表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/45

17

 すっかり戻った髪の色は、多少もの珍しそうに見られたものの、案外あっさりと周囲に受け入れられ。

 染めていた頃と何も変わらぬ平穏な日々を、ほのぼのとした気持ちで過ごしていたところ。

 特に何の前触れもなく、不意に訪れた急展開。


 大通りの賑やかな空気の中、似つかわしくない静けさを背負い。

 真白な修道服を纏った人々が、列をなし粛々と歩いてくるのを。

 何かの祭事だろうかと、ぼんやり眺めていれば。

 何故か、修道士様方が足を止めたのは私の前。


「「お迎えにあがりました」」


 と、そう声を揃え、一糸乱れぬ連帯感で跪く人々に。

 ぽかん、と目を瞬く私の腕を、さっと立ち上がった修道士様が掴む。

 咄嗟に振り払おうとするも、微動だにせず。

 此方です、と囁く声や、促す仕草は静かだが。

 腕を掴む手は堅く、引く力は強い。


 修道士様方は皆、頭巾で顔を隠しており、表情は伺えない。

 声を揃えて此方へと、それだけを繰り返す人々に囲まれ、埋もれ、流されていく。

 此方って、何処ですか、と。

 息苦しさの中で、どうにか問いを投げかければ。

 ほんの一瞬さざめきが消え、腕引く人がくるりと振り向いた。


「教会です」


 それは、相手が修道士である時点でぼんやりと予想できていた場所ではあった。

 ……ただ、そう聞いて私が思い浮かべた教会よりも、少し遠くて、大分大きな教会であったのだけれど。


 大通りから教会は目と鼻の先であるというのに、馬車に乗せられた時点で、おや、とは思ったものの。

 逃亡防止かな、と納得し、揺れに身を任せていれば。

 どうも何時まで経っても止まる気配はなく、ついには国境を越え。

 辿りついたは、とある宗教国。

 聖都、聖地、などと呼ばれるその国の中心に。

 悠然と起つ、この世界で一番大きな教会で。


 その荘厳な佇まいに見惚れている内、奥へ奥へと誘導され。

 いつの間にやら、周囲を囲む修道士様方はいなくなり。

 かわりに現れたのは修道女様方。

 彼女らの手で手際よく、修道女を真白くしたような格好に着替えさせられた後。

 特に何の説明もなく、荘厳な祭壇の前に放置され。


 ぽつんと一人佇みながら、祈りを捧げるポーズくらいはとるべきだろうか、と。

 そんな事をぼんやり考えているところに、コツリコツリと足音を鳴らし。

 現れた人は、やはり修道服に身を包んでいた。


 修道服の男性は、私の真横で足を止めると、祭壇に向かい跪き、流れるような動作で祈りを捧げてみせた。

 祈りを終えると、男性はすっと此方を向き。

 顔を隠す頭巾を、徐に取り払った。


 白い布の下から現れた白金の髪と、碧の目に。

 そういえば、最近顔を見せなくなったかと思えば、何をしているのかこの男は、と。

 一気に気が抜けて。


「髪、切ったんですね」


 そんな風に、わざとずれた言葉をかければ。

 男は一瞬、虚をつかれたような顔になってから、ふっと目を細め、まあな、と薄く笑った。

 こんな色をしていたんだな、と、髪を一房つままれ。

 そういえば、髪色が完全に戻ってから会うのは初めてだな、と気付く。

 物珍しそうな顔で眺めながら、男は摘んだ髪を指に巻きつけて遊びはじめた。


 それで、この状況は何なのでしょうか、と溜息混じりに問えば。

 君は今、結構厄介な状況にある、と。

 そう言って、男は意味深な笑みを浮かべた。


 ・・・・


 どうやら私は、稀有な力を持つ存在として教会に目をつけられてしまった、らしい。

 教会としては今のところ、私の力が悪しき事に利用されないよう保護した、というスタンスでいるが、どう転ぶかはまだ不明であるという。

 私を危険視し、いっそ私を処分してしまった方が良いのではと考える方々も多いらしい。


 例の白い悪魔の件を持ち出して、異端審問にかければ一発死刑確定だそうで。

 それすら端折って速やかに殺処分してしまっても良いわけで。

 このまま何もせずここに居れば、命の保証はないな、と。

 独り言のように呟き、男は笑う。


 なら逃してもらえませんかね、と眉を下げるも。

 逃げたところで状況は悪化するだけだろう、と肩を竦められてしまい。

 確かにそうですね、と肩を落とした。


「死にたくないのなら、生かしておきたいと思わせれば良い。簡単だろう、君はただ、君の価値を示せば良いだけだ」


 囁くようにそう言うと、男はさっと頭巾を被り直し、素っ気なく背を向けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ