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被告・上原透(殺人) 一日目Ⅱ
心は緊張せずとも、俺の身体は裁判所周辺の
街路樹のように固まっている。そんな初裁判の
緊張も裁判長の目の前に立ち尽くしている
不整髪が目立ち、フレームが少々歪んだ
メガネをかけ、無情髭を顔に生やしている
如何にもな風貌をした被告人によってほぐされ、
代わりにどうしようもない不安感が俺を襲う。
「被告人は氏名、職業、年齢を述べよ」
おそらくは視力が悪いわけではなく、
意図的な鋭い眼つきで裁判長が
顔にかかるグレーの髪を手でよけて
被告を覗きこむように促す。
裁判長というのは会議でいう所の
議長と同じような役割を担っている、
要はこの小法廷内で一番偉い存在だ。