の格好をチェックしていた。あれは何が楽しいのだろうか、と陸斗はちょっと首を傾げる。


「……さて、お勉強の時間といこう」

『ええボス。昨夜は周囲を観察する余裕はなかったですものね』


 体育館みたいに大きな部室のほぼ中央が丸ごと削り取られていた。


 そう、昨夜の悪夢を思い出す。真っ暗闇の迷宮の入り口はここだった。確かに地下へと続くほどに深く大きな大穴であった。


 陸斗は身を乗り出し、穴の中に落ちてしまわないように気をつけながらその全貌を観察する。


「……セレナ、部室内のセンサーを起動」

『オーダーを承認』

「大穴をスキャン。終わったら教えろ」

『ええボス。かしこまりました』


 スマートフォンを操作して、フラッシュのライト部分を輝かせる。

 大穴の底を照らしてみるが……。


「駄目だな、一番底は見えないか」

『ボス。大穴のスキャンを完了しました』

「全貌をアナウンスしてくれ」

『直径は六・五メートル。深さ二〇二メートルです。大穴の壁は妙に綺麗に削り取られています。岩を熱で溶かして爛れた状態に非常によく似ています』

「二〇二メートル……。メアリーの話では一〇〇〇キロメートル越えって話だったけど。センサーが誤魔化されている可能性は?」

『いいえボス。それらしいノイズやラグはありません』

「……ふむ。なら何か不審なものは?」

『中は空洞ですが、一番底に窪みのようなものがあります。二センチほど地面が削られている、と言えば分かりやすいでしょうか』

「あん? 何だそれ……?」


 その時だった。


 背後から声を掛けられた。いつの間にか部室の隅の姿見の鏡を離れ、陸斗のすぐ側まで近づいてきたメアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスターであった。


「おそらく物質転移のマークではないでしょうか」

「マーク?」

「……説明しても理解できないでしょう。地上にはない概念です」

「お答えできませんよりマシだ、教えてくれ」

「では分かりやすく申します」


 メアリーは声に逡巡の色を混ぜて、


「同様のマークをつけた場所に、それを転移するためのものです。こちらではエレベーターのような役割を果たします。……まあ使用するエネルギーは遥かに桁違いですが」

「……つまり、そのマークとやらのせいで俺は一五〇〇キロメートル地下に放り込まれた……? うん? 待て、どうしてレアメタルの暴走からそんなマークが浮かび上がる?」

『サイコロが一〇個ゾロ目になるみたいに統計の悪魔でも顔を出したのでしょうか……?』

「可能性は?」

『低いでしょう、ボス。センサーからの反応を解析するに、丸と直線、曲線を複雑に組み合わせた魔法陣のような模様を描いているように見受けられます。これがアーク溶断のような熱線を散らした惨状で、偶然にも描き上がるというのは無理がある意見です』

「……なら」

『ええボス』


 ポツリと仮説を口にする。


 もう手元にはないレアメタルを思い浮かべながら。


「……そのマークは、レアメタルが描き上げた?」





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