08.キレイゴト、きまぐれ。
厳しい環境で育った彼女。あらゆる英才教育を完璧にこなしてきた。それ自体を、さほど苦に思ったことは無いのだろう。
多忙の中で自分の自由な時間を作り、部活に打ち込み、勉学にもよく励み、周囲の大人たちからの評価は絶大だ。
「うーん、今日は生け花と作法か…。明日は舞踊…」
常人なら気がおかしくなるほどのスケジュールをこなす彼女。今日の習い事の前に部活にも顔を出すつもりらしい。
「えーっと、基礎練ぐらいならいいよね?」
放課後、携帯にメモした予定を見ながら、音楽室に足を運ぶ彼女。
そんなに音楽が好きなのか、と尋ねる。
「ふふ、大好きだよ。すごく好き。
音楽は私の世界を広げてくれる」
綺麗事そのもの。それを素で思っている彼女は、本当にお綺麗な人間だ。
「ねぇ、私が愛したものを、キミは愛してくれないの?」
寂しそうに言う彼女。それは彼女も同じなのに。
「…そっか」
答えずにいると、彼女はこちらの沈黙を答えと受け取ったようで、少しだけ微笑んだ。
「同じなのに、なんで違うんだろうね…」
そんなの、何に魅力を感じるか違うからじゃないのか。いつもならそう思うのだけれど、非常に安らいだ表情の彼女の前には、何も思えなかった。