水回りには要注意を!
「ぶぇっ」
口から大量の水を吐くと同時に意識を取り戻す。
水を大量に呑み込んだせいなのか、呼吸がしずらく、体が妙に重く感じる。
どうやら、トイコスによって生成されたバリアでは、極大魔法のすべてを受け止めることができなかったようだ。
乱れていた息を整えると、周りの状況を確認するため、体を動かす。
「いっ」
体中に激痛がほとばしる。
前にもこのように激痛にさらされたことがあったが、前回と異なり背中だけではなく、今度は体全体が痛む。
水の魔法を受けただけで、ここまでダメージを負うことはないと思われるが、今回に関しては壁側に倒れていることから、水流によって壁に叩きつけられたのが一番の原因と思われる。
そんな思考を終えると、痛覚を無理やり抑え込み、体を起こす。
水浸しのジャージは体の質量を増加させ、起き上がるために必要な力を余計に奪っていく。
それでもみんなの安否を一刻も早く知りたい一心で、上体を起こし、壁に背中を預け、とりあえずその場に安座する。
そして、事故後の景色を目の当たりにした。
倉庫というには名ばかりに綺麗に片づけられていた部屋が、台風が過ぎ去ったのかと思わせる程に荒れていた。
辺り一面には、木箱に片付けれていただろう、食糧、武器、資料、その他諸々が無残な姿で転がっている。
これほどまでなのか、極大魔法ってのは。
驚きの中、倒れている人影を発見する。
「おいっ!」
声と言うよりそれはもう唸り声だったが、それでも安否を確かめるために声を張り上げる。
返事はない。
まだ意識を取り戻していないのか?
はたまた・・・。
そんな悪い予感が、脳裏をよぎる。
「・・・いやそれはないでしょう・・・」
頭を左右に揺らしそんな雑念を振る払うと、倒れている4人に視線を移す。
人見知りだが、魔法のこととなると、人一倍元気で、今回トイコスという防御魔法で俺たちを守ってくれたシルネ、
この惨事の元凶を作り出したアホのハーティ、
元凶の中の元凶ザシさん、
剣を奪おうと奮闘していたバンシャという人物
が左から順に横たわっていた。
「くそっ。何で誰も起きないんだよ!」
その叫びは、静かな倉庫に響き渡る。
「そっちに行くが、起きないと色々触るぞ!」
脅せば自然と起きると思ったが、どうやらそれでも目覚める様子はない。
どうやら、自分自身で確かめに行く他なさそうだ。
全身には激痛が走り、さらには体内で水がポチャンと音を鳴らしながら、匍匐前進で進む。
たった数センチ進んだとき。
「ぶぇー」
女の子にはありえない吐き方を繰り出しながら、一人が目を覚ます。
「ハーティ!」
ハーティはこちらを向くと俺と同様、全身にダメージを負っているのか、サムズアップだけで返事を行う。
ハーティの安否を確認し、安堵していると、それに呼応するかのように皆次々に水を吐きながら、意識を取り戻していった。
一人を覗いては。
「バンシャ!バンシャ!」
ザシさんが必死に体を揺らす。
そうこの男バンシャだけが未だに目を覚ましていなかった。
ザシさんが意識を取り戻すな否や、真っ先にバンシャが倒れている方へ向かい、さっきからこうやって呼びかけている。
が、未だ反応がない。
この状況下で行わねばならない処置を俺は知っている。
でも、今の心情では、その手を指し延ばせない。
「起きてくれ!バンシャ」
必死に体を揺らし続けているが、そんなことしても無意味だ。
ここで行わなければならない処置は、心臓マッサージと人工呼吸なのだから。
「できる?」
ハーティが落ち着いた静かな声音で問いかける。
その問いに対し、目を合わせぬようにすぐさま視線を逸らす。
もし、現在バンシャの立場が、ハーティやシルネであれば迷うことはない。
でも、相手は俺らに死の危険をもたらした人物なのだ。
出来ればここで死んでいただいた方が・・・。
「何迷ってんの!」
シルネが横腹を付く。
「・・・後悔はないな」
「バッチグー」
「こないだの私のときみたいにやって見せてよ」
二人の心の中には、俺のような無慈悲な心は・・・。
いや、こいつらはそこに救える命があるなら、容赦なく救っていくんだろう。
多分、地面に生えている花でさえも。
「そこどいてください」
ザシさんを無理やり跳ね除ける。
「何をする!」
「単なる人助けですよ」
バンシャの前に着くと、何度も揺らされたせいだろうか、ナスカの地上絵のようなポーズで倒れていた。
これはやりすぎだろ。
人工呼吸のため、顔を近づける。
間近でみるバンシャは、赤髪の短髪で、顔は頼れる厳つい兄ちゃんみたいな感じを醸し出していた。
服を脱がせて、心臓部分に心臓マッサージを行う際の手を作り置く。
この状況下であれば余裕でこいつを殺せる。
そんな思考が一瞬浮かび上がるが、それでもその殺意はすぐさま消え失せた。
その後心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。
「ごぇっ」
バンシャの口元から水が溢れ出す。
「バンシャ!」
泣き叫ぶザシさん。
「あの、感動のとこ申し訳ないんですけどザシさん一ついいですか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いいの?」
「あぁ」
俺たちは最初の街タストを旅立つ準備を行っていた。
「もっとこの街いたかったな~」
先程までのバカを披露していないハーティであれば男から好かれたであろうにこれでは残念極まりない。
「仕方ないだろ。ここの街は俺たちの敵しかいない。確かに冒険者にとってこんなにいい街を捨てるのは心苦しいが、一時経てば戻ってくるさ」
「本当っ!?」
「あぁ」
まだこの街を見て回れていない。
次来たときはぜひとも観光したいものだ。
それと本来の目的の一つの魔法の知識を得るために、またこの場所は必須になるからだろうからな。
「次の行先は決めてるの?」
「あぁ、それならトスクネの街にしようかなって。シルネは知ってるよな」
トスクネの街。
タストの街の近辺に存在する街で、南のダンジョンに近い街の一つと言われ、冒険者の中でもダンジョン挑戦者が多い街。
色んな施設が存在するタストと違ってトクスネは宿や武器屋や防具屋と言った冒険に必要なものばかりが溢れている。
今の自分に必要なものが手に入るかと言われると、ほぼ手に入らないだろうが、ダンジョン挑戦者の言葉を生で聞けるという場なので良しと考え、実行に移すことにした。
「準備できたか?」
「えぇ」
「元から荷物ないから大丈夫!」
俺たちは数少ない荷物を持つと先程までいた、倉庫に戻る。
「ここか」
倉庫の奥の何の変哲もない壁に手を触れる。
「それが隠し扉?本当なら最短でこの街から出れるのよね?」
ザシさんに頼み、この街から最短で出れる方法を聞いたところ、この隠し扉から街の端の井戸に繋がる道を行くのが良いと聞いたのだ。
「早く行こ!」
ハーティが壁を押す。
「あっ」
その瞬間その場からハーティが消える。
「消えたわね」
「あぁ」
これ、からくり屋敷にある回転扉じゃん。
「よっ!」
「何で早く来てくれなかったの!暗くて怖かったんだよ!」
俺とシルネが少し間をおいて入ると泣きじゃくっていたハーティがいた。
「はいはい。行くぞ。フロガ」
こいつと絡むと長いから早々に切る。
手に発動したフロガの火が道を照らし歩いて数分。
ようやく前方に光が見えてくる。
「もうすぐか」
「そうね。それとさっきから気になっていたんだけど。倉庫にあった水が溜まっていなかった理由って」
「多分そうだろ。さっきの扉かそれか別の通気口的な所からここに流し込まれたと思うけど、前者だけだろうな。バンシャが知ってたらそこから仕掛けてくる可能性があっただろうし。あの魔法なら容易いだろうから。でも・・・」
一つ心に引っ掛かる。
俺たちはここまで来るまでに、多少の下り坂を経験した。
それは下に水を運ぶためであろう。
しかし、現在その下り坂が終了し、出口が近くなったためか平坦の道が続いているのだが、足元の水がくるぶし程度しか溜まっていなかった。
「何でこんなに水が少ないのか」
この道は人一人しか歩けない程度の幅で、高さも自分の頭がすれすれ。
なのに事件からまだ二時間程度で水が足元程度なはずがない。
「あっ!」
ハーティが指差す。
「これは!」
道が終わると、そこには井戸の底とは言い難い劇場ホールのような空間が広がっていた。
これならば、水が通路に溜まっていないのかが頷ける。
ただ水をを汲むはずの樽が寂しく浮いているのは不思議だが。
「遅かったじゃねーか」
空間内に響いたその声の主はその場にはいなかった。
「誰だ?」
行き場のない問いは天井から降ってきた男へ行き着く。
「よ!俺はフーリっていんだ。武器は槍を使っている。そして俺はお前さんの持っている剣を奪いに来たってところかな」
少しダブついた白のズボンにピチピチの黒の半袖を着ていて、靴は黒のスニーカー、髪は短髪の青、顔は先程のバンシャと似ていて、いかつい顔、そして何と言っても目立つのは手元に持ったその人物の身長と寸分違わぬ長さを持つ黒色槍。
何でこんな人物ばかり絡まれるのだろうか?
ゲイでもなければホモでもないぞ。
「バンシャとグルか?」
「誰だそいつ?俺はただこの井戸から大量の水が溢れてたんで、気になって近づいたらさ、それが運のつきだったんかね。処理しろって知らないおばちゃんに頼まれてさ、仕方なく請け負ってやったのさ。そして今しがた水を汲み終わったところだったんだけど、そしたら何と下から声が聞こえるじゃないか!しかもそれが先程逃がしたターゲットときた。これはご褒美だと思ったよ。だからそれ寄越せ」
多分こいつはバンシャと違い、素早く事を終わらせるタイプな気がする。
「何故これを狙う?」
「おい、それを今更知ってどうなるっていうんだ?俺は早く帰りたいんだよ」
やっぱりだ。
だからと言って俺も黙っていられない。
「この疑似色彩の剣が目当てなんだろ?なら、これを賭けて勝負しないか」
「おっ。いいじゃねーか。でも勝負は戦闘以外なしだ。てか俺はそれしかできねー」
頭を使うのは嫌いらしいが、このままでは結局ただの戦闘になりかねない。
それだけは避けなければならない。
俺が勝てる方法は・・・。
「少し待ってくれ!」
「あぁ?まぁいいが」
俺は先程からかかし状態の二人に近寄る。
「お前ら何で何にも発言しないんだよ。でもハーティはそっちの方がいいか」
「失礼ね!私あんな筋肉ムキムキが嫌いなだけよ」
こいつはあのやばい雰囲気ではなく筋肉で話しかけなかったようだ。
やっぱりアホだ。
「シルネは・・・」
「なっ何よよ!」
安定の人見知り。
「お前らいいか・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「終わったぞ」
「そうか。負ける準備は済ませたか」
フーリは槍を回し、戦闘準備を整える。
「一ついいか?」
「まだあんのか?早くしろ」
これ以上引き延ばすのは危険かもな。
「いや。疑似色彩のことを本当に知っているのかと思って」
「それは知ってるぜ。全属性使えるやつだろ」
少し語弊している気がするが、俺も先程シルネに聞いたばかりなのでスルーする。
「じゃ行くかね!」
ここからは俺の力量では無理な戦闘だ。
だからできるだけ引き付けて耐えるだけ。
それも難しいかもしれない。
でもやるしかない。
相手は槍を構え、こちらが動くのを窺っている様子。
行くとか言いながらこちら待ちとは優しい限りだ。
剣を背中から引き抜き、疑似色彩の剣を握った右手を後ろに引く。
「参る!」




