状況判断は適切に
燦然と輝く星が瞬く暗闇の中、狼と似ても似つかない相手を目の前にシュウ率いるパーティメンバー、シルネ、ハーティ、新規加入のバンシャが今だ戦闘を行っていた。
どれぐらい時間が経過したのかは定かではないが戦闘が開始されてからの記録は・・・
「狼擬きのモンスターの威嚇とも思える一撃」
以上。
既にどちらかが敗北し、戦闘が終了しているわけではない。
それならそれでその後に文章が綴られているのが普通だろう。
では何故戦闘記録がその一文以降まったく書き足されていないのかと言うと・・・まったく変化がないせいだ。
狼擬きの一撃以来、お互い反撃のタイミングを窺うばかりで行動という行動を起こさなかった結果。
「もう朝近いな」
いつの間にか空に輝いていた星たちは既に光を失い、代わりに燦々と陽光を放つ太陽が顔を覗かせていた。
「いつまでこの状況続けるの~もう眠いを通り越してはいるけど、一度仮眠は取りたいよ!」
既に極大魔法の詠唱を終えたハーティは文句を垂れながら発動を今か今かと構えている。
「確かに。でもあいつの動きがわからない今、こちらから攻撃するのは危険よ」
もう戦闘が開始して何時間も経つのにも関わらず、緊張の糸を一切緩めないシルネだが、目が半分座っている事実は言わないことにしておく。
どちらかと言うと、俺が色々口を出したいのは一緒に前線に立っている右側のやつだ。
「おいバンシャ!」
応答なし。
理由は理解している。
何せ隣で勇ましく立ちすくんでいる男は、エンストして動かなくなった車のエンジン音のようないびきを立てていたのだから。
「いい加減起きろよ!いつまで------」
「あれ?何でこんなところに商品が転がってんだ?」
突如俺の言葉を遮る声が後方5メートル先から放たれる。
逆光によって顔は窺えないが、声音と大柄な体格から男性であるだろう。
商品という単語に引っ掛かる。
「まさか北のダンジョンでもないのに、モンスターが出るとは不思議なこともあったものだな」
静かに朝日が昇る最中、朝を告げる数匹の小鳥のさえずりによってかき消されているのか、それともあの人物の歩みがそういうものなのか定かではないが、自分の聴覚では足音がないかのように思える足取りでこちらに近寄ってくる。
「確かにモンスターがこの辺で出現するのはおかしいな」
「お前起きたのかよ」
なんていいタイミングだとこと。
「だろ。お兄さん方、こいつ譲ってくんない?」
いつの間にか隣に立っていたその男は先日聞いたことのあるようなチャラついた口調で言った。
「譲るとは?」
「簡単な話さ。俺はそのリルーフェンを商品にするのさ。まだガキだし、テイマーには良い価値付けてもらえそうだし。何ならここでお前らから買い取るってことでもいいけど」
モンスターを商品?テイマー?まだガキ?
前にリーリカーリの街でモンスターの所持の確認とはそういった人物が存在するからなのか?
疑問が引っ切り無しに飛び出してくる。
しかし、この状況に置いて優先すべきはモンスターの討伐だ。
逃げられてはどうしようもない。
「それは生きたままってことか?」
「テイムするんだから当たり前だろ。てか早くしてくれない?俺も仕事が終わってないんだ。睡眠薬が切れるのも時間の問題だし」
これからの行き先を全て任せるつもりなのか三人共口を閉ざしていた。
「最後にいいか?」
「何だ?」
「人に危害は加えないか?」
「それはテイマーにもよるだろうが、何せそれは俺の管轄外の話だ。俺らはモンスターを欲しがるやつに提供するだけ。たったそれだけなんだよ。まぁ基本的にはダンジョン攻略者しかテイマーはいないし、法の決まりでテイマー以外所持は犯罪だ。だから安心しな」
商品を売る商売人として場を踏んでいるのだろう。
丁寧な説明によって押され、既に断われない状況を作り出していた。
まさしく後手に回ったってやつだろう。
嫌な予感がするのは拭い去れないが、ここでの判断ミスはもっと危険な気がしてならない。
「わかった。今回は譲る」
「ありがとよ。ほれ少しだが譲ってくれた礼だ」
無造作に投げつけられた巾着袋を受け取る。
「「パゴスエスト」」
いつ詠唱したのか不明だが、その男の右の手のひらから氷の魔法が放たれる。
中級魔法なのか上級魔法なのかは定かではないが、一瞬で凍りついた姿を見る限り上級魔法の可能性が高そうだ。
判断を間違えていたら、そこのリールフェンと同じ末路だったかもしれない。
「おい運べ!」
男は後方に停留していた馬車にジェスチャーを送ると、数人のガタイが良い男たちが慎重に商品と化したそれを運んで行った。
「もし何かあればご贔屓に」
それだけを残すと男は馬車に戻って行った。
「本当にあれでよかったのかな」
「言いたいことはわかるわ。でもあの状況シュウの解答は正解だと思う。というか今はそう思うしかないでしょ」
前回の抽選会のときといい、今回のことといい、シルネの理解度の高さは心強い。
「断れば、無理やりってことか」
「あぁ多分な」
さすがのバンシャでもあの雰囲気を感じ取ったらしい。
直前まで不動だったと思えない状況判断力だな。
「あのモンスターって、死なないのかな?」
男の話題を挙げているのにも関わらずにこのバカは。
「モンスターはキューブ化にならないと死なないぞ。ダンジョンの潜る際の必須知識だと思うが」
何それ。
すぐさま同意者を探すべく、シルネとハーティを交互に見渡すが、さぞかし当たり前のように両者とも首を縦に振っていた。
「おい!ハーティお前は絶対知らなかったろ!」
「そんなことないです~。おばさんに教えてもらったもんね!」
両手を腰に添え、威張っているとは、さすがに嘘ではないのだろうか?
なら何故あんな質問を?
「というかバンシャはダンジョン潜ったことあるの!?」
「もちろんだ。ギルドカードも持っている。じゃなきゃ地下の部屋も知らないしな」
「とりあえず話は終わり。睡眠を取らないと体が持たないわ」
「シルネの言う通りだな。一度睡眠を取ろう」
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モンスターを商品とし、それを売買することを生業とする人物。
シルネを商品とし、リーリカーリの街の奴隷として販売しようとした組織。
何故かこの二つが関係性がないと思えない。
口調の問題ではない。
生きとし生けるものを商品と総称する行為。
もし繋がっていたとしたら?
不安ばかりが募る。
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「やっと着いたか。トスクネの街」




