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 わざわざ総出で見送ってくれた魔族の皆さまに、また来ますと頭を下げて。

 情が深いのか、口々に惜しんでくれるのは嬉しいが、いつまでも終わらない別れの挨拶に。

 もういいだろうと途中で彼に首根っこを掴まれ、引きずっていかれつつの締まらない別れとなった。

 その彼とも森を出る前に別れ、のんびりと帰路につく。


 途中で知り合いとすれ違うたび、何処行ってたんだと、頭やら肩やら背中やら、あちらこちらで軽く叩かれ。

 曖昧な笑みを返せば、それ以上は突っ込んでこない優しい距離感に、ほわりと癒しを感じて。


 そうして、暫くぶりに帰った我が家に、ほっと気を休める。

 ……と、いうわけにもいかないらしい。


 玄関先に陣取って、ぼんやりと煙草をふかす男が1人。

 生きてたんですね、と。

 呆れを乗せて呟いた私に、男はゆるりと口の端を持ち上げてみせた。


「まあな」


 失ったものは大きいが、と、そう小さく付け加え、ふうっと紫煙を吐き出して。

 無造作に下ろされた髪に、よれたシャツとスラックス。

 つい数日前までの、伯爵と呼ばれ、煌びやかな会場を取り仕切っていた男の姿を思い返し。

 おや、と小首を傾げた。


「髪、染めたんですね」


 記憶にある男の髪は、もっと明るい色だったような。

 どんな色だったか、はっきりとは覚えていないが。

 きょとん、と此方を見上げてくる瞳は碧い。

 そういえば、こうして男の持つ色彩に改めて注意を向けたことはなかったな、と。

 ぼんやりと考えながら、濃い茶色の髪を一房摘む。

 自分で染めたのだろうか?

 傷んだ毛先が指に引っかかった。


 気にするところはソコか、と脱力した様子の男に薄く笑う。

 もっと綺麗に染め直してあげましょうか。

 そう提案すれば、男はこくりと頷いた。


 ・・・・


 とりあえずソレでも飲んでてくださいと、作り溜めてあった香草入り果実水の瓶を放る。

 作ってから数日経ち、色が悪くなってしまっているが、品質に問題はない。

 普段は作りたての色鮮やかなものを、その日の内に売り捌いている。


 適当にその辺で寛いでおくように言い、髪を染め直すための準備に取り掛かった。

 風呂を沸かしつつ、染料を作り、体を覆うための布やら何やらを抱えて居間へと戻れば。

 床に寝そべり、無防備に寝息をたてる男の姿。

 やや長めな前髪の隙間から見える寝顔は、妙に幼く見えた。


 深い眠りに落ちているようで、近づいても起きる気配はない。

 男の頭を持ち上げ、持ってきた布を差し込んだ。

 髪に指を差し込み、気を微量に流し込みながら撫でる。

 傷みを修復していくと同時に、髪の色も薄くなっていった。

 淡い金が、元々の色らしい。

 傷んで跳ねていた毛先もおちついて、さらさらとした真っ直ぐな髪は撫でていて気持ちが良い。


 綺麗な色を染めてしまうのを勿体無く思いながら、染料を塗っていく。

 気を練り込みながら作った植物由来の染料は、髪を傷める事なく染み込んでいった。

 目をさます頃には、しっかり色素が定着していることだろう。

 寝返りを打っても良いように布で頭を包んでから、その場を離れた。


 ・・・・


「あ、綺麗に染まったみたいですね」


 料理中の匂いに釣られてか、ふらりと台所に現れた男を一瞥し、火を止める。

 男の、やや緑がかった茶色に染まった髪を摘み、うん、と頷いた。

 傷みのない髪は艶やかで、碧い目にも馴染んでいるように思う。

 似合ってますよ、と褒めてから、寝起きのせいか薄ぼんやりとしている男を風呂場に案内し、着替えと手拭いを手渡した。


 夕飯が完成した頃に、ちょうど良く男があがって来た。

 浴衣は着慣れていないようで、だいぶ着崩れている。

 ただ、気怠い雰囲気を纏う男にはそのほうが似合っている気がしたので、まあ良いかとそのままにしておいた。


 無言で食卓を囲み、食後のお茶をこれまた無言で啜る。

 男が窓を開けて一服しはじめたところで、洗い物に取り掛かった。

 台所が片付いたら居間に布団を敷き、風呂に向かう。

 風呂あがりに居間を覗くと、窓枠に肘をついてぼうっとしていた男と目が合った。


「一緒に寝るんじゃないのか?」


 おやすみなさいと手を振れば、真顔でそう返されて。

 きょとん、と暫し二人で見つめ合い、ああ寝ぼけているのかな、と。

 緩い笑みを浮かべ、ぱたん、と居間の戸を閉めた。

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