14
じっと此方を見下ろしてきたかとおもえば。
不意にすいっと髪を一房掬い取り、すんと鼻を鳴らした彼に。
何だか居心地の悪さを感じ、ソワリと瞳を揺らした。
くっと眉間に皺を寄せた彼に担ぎ上げられ、ぽいっと風呂場に放り込まれる。
煙草の臭いを落とせ、という事だろうな、と。
苦笑し、桶に手を掛けた。
夏の暑さやら何やらで滲んだ汗を水で流し、ふっと息をつく。
何でこんな、浮気がばれた、みたいな気分に……。
わしゃわしゃと髪をかき回し、頭から水を被る。
流れる水の色が、いつもより黒ずんで見えた。
そろそろ染め直さなきゃな、と。
ぼんやり考えつつ、毛先を摘む。
それとも、このまま元の色に戻るまで放っておいてみようか。
ここでは暗い髪色の人の方が多いからと、目立たないように合わせていたけれど。
それなりに馴染んだ今なら、髪の色を少し珍しがられるくらい、支障はないかもしれない。
そんな事を考えつつ、脱衣所から出れば。
どうやらずっと待機していたらしい彼に、ひょいっと再び担ぎあげられた。
「冷たい」
そう呟いた彼の声は、どことなく嬉しそうで。
水で冷やされた体が心地良かったのだろう。
それから暫くの間、私は抱き枕と化した。
・・・・
「君は白いな」
何を唐突に、と男を見下ろせば、碧い瞳が含みを持って見上げてくる。
髪も、本来は白いのか、と。
大分色素の抜けてきた髪を、男の手がつっとなぞった。
「まあ、今よりもう少し、白っぽい色ではありますが」
それがどうかしましたか、と、手を動かしながら尋ねれば。
面白い話を小耳に挟んだと、男が薄く笑う。
森を抜け、海を渡った先に「あった」国の話だ。
その国を、1日で滅ぼした魔法使いが「いた」という。
しかも、それはつい数年前の出来事らしい。
語りながら、男はどうも此方の反応を伺っているようで。
それに気づかないフリをしながら、当たり障りのない相槌を打った。
男の声で語られるそれは、実際にあった話というよりは、おとぎ話か何かのようで。
どうにもむず痒いような、何とも言えない気分になる。
生まれ持った髪の色は、冬の空の色に似た、ごく薄い青。
故郷においても、その色は特別珍しいものだった。
そういえば、あの時着ていた制服も、白っぽい色をしていたな、と。
ぼんやり思い返し、苦く笑った。