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Artificial Intelligence War  作者: 東雲 良
第二章 衝撃の白き知能
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優秀な秘書とベッドの上で




「さて」



 ベッドへバタリと横たわる。

 だがそのまま眠る訳ではない。


 結城陸斗は息を吐きながら、ベッドに腰掛けたまま小さく呟く。相手はベッドサイドのテーブルに置いたノートパソコンだ。


「セレナ」

『ボス。災難でしたね』

「どう思う?」

『ええボス。まずあの地下空間ですが』


 薄暗い自室の中。

 結城陸斗は頭痛を押さえ込みながらベッドに横たわる。


『地下空間全体が何かしらの技術を隠蔽するための秘匿施設であった可能性が高いという演算結果が出ています。……そろそろ「演算結果」という言葉に苛立ち始めた頃ですか?』

「いいや、お前はそういう存在なんだから構わないよ」

『それなら結構です。その結果としましては、秘匿施設全体が隠蔽していたものの代表が』

「……あのアンドロイド少女、か」

『どうでしょう』


 結構自信満々で答えたつもりの解答が速攻で却下されてしまう陸斗。

 容赦のない秘書に赤っ恥の少年だったが、セレナは特に気にしないようであった。


『こう言ってしまってはにべもありませんが、ボディは材質や柔軟性をとことん追求すれば人間に近いものは作れるはずです。となれば当然、重要度は傾いて来ます』

「アンドロイド少女の柔らかい感触よりも重要なもの、ねえ」

『失礼、今は真面目な話でよろしいのですよね?』

「も、もちろんですとも」

『わたくしも言い回しに気をつけましょう。問題なのはハードではなくソフトの方です、ボス。すでにお分かりだとは思いますが』

「ああ」


 小さく頷き、陸斗は心当たりを口にした。


「柔軟な会話機能、高文脈の言語を取り逃さない対応、声色にすら感情を乗せてる。……まあ無表情なのは減点だけど、それを差し引いても十分過ぎるソフトウェアだ。セレナみたいな高度演算ができるのかは知らないけど、どこかのシンクタンクにでも売り渡せば十分過ぎるほどの利益になるだろうさ」


 ここだけは、陸斗の口からも科学者のような堅苦しい発言が飛び出した。


 腐ってもコンテナ三つ分のスーパーコンピューターを製造した実績はあるという訳だ。


『地下施設全体がミスメアリーを秘匿としていたのであれば、地下一五〇〇メートルに存在していた、と偽装情報をインストールしていたのではないでしょうか』

「やっぱりセレナもそう思うか? メアリーの話が作られたもので、本当はちょっと深い地下トンネルを歩いていただけだって」

『ええボス。そちらの方が現実的ですもの』

「だとしたらさあ、セレナちゃん」

『ええ陸斗様。看過できない問題が浮上します。いいえ、問題が解決しない、と表現した方が正しいでしょうか』

「……ていうか、その陸斗様っての悪くないなあ。初期設定を変えようかな」

『わたくしをちゃん付けで呼び続けるご覚悟があるのでしたら、ぜひどうぞ』

「や、やっぱり今まで通りで良いかな。社会人になったら色々キツそうだし……」


 時速二〇〇キロを超える列車(?)、粘質なマグマの塊、ウロコまみれの巨大爬虫類、一〇〇を超える猛禽類の群れ。


 あんなものが普通の地下空間に存在している訳がない。

 そして存在していて良いものでもないだろう。


「……可能性としては?」

『あの地下施設を監督する何者かが製造・管理している可能性はないでしょうか』

「だけどあの巨大爬虫類とマグマの塊は狂ってたぞ。キメラや特殊生物まで作ってたっていうのか」

『……流石に情報量が少な過ぎます。せめて地下施設の監督者くらい突き止めなければ』


 はあー、と大きなため息をつく理系高校生。

 結局は地下施設では何も摑めず、成り行きで持ち帰る事になった機械仕掛けの少女・メアリーもだんまりと来た。


 世界は上手く回っているようで不平等だ。

 最終的には真実は自分の足で見つけなければならないのかもしれない。


「……ま、こいつが戻ってきただけでも僥倖か」


 そんな風に呟く陸斗の手には淡く赤紫色に輝くレアメタルがあった。


 やはりもう一度あの地下に向かわなければならない、という最悪の状況に比べれば、ベッドで体を休められる現状は喜ばしい。


『通常の生活に喜びを感じるようになったら体に負担をかけるストレスの信号は黄色です』

「車のナンバープレートとか街の看板の数字とかが気になると疲れている証拠、みたいなアレか?」

『それよりも深刻と見るべきでしょう』


 やや笑えない診断結果だった。

 そして何かと考えたい事があっても、その気持ちに体が着いてこないのも事実だった。


『ボス。眠いのでしたら無理なさらず。ミスメアリーはわたくしの監視下にあります。何か不審な動きがあれば、スマートウォッチから軽い電気を流しますので』

「……あんまり痛くしないでくれよ」

『ええボス。おやすみなさいませ』

「おやすみ」


 その一言がスイッチだった。


 部屋の電気とパソコンの画面など、睡眠を妨害するものは全てシャットアウトされていく。


 優秀な秘書プログラムだけが主人のために活動を続ける、そんな献身的な夜が更けていった。





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