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 男が去って、入れ替わるように現れたのは、白い鎧を身につけた騎士たち。

 一糸乱れぬ動きで取り囲まれ、一斉に剣を突きつけられた。

 これは、価値を示すような猶予も与えられない、という最悪のパターンでは。


「只人のように取り乱す無様は見せんか。さすがだな」


 表には出さずに焦っていれば、騎士たちの奥からそう声がかかる。

 騎士たちが剣を引き、ザッと左右に分かれて跪いた。

 その場に立っているのは、私と、他より豪華な鎧を纏った男性のみ。

 先ほどのはただの脅しだったのか、と胸を撫で下ろす間もなく。

 男性がすらりと剣を抜き、剣先が眼前に突きつけられる。


 その剣は、刃が全て光で出来ていた。


 その剣が、断罪の光と呼ばれる宝具であると、悪しきものだけを切り裂く剣であると、説明を受けて。

 ああ成程、そういうことですか、と納得の色をのせて呟けば。

 察しが良いな、と、男性はどこか満足気に頷いてみせた。


 あとは言葉もなく、光が袈裟懸けに振り下ろされる。

 私はただ目を伏せて、それを受け入れた。


 ・・・・


 悪しきものではないと証明された後、私は教会内をせわしなく連れまわされ、私の価値とやらを精一杯示すこととなった。

 位の高そうなお爺様から順に、病に呪いに怪我にと、治せるものは全て治してみせた。

 治せないものもあったが、進行を遅らせ、痛みを取り除くことくらいなら出来る。


 自身や友人知人の恩人とあれば自然と好感度は上がっていくもので。

 ありがとうの言葉に微笑みを返すだけの日々を過ごしていれば、いつの間にか聖女だなんだともてはやされるようになり。

 そこはかとなく尊敬や憧憬の目を向けられて、何となく居心地の悪さを感じている今日このごろ。


 悪しき者の手が及ばないようにと、教会内であっても出歩く時は常に周りを騎士に囲まれ、私室として与えられたのは中枢部の地下にある隠し部屋。

 息苦しいほどの厳重さで守られ、いったい私は何様なのだろう、と、不意に虚しくなる。


「囚われのオヒメサマに、良い知らせがある」


 だから、出入りが制限されているはずの私室にひょこりと顔をだした男の、そんな言葉に。

 私は考える事なく飛びついた。

 物理的にも飛びついた私を、危うげなく受け止め。

 そのまま、すとん、と膝に乗せると。

 男はいつも通りの飄々とした顔で、計画を話しはじめた。


 どうやら、私という存在を危険視している一部の派閥が、私の命を狙って襲撃を目論んでいるそうで。

 その襲撃のごたごたを利用して、教会を脱出してしまえ、という話だ。

 計画では他にも協力者がいるらしいが、誰なのかは教えてもらえなかった。


 もしかしたら、と思い浮かべた顔が、ふわりと胸に明りを灯す。

 違っていたら、恥ずかしいけれど。

 でも、多分、きっと……。


 ・・・・


「随分と、機嫌が良いようだが」


 ふと耳元でそう囁やかれ、ビクリと心臓が跳ねた。

 警護のためとはいえ、騎士たちにぴったりと張り付かれながら歩くのはどうも慣れない。

 基本的に、一番近くを歩くのは、いつぞや私を断罪の光で切り裂いてくれた聖騎士様だ。

 平静を装いながら聖騎士様を見上げ、今日はいつもより髪の調子が良いので、と、とぼけておく。


 いつもと変わらぬように見えるが、との声に、指通りが違いますよ、と返せば。

 数秒の間を置いて、カシャリと金具を弄る音。

 おや、これは意外な展開だ、と。

 目を瞬いているうちに、小手を外した聖騎士様の、男性らしい無骨な手が髪に伸びる。

 スルリと、指先だけで髪を挟むように撫でると、手早く小手を付け直し。

 確かに、心地良い指通りだ、と。

 ごく僅かに頬を緩ませた。


 お堅い印象が強い聖騎士様の、珍しい行動に驚いていれば。

 それに気づいた聖騎士様が、むっと口元を引き結び。

 何となく、照れているようだと、そんな風に察して。

 気に入ったのなら、もっと撫でても良いですよ、と。

 冗談交じりに笑みを浮かべた。


 てっきり、より渋面になるか、無視でもされるかと思っていたら。

 ぽかん、と、虚を突かれたように此方を凝視する聖騎士様に。

 何をそんなに驚いているのだろうと首を傾げれば。

 そんな風に笑えたのか、と、そんな一言。


 そういえば、教会に連れてこられてからは、作った微笑しか浮かべてこなかったな、と。

 改めて気づいて。

 案外、ちゃんと見てくれていたらしい聖騎士様に、少しだけ心が緩んだ。

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