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 興奮で沸き立つ魔族たちの間をすり抜け、彼の元へ走る。


 彼は仲間に囲まれ、ぐったりと横たわっていた。

 無茶な戦い方をしたのだろう。

 私のためだけに、という訳でもないだろうけれど、それでも……。

 戦いぶりを見る事が出来なかったことを、少しだけ残念に思った。


 血だらけの体の横に、膝をつく。

 久しぶりに見る傷だらけの姿に、ほんのり懐かしさを感じつつ。

 いつも通りに治そうとしたところで、ふと、周りからの視線に動きが鈍る。

 じっと此方を見つめる目には好奇心。

 私という存在に対してか、この能力に対してか、それとも。

 分からないが、何にせよ、落ち着かない。


 切迫した状態ではないし、口から流し込むのは止めておこう。

 瞬時に決め、そっと彼の胸に掌を当てた。

 治る速度は緩やかになるが、仕方ない。

 私にも、恥じらいというものがあるのだ。


 治す傍ら、興味深々といった様子で質問が飛んでくる。

 能力について少し、彼との関係性について大量に。

 それらにぽつりぽつりと答えたり、愛想笑いで躱したり。

 そうしている内に、ぴくりと彼の瞼が震え。


 ぱちり、と、目を開くなり。

 素早く後頭部を鷲掴みにされ、ぐっいと引き寄せられた。

 重なる唇。

 驚く声と、茶化すような口笛。


 意図を察し、素早く気を流し込む。

 傷が癒えると同時に、唇が離れた。

 もう少し、人目を気にしてもらいたかったです、と。

 文句を言うが、どこ吹く風。


「この方が早い」


 そうしれっとした顔で宣うと、ひょいっと抱きかかえられ。

 きょとん、と彼を仰ぎ見れば。

 この方が速い、と、囃し立てる周囲を完全に無視して歩き出す。


「良いのか、崩れるぞ」


 一度背後を振り返り、ごく冷静に指摘した彼の声と重なるように。

 バキリ、と、天井が大きくひび割れ。

 低い地鳴りの音と共に、小刻みに揺れる地面。

 慌てふためく周囲を尻目に、さっさと走り出した彼に、焦った様子の仲間が続く。


 その光景を、何か漫画みたいだな、と。

 そんな風に、ぼんやり思いながら小さく笑った。


 ・・・・


 皆が寝静まった中を、月明かりと夜光草を頼りに歩く。

 ここは森の奥深く、不可視の結界に守られた、魔族たちの隠れ里の中だ。

 彼に抱えられた状態でココに辿り着いたのは昨日のこと。


 初めはぽかんと目を丸くして固まっていたものの、急に現れた余所者にも関わらず暖かく迎え入れてもらい。

 食事やら風呂やら寝床やら着替えやらと、善意に甘え、あれこれお世話になってしまった。

 若い娘さんたちが興味を持っていたようなので、真っ白ふわ甘なあの服をお礼代わりに差し出しておいたが、後々改めて何か贈ろうと思う。


 そんな事をぼんやり考えつつ、目についた香草を摘み、さて戻ろうか、と思ったところで。

 ザッ、と枝葉を揺らし、肩に雌鹿を担いだ彼が落ちて来た。

 雌鹿の首に噛み跡を見つけて、ふと彼の種族を意識する。

 人の血じゃなくても大丈夫なんですね、と。

 何気なく言った後で、不躾だったかなと後悔したが、彼は特に気にした様子もなく、あっさり頷いた。


 人の血が一番美味く感じるが、と、そう補足され。

 なら、私の血を飲んでも良いですよ、なんて。

 そう持ちかけたのは、ちょっとした好奇心と、助けに来てくれた事へのお礼になれば、という気持ちから。


「馬鹿かお前」


 軽く目を見開いた彼は、少しの沈黙を挟み、ふうっとため息を吐いた。

 どさり、と雌鹿を地面に下ろし、一歩此方に近づくと。


 ぐっと私の顎を持ち上げ、そのまま……


 ……ぐにり、と頬を挟み潰した。


 崩れた顔を無言で見下ろされ、へにゃりと眉を下げる。

 ふっと鼻で笑い、彼は雌鹿を担ぎ直した。

 そのまますたすたと歩いて行く彼を見送り、私に捕食対象としての魅力はないってことかな、と。

 そう納得しつつ、赤くなった頬をさすった。

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