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 じっと此方を見下ろしてきたかとおもえば。

 不意にすいっと髪を一房掬い取り、すんと鼻を鳴らした彼に。

 何だか居心地の悪さを感じ、ソワリと瞳を揺らした。

 くっと眉間に皺を寄せた彼に担ぎ上げられ、ぽいっと風呂場に放り込まれる。

 煙草の臭いを落とせ、という事だろうな、と。

 苦笑し、桶に手を掛けた。


 夏の暑さやら何やらで滲んだ汗を水で流し、ふっと息をつく。

 何でこんな、浮気がばれた、みたいな気分に……。

 わしゃわしゃと髪をかき回し、頭から水を被る。

 流れる水の色が、いつもより黒ずんで見えた。


 そろそろ染め直さなきゃな、と。

 ぼんやり考えつつ、毛先を摘む。


 それとも、このまま元の色に戻るまで放っておいてみようか。

 ここでは暗い髪色の人の方が多いからと、目立たないように合わせていたけれど。

 それなりに馴染んだ今なら、髪の色を少し珍しがられるくらい、支障はないかもしれない。


 そんな事を考えつつ、脱衣所から出れば。

 どうやらずっと待機していたらしい彼に、ひょいっと再び担ぎあげられた。


「冷たい」


 そう呟いた彼の声は、どことなく嬉しそうで。


 水で冷やされた体が心地良かったのだろう。

 それから暫くの間、私は抱き枕と化した。


 ・・・・


「君は白いな」


 何を唐突に、と男を見下ろせば、碧い瞳が含みを持って見上げてくる。

 髪も、本来は白いのか、と。

 大分色素の抜けてきた髪を、男の手がつっとなぞった。


「まあ、今よりもう少し、白っぽい色ではありますが」


 それがどうかしましたか、と、手を動かしながら尋ねれば。

 面白い話を小耳に挟んだと、男が薄く笑う。

 森を抜け、海を渡った先に「あった」国の話だ。

 その国を、1日で滅ぼした魔法使いが「いた」という。

 しかも、それはつい数年前の出来事らしい。

 語りながら、男はどうも此方の反応を伺っているようで。

 それに気づかないフリをしながら、当たり障りのない相槌を打った。


 男の声で語られるそれは、実際にあった話というよりは、おとぎ話か何かのようで。

 どうにもむず痒いような、何とも言えない気分になる。


 生まれ持った髪の色は、冬の空の色に似た、ごく薄い青。

 故郷においても、その色は特別珍しいものだった。

 そういえば、あの時着ていた制服も、白っぽい色をしていたな、と。

 ぼんやり思い返し、苦く笑った。

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