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供物

作者: ParticleCoffee
掲載日:2017/04/15

 暖かくなり始めた天気の良い日曜日。

 自宅から歩いて五分の場所にある小さな神社に来ていた。

 拝殿の前に立ち、賽銭箱の上にある紐を揺さぶって、鈴をガラガラと鳴らす。

 するとまもなく、スラリとしたキレイな白猫が音も立てずに現れる。

 ゆっくりと私の足元まで来ると、パッチリとした大きな目で私を見上げてくる。

「やぁお姉さん、今日も来てくれたんだね。会えてうれしいよ、本当に」

 柔らかな口調で歓迎の言葉をクチにしてくれる白猫に、思わず笑みがこぼれてしまう。

 私が賽銭箱に腰掛けると、白猫も賽銭箱の上に飛び跳ねた。

 ポケットから猫缶を取り出し、

「ちょっと待ってね」

 パキュッ、とフタを開き、大きな葉っぱの上に中身を乗せる。

「はい、召し上がれー」

 行儀良く待つ白猫の前にそれを供えた。

「それじゃあ、いただきます」

 と、白猫は食べ始める。

 上品にゆっくりと咀嚼する白猫のとなりで、私はぽつりぽつりと話し始める。

 学校での面倒事、彼氏への不満、両親の不仲……数え上げればキリがないほどの愚痴を吐き出した。

 そのために、私は毎週日曜に餌を持って白猫に会いに来ているのだ。

 白猫はそれを黙って、時には頷き、親身になって聞いてくれた。

 葉っぱの上がキレイになり、私の話の区切りがついたとき、ふいに白猫がクチを開いた。

「――お姉さん、あっちを見てみて」

 白猫がアゴで示す方に目を向ける。

 そちらには入り口の大きな赤い鳥居がある。

 そこには座り込むおじさんと黒猫が向かい合っていた。

 うなだれるおじさんからは、私以上の疲労の色が見て取ることができる。

 黒猫は、白猫同様に神社周辺にたむろする野良猫だ。

「もっと近づこうよ」

 そう言って、白猫は私を連れてゆく。

 気づかれないように、おじさんたちの背後に回った。

 近づいたことで、おじさんと黒猫の話がはっきりと聞こえてくる。

「この前言った『アレ』、考えてくれた?」

 ざらつきのある声で黒猫がたずねた。

 おじさんは肩を落とし大きく息を吐き捨て、

「うん……代わってもらおうかな。もう、なんか、疲れちゃったんだ……」

 天を仰ぎながら応え、おじさんが手のひらを差し出した

 おじさんの手に、黒猫が右前足を乗せる。

 途端に、おじさんのカラダが小さくなり始める。

 そして、反対に猫のカラダが大きくなり始める。

 瞬く間に、黒猫がおじさんの姿になり、おじさんが黒猫になっていた。

 おじさんが黒猫のような愛らしく晴れやかな表情を浮かべ、黒猫がおじさんのような疲れきった憂鬱な表情をしている。

 おじさんが黒猫を撫でるが、黒猫はなんの反応も見せなかった。

 おじさんは、ご機嫌な歩調で走り出して、鳥居を抜けて何処かへ消えていった。

 黒猫は、トボトボと歩きだして、そのまま木々の中へと消えていった。

 ふたりのいなくなった空間を私はただ呆然と見つめていた。

「――どうだった?」

 ハッと私は我に返った。

 声を発した白猫を見ると、私の返事を待っているようだ。

 その顔は、とても爽やかなようでもあり、醜く歪んだようにも思えた。

「……うん、面白かったね」

「うん、おもしろいよねー」

 言いながら、白猫は私に右前足を差し出す。

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