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 帰りたいか、と。

 そう男に問われ、私は苦く笑った。


 コチラに来たばかりの頃であったら、迷いなく頷いていただろう。

 今は、もう、簡単には選べなくなってしまった。

 だって、もう、馴染んでしまった。

 時が経てば経つほど、大切だと思える「縁」が増えていく。

 それは幸せな事だけれど……。


 不意に袖を引かれ、思考が途切れた。

 どうかしましたか、と小首を傾げれば、男はどこか不機嫌そうに目を眇め。

 別に、と。

 そう言いながらも袖を掴む手が離されることはなく。

 もしかしたら、引き留めたいと、そう思ってくれたのかな、と。

 だとしたら、案外……。


 ふっと口元を緩めた私に気付き、男はむっと眉を顰めた。

 掴んでいた袖を放るようにして離すと、素早く立ち上がり、此方に背を向ける。


「それなりの報酬を用意するというのなら、帰る方法を探してやっても良い」


 どこか拗ねたような口調でそう言い捨て、足早に玄関へと向かう背中を、いつになく微笑ましい気持ちで見送った。


 ・・・・


 さて、どうしようか。

 ころりと居間の床に寝転がり、天井を見上げた。


 それなりの報酬を用意した上で、帰りたいと、そう望めば。

 本当に探してくれるのだろうか。見つけて、くれるのだろうか。

 自分で調べようとしたこともあったが、その時は何の成果も得られなかった。

 だが、あの男ならば。

 案外簡単に、見つけてきてくれるかもしれない。

 あるいは、もう、ある程度の見当はついているのかも。


 だとしたら。


 だけど……。


 ふわふわと、ゆらゆらと。どうにも心は定まらない。

 ゆるりと閉じた瞼の上に、ふと影が差した。

 じっと視線が降り注ぐ。

 何となく、寝たふりをしていれば、ふにりと頬をつままれた。

 ふっと息を吐いて、目を開ける。


 思ったよりも大分近くにあった彼の顔に、目を瞬かせてから、その額を軽く弾いて。

 じゃれるように伸ばされた手を、此方も戯れにゆるりと避けて。

 ぽんと床を手で叩けば、ころりとすぐ隣に寝転がる彼の素直さに。

 ああ、癒されるな、と。

 とりあえず、このままで良いかなと、そんな風に思って。


 今のところは、それを「答え」にしてしまおうかと。

 ぼんやり心を決めて、微笑みながら目を瞑った。

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